第637話 不機嫌!

 俺はコスカとライラの二人と戦う前に、カルアを呼び【結界】を多重にする様に伝える。

 カルアは自分の【結界】に絶対の自信を持っているので、不機嫌そうにしている。

 しかし、俺がルーカス達の部屋に入る際、カルアの【結界】を壊した事を話すと、思い出したように悔しそうな表情をして、俺の言う通り【結界】を多重に張ってくれた。

 多重にしたのは俺への嫌がらせもあるのだろう。


「私はセルテート達のようには、いかないわよ!」


 コスカが俺に向かい、挑発的な言葉を投げつけてくる。

 その横で、ライラは緊張しながら俺が贈った杖を握り締めていた。


 俺はオートスキルから【魔法反射(二倍)】を外したまま、闘う事にする。

 ステラはセルテートが倒された事に怒っているのか、俺に対して素っ気無い態度だった。


「ステラ、さっさと始めるわよ」


 コスカは、やる気に満ちていた。

 俺は【魔法反射(二倍)】無しで、どこまで戦えるのかを試すつもりでいた。


 ステラの開始の合図で、戦闘が始まった。


 コスカは詠唱を始めていた。

 ライラも同様に詠唱を始めている。

 ……無防備なので、攻撃し放題だ。

 前回は、先程のセルテートと同じように頭上で回して戦闘不能にした。

 よく漫画やアニメで、首元を手刀で叩くと気絶するのをよく見るが、原理が良く分からないし、間違って首の骨を折ってしまうかも知れない恐怖感から、この世界でも出来ないでいる。

 正確には一度だけ、ステラに使おうとした事があったが、セルテートに阻止された。

 見よう見まねの生半可な知識で使わなくて良かったと、後悔した記憶がある。


 俺が律儀に詠唱が終わるのを待っていると、詠唱が終わったようだ。


「とりあえずはこれで様子見よ。【炎弾】!」 


 【火球】の上位魔法だ。

 術士の実力により弾の数が異なる。

 コスカの場合は、五つだ。

 俺は、飛んで来た全ての炎に拳を叩きつける。

 激しい爆音と煙が立つ。

 俺がどうなっているかは、観客席やコスカ達でさえ分からないだろう。


「呆気ないわね」


 コスカの嬉しそうな声が聞こえてきた。

 勝利を確信したのだろうか?

 煙が落ち着くと、無傷の俺が煙の中から姿を現した。

 コスカの【炎弾】では俺の皮膚が軽い火傷をする位だった。

 それも、【自己再生】ですぐに治る。


「うそ……」


 無傷の俺が信じられない様子だ。

 そう思っていると、地面から螺旋状に電気の帯のようなものが俺を取り囲んだ


「まだです!【螺旋雷らせんらい】」


 螺旋の渦は徐々に小さくなっていき、俺の体を電気が襲う。

 自分の手元から繰り出す魔法と違い、位置を正確に把握して繰り出す魔法は難易度が高い。

 今、ライラが使用した【螺旋雷らせんらい】は、その魔法になる。

 電気を受けながら、ライラの成長を嬉しく感じていた。

 光が弾ける様にして、【螺旋雷らせんらい】の攻撃が終わる。


「いい攻撃だな」


 ライラに向って、笑顔で感想を言う。

 無傷の俺を見ると、ライラは勿論だが、コスカやステラも驚いていた。

 しかし、アラクネ族の服は、この攻撃にも破損することは無い。

 素晴らしいと、服を引っ張ったりしてみていると馬鹿にされたと思ったのか、コスカがライラに合図を出して詠唱を始めた。

 同じ詠唱なので、同じ魔法で攻撃するつもりなのだろう。

 詠唱が終わると、同じ魔法名を叫んだ。


「【炎波】!」


 俺を炎の波が取り囲む。

 熱いのは我慢出来るが、徐々に息苦しくなる。

 酸素が無くなって来ているのだろう。

 炎が消えるまで、息を止める事にする。


 炎の中から、無傷の俺が見えると、コスカは一気に険しい顔になる。


「ライラ、最大魔法よ!」

「はい!」


 コスカの最大魔法は確か、【爆炎破】の筈だ。

 ライラはステラとの戦いで見せた【雷砲】だろう。

 カルアの【結界】で周囲に被害は無いと思うが、直撃すれば死んでもおかしくない攻撃だ。

 それと、コスカの事だから万が一の事を考えて、【魔法壁】で身を守っているに違いない。

 ライラも同様に使用している可能性もある。


 先に詠唱を終えたライラが俺に向かって、【雷砲】を放つ。

 少し遅れてコスカも【爆炎破】を放った。

 俺は【雷砲】を掌で叩き、軌道を変える。

 叩いた瞬間に、痺れるような痛い感覚はあったが【雷砲】の威力は衰える事は無かった。

 軌道を変えた先には【爆炎破】が俺に向かって来ている。

 お互いの攻撃が衝突した瞬間、先程以上の爆音が響く。

 飛び散った火や、電気が漂っているのか小さな雷のようなものが発生していた。


 自分達の最大攻撃が効かなかったのがショックだったのか、コスカは呆然としていた。


「次は俺から攻撃する」


 俺は【火球】を出す。

 それも、物凄く小さい。

 コスカは俺が無詠唱いや、魔法名を言わずに魔法を発動させた事に気が付いていなかったが、ライラとステラは気付いたようだった。


 俺は【火球】を軽くコスカに向い投げる。


「そんな【火球】で私が倒せると思っているの」


 笑いながら【火球】を避けると、コスカの足元に落ちる。

 その瞬間、地面は吹き飛びコスカも上空へと放り出される。

 しかも闘技場全体に火が回り、カルアの【結界】も全て破壊される。

 カルアとステラは、魔法で消火活動を行う。


「俺の勝ちでいいか?」


 消火活動を終えたステラに勝敗を確認する。

 コスカは隅の方で、意識を失っていた。

 俺の魔法力の方が上だったようで。コスカの【魔法壁】も呆気なく破壊したようだ。


「そうですね。貴方の勝ちです」


 不機嫌そうに、ステラは俺の勝利を口にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る