第629話 お手伝い!
部屋には誰も居ない。
急な訪問だったので、仕方が無い。
「ネイラート達を連れて来ても良いのか?」
ジラールに尋ねる。
「あぁ、問題無いが……」
ジラールとヘレンは、俺がどうやってネイラート達を連れて来るのか、関心があるようだった。
「とりあえず、シロとクロを呼ぶ」
「分かった」
シロとクロに人型で登場する様に伝える。
そしてシロに、ジラールとヘレンの気を引くように頼む。
クロには、ジラール達の気がシロに向けられたら、すぐにネイラートとイエスタを影から出すように頼む。
二人共、何も言わず行動に移してくれる。
本当に一瞬だっただろう。
シロが窓辺に移動して、「窓を開けても良いですか?」と聞き、「勝手に開ける事は出来ない」とジラールが答え終わると、俺の横に見知らぬ男性二人が居る。
「シャレーゼ国の第一王子のネイラートと、護衛のイエスタだ」
俺はジラールとヘレンに紹介をする。
「こっちがエルドラード王国冒険者ギルドのグランドマスター、ジラールだ。隣に居るのはサブマスのヘレンだ」
ネイラートとイエスタにも紹介をする。
ジラールとヘレンは突然、人が現れた事に驚き、ネイラートとイエスタは、目を開けたら全く違う場所に居た事に驚いていた。
「……何をしたんだ?」
「それは秘密だ」
ジラールの問いに答える。
ネイラート達には、他の者達は俺が保護しているので安心するように伝える。
「ここからは、俺に関係の無い話になるだろうから、席を外す。俺に用事があれば、連絡をくれ」
国の重要な話し合いに、いち冒険者である俺が同席すべきでない。
俺の依頼は、ネイラートをここまで連れて来る事だ。
「確かにそうだな。では、これを渡しておく」
ジラールは冒険者ギルド承認の城への通行許可証を、俺に渡す。
俺が居なくなると知ったネイラートは、不安そうだった。
「殺される事は無いから大丈夫だろう」
笑顔で冗談を言ってみる。
「じゃあ、またあとでな!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
修復作業中の様子を見ながら歩く。
シロとクロには、獣型に戻って貰った。
左腕でシロを抱えて、右肩にクロを乗せている。
シロは尾を一本にして、クロは額の眼を隠している。
白猫を抱えて、鴉を肩に乗せている冒険者にしか見えない筈だ。
しかし、城の中では似つかわしくないのか目立っていた。
「駄目だな」
「そうだな。しかし、これが運べないと次の作業に進めないし、工程が大きく遅れるぞ」
作業員同士の会話が耳に入って来た。
どうやら、石材を運んでいた台車が壊れたようだ。
このまま、知らぬふりをして通り過ぎても良かったのだが……。
「どうした?」
俺は作業員達に話し掛ける。
「あぁ、はい。実は……」
先程、聞いた内容を説明する。
俺を身分の高い者だと勘違いしている口調だ。
「俺は冒険者だから、普通に話していいぞ」
「そうでしたか。しかし、困ったな……」
「どこまで運ぶ予定なんだ?」
「あぁ、はい。あそこまでです」
作業員は運ぶ先を指差した。
俺はシロとクロを作業の邪魔にならない場所に下ろす。
「俺が運んでやる」
「いやいや、冒険者でも無理ですって。どれだけの重さがあると思っているんですか」
作業員の声を無視して、石材を片手で頭の上まで持ち上げる。
「案内してくれ」
「は、はい」
簡単に石材を持ち上げた俺に驚いていた。
他で作業していた作業員達も手を止めて、俺を見ていた。
「他に運ぶ物があれば、言ってくれ。ついでに運ぶぞ」
「それは助かる」
俺はそれからも、何回も往復をして石材等の重量物を運んだ。
作業員達とも、徐々に打ち解けていく。
「兄ちゃんのおかげで、随分と工事が進んだ。ありがとうな」
「まぁ、ついでだし気にするな」
「兄ちゃんも冒険者だってな。今日からか?」
俺がクエストを受注して、修復作業の手伝いをしているのだと勘違いしているのだろう。
「俺はクエストで来た訳じゃないんだ。ちょっと、城に届け物があったので、そのついでに手伝っただけだ」
「そうなのか! 兄ちゃんが居れば、俺達も助かったんだがな。ってか、タダ働きか!」
「まぁ、そうなるな」
俺が素っ気なく答えると、話し掛けてきた作業員は驚く。
「そうだったのか、なんか悪かったな」
「気にしなくていいぞ。俺も早く修復し終えた城を見てみたいしな」
俺が答えて、数秒後に大きな音がした。
「どうした?」
「もしかしたら、事故かも知れん!」
俺は作業員と一緒に、大きな音がなった場所の方へと走った。
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