第630話 崩落!

「大丈夫か!」

「おい、その石を早くどけるぞ!」


 大きな音がした場所に着くと土煙と共に、積まれていたであろう石材が崩落していた。

 何人かが石材をどけようとしているが、なかなか移動させる事が出来ない。

 下敷きになった作業員が居るらしい。


「どけっ!」


 気が付くと俺は作業員達を押しのけて、瓦礫と化した石材等を取り除いていた。

 

「危ないから、下がっていろ!」


 俺が大声を上げると、作業員達が後ずさりする。

 俺はが瓦礫を持ち上げて、その空いた場所に瓦礫を置く。

 いとも簡単に瓦礫を持ち上げる俺に、先程の事を知らない作業員達は驚く。

 俺はきにせずに、次々と瓦礫を撤去していく。

 ある程度まで石材を取り除き、作業員を発見したので怪我の具合を見て、作業員に声を掛けて救出して貰う。

 俺は、すぐに別の場所で救出作業に入る。

 本当であれば、俺が全て出来るが下敷きになった作業員を心配するのは皆、同じ事だ。

 特に同じ現場で働いていた者達は、仲間意識もあるので俺以上に心配をしている。

 命に別状が無い事は分かっていたので、彼等に任せることにした。


 数分後、下敷きになった作業員が全て救出される。

 作業員達にも確認したが、間違いなかった。

 幸いな事に、死者は居なかった。

 しかし、大怪我を負った作業員も居たので、怪我人の所まで歩き、声を掛ける。


「大丈夫か?」

「あぁ、なんとかな。あんたのおかげで助かったよ」


 動こうとするので、俺は治療をする事を伝えて手をかざした。


「痛い所は無いか?」

「あっ、あぁ……治ったのか?」

「そうだ」


 俺は他の怪我人達も【神の癒し】で治療をして回る。

 怪我人達は、「怪我する前より元気になった!」と喜んでいた。


「俺にも、その魔法掛けて貰えるか?」

「あぁ、いいぞ」


 疲労していた作業員が声を掛けて来たので、【神の癒し】で回復させる。


「……凄いな」


 信じられない様子で、自分の体を触っていた。

 その様子を見ていた作業員達も、「俺にも!」と俺の所に集まってくる。

 頑張って修復してくれている作業員なので、俺は集まった作業員達にも【神の癒し】を順番に掛ける事にする。

 気が付くと、俺の治療待ちの順番が出来ていた。

 列に並んでいる作業員や冒険者の中には、見た事のある者も何人か居た。

 しかし、知っているのは俺だけで、向こうは初対面になる。

 以前に俺と親交が深かった者は居なかったので、簡単な言葉だけを交わす。


 冒険者の中には、俺の魔法に驚く者も居る。

 無詠唱どころか、魔法名も言わないのは今迄、見た事が無いと口々に言う。


「もしかして、名のある冒険者なのか?」

「さぁ、どうだろうな」


 名前を聞かれても、惚けて返す。

 自分の名を売る為にした行為では無いので、自ら名前を名乗る事はしない。


 治療していると、シロとクロが駆け付けてくるので、いつも通りにシロを抱えて、クロを肩に乗せる。

 治療は右手のみで行うが、シロとクロが居る事で風変わりな冒険者だと印象付けたようだ。

 思っていたよりも早く並んでいた員達に【神の癒し】を掛け終えた。


「兄ちゃん、凄いな!」


 治療が終わるのを待っていたのか。俺と一緒に現場に来た作業員が話し掛けてきた。


「まぁな」


 誤魔化すように笑って返す。


「まぁ、全員無事で良かったな」

「兄ちゃんのおかげだな」

「いや、彼等が日頃から良い事をしていたから、神が助けてくれたんだろう」

「成程な。上手いこと言うな」


 俺が作業員と会話をしていると、少し離れた所が騒がしかった。


「どうかしたのか?」

「さぁ」


 なんの大騒ぎかを俺と話をしていた作業員が、別の作業員に聞く。

 どうやら、事故を聞いて責任者等が来たそうだ。


「じゃあ、俺は行くわ!」

「そうか、色々とありがとうな」


 責任者と呼ばれている者は、位の高い者なので、俺が知っている者の可能性が高い。

 もし会えば、今回の件で色々と聞かれる。

 面倒だというよりも、ルーカス達にも呼ばれている手前、それ以前に問題を起こしてしまうと俺の印象が悪くなる。

 事件を起こしたわけでは無いが、問題に巻き込まれやすい事は自分でも分かっているので、それを避けるように心掛けたつもりだ。

 当然、責任者が誰かは知らないが、逃げるように崩落現場を後にした。

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