第623話 窃盗騎士団!
「お待たせして、申し訳ない」
戦闘準備が出来たイエスタ達は、遅くなった事を俺に詫びる。
「気にするな。それと言い忘れていたが、闘うのは俺一人で十分だ」
「相手は私の元部下達だ。どれ位の強さかは私自身がよく分かっている。一人で闘うなど無茶だ、死にに行くようなものだ!」
「だからだよ。元部下に剣を向けるのは辛いだろう」
仲間を攻撃する。
その行為を躊躇すれば、こちらが殺される。
なにより、仲間同士殺し合う姿を俺自身が見たくない。
「しかし!」
「死にそうだと思ったら、助けに来てくれればいい。それと、俺の実力も見ておきたいだろう?」
「それは、そうですが……」
イエスタが、俺の身を心配してくれている事は分かっていた。
俺はイエスタに笑顔を見せてから、反転して背を向けて出発するように、足を進める。
「ネイラート様。行って参ります」
「必ず生きて戻ってくるように」
イエスタはネイラートに出陣する旨を伝えた。
暫く歩いて、俺はイエスタ達に話す。
「そっちが他言無用と言っていたのであれば、これから起こる事も他言無用だぞ」
「分かった。約束する」
「じゃあ、行くか」
俺はそう言うと【転移】を使い、クロと合流する。
「……何が起きた。此処は何処だ?」
「主の転移魔法です。あと数分で前方より馬に乗った追っ手が現れます」
クロの説明が、頭に入っているのか分からないような顔をしている。
前より月の灯りでも分かる距離に迫って来た。
戦闘態勢に入るイエスタ達を横目に、俺は足を進めてイエスタたちの前に出る。
「姿が見えると面倒だから、隠れていろ」
イエスタ達が発見されれば、密告された内容が正しいと証明されてしまう。
俺が追っ手を殺した所で、その内容も間違いないと思われるかも知れないが、疑われている範囲を超えていない。
イエスタ達が何か言おうとするが、クロがそれを制止する。
馬の足音が徐々に大きくなる。
月の光に照らされて、追っ手の姿がはっきりと分かる。
向こうも歩いている俺に気が付いた様子だ。
「おい、お前。この辺りで我らと似た姿の者を見なかったか?」
「いや、知らないな」
俺は問いに答えて、通り過ぎようとする。
「待て!」
追っ手の集団を任されている隊長らしき男が俺を引き止める。
「お前の服は珍しいな。服を脱いで金品を置いてから去れ」
「嫌だと言ったら?」
「お前、俺達が騎士団と分かっていて、そのような事を言っているのか?」
「その騎士団が平民から、物を奪うのか? 随分と立派な騎士だな」
俺は呆れるように笑って答える。
追っ手の騎士達は、俺の態度に憤慨したのか俺を取り囲み馬から下りる。
腰の剣に手を当てると剣を抜き、剣先を俺に向ける。
「黙って差し出せば、命だけは助けてやったのに」
隊長らしき男は、馬の上から俺を見下ろして笑っていた。
「それは俺も同じだ」
俺は見上げて笑い返す。
「愚民が!」
隊長の声で一斉に俺へ攻撃をする。
俺は避けるだけだが、面白いように同士討ちになる。
「何をしている!」
不甲斐無い部下達の戦闘を見て、隊長は怒鳴る。
俺は襲い掛かってくる者達から剣を奪いながら倒していく。
「騎士団てのは、口だけの集団か?」
「おのれ!」
隊長が叫ぶと同時に俺に向かって、【火球】が飛んで来た。
どうやら、魔法を使える者がいるようだ。
俺は掌を【火球】に向けると二倍の大きさになり術者に向かって、戻っていく。
術を出した騎士と、その周囲にいた者達は巻き添えになる。
「ちっ!」
苛立つ隊長は馬から飛び降りると同時に、俺に斬りかかって来た。
その攻撃も俺は簡単に避ける。
のらりくらりと俺は攻撃を避け続ける。
追っ手の処分について、俺はどうするかまで考えていない。
殺すのか見逃すかは、ネイラートかイエスタが決める事だ。
「くそっ!」
自分の攻撃が俺に当たらない事に、更に苛ついている。
出来れば無傷で捕獲したい。
俺は剣を奪ってから縄で縛り付ける。
その後、倒れていた者達を一ヶ所に集めて縄で縛る。
そして【結界】で、追っ手の者達を外部から遮断をする。
しかし、馬が手に入った事は良かった。
俺はクロに合図をして、イエスタ達を連れて来て貰う。
俺達の姿や、声は聞こえないようにしている事を伝える。
追っ手の者達は、なにやら叫んでいるが無視する。
「どうするつもりだ?」
「ネイラート様の命を脅かす者は、私が殺すつもりです」
「分かった」
俺は【結界】を解く。
突然目の前に剣を構えたイエスタが現れた事に、追っ手達は驚く。
「俺達だって、国王様の命令だったからだ。頼む、命だけは!」
必死で命乞いをしていた。
しかし、イエスタは何も答えずに、追っ手達の命を奪っていった。
「幻滅しましたか?」
剣についた血を振り払い、俺に向かって話す。
「いや、裏切られると分かっているからこそ、殺したんだろう」
「そうです。今、ネイラート様を失う訳にはいきません」
イエスタは、確固たる決意がある事を俺に示す。
ネイラートがシャレーゼ国唯一の希望だからだろう。
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