第622話 他言無用!

「それは本当ですか!」

「あぁ、本当だ」


 追っ手が近付いている事をネイラートに伝える。


「一刻も早く、此処から去りましょう」

「駄目だ。夜の移動は危険が多い」


 イエスタが意見を述べるが、俺が却下する。

 ネイラート達は混乱している。


「俺が追っ手を退治してやろうか?」

「本当ですか!」

「あぁ。ただし、エルドラード王国に向う本当の理由を全て、隠さずに話して欲しい」

「タクト殿! それは、出来ぬ相談です」


 ネイラートが答える間もなく、イエスタが拒否をする。


「そうか。では、明日の朝まで生きていたら、エルドラード王国に案内する。じゃあな」

「待ってください!」


 ネイラートが帰ろうとする俺を引き止める。


「他言無用と約束して貰えますか?」

「勿論だ。隠し事をする奴に命は預ける事が出来ないからな」

「確かにその通りです。時間が無いので今は、簡単な説明でも良いですか?」

「ネイラート様!」

「イエスタ。タクト殿の言い分は尤もです」

「しかし……」


 イエスタは、出来れば極秘に事を進めたかったのだろう。


「タクト殿、宜しいでしょうか?」

「あぁ」


 ネイラートは慎重に言葉を選ぶように話し始めた。

 父親であり国王のウーンダイが突然、国民に対して増税を決定する。

 只でさえ国民の生活が厳しい中での増税に、大臣達の中でも反対する者が多数だった。

 しかし、国王の決定に意を唱えた者は反逆者と見なされた。

 大臣の何人かは見せしめに殺され、街に放置された。

 王妃と第一王子であるネイラートも反対をする。

 王族の為か、殺される事なく牢に閉じ込められた。

 その間、ウーンダイと第三王子タッカールにより、国民の生活は苦しくなり、餓死等も出始めるが、増税を止める事は無かった。

 騎士団長のイエスタも、国王に意を唱える者達を処分していた。

 それはイエスタだけでなく、騎士団の中でも「おかしい」と感じている者も居た。


「余に反逆する者は、その場で殺せ!」


 今迄、自分の気持ちを殺して我慢して来たイエスタだったが、ウーンダイのこの言葉で、イエスタは死を覚悟した上で、王妃とネイラートを救い出そうと考える。

 イエスタが口に出さなくても、イエスタを慕う騎士達にはイエスタの考えが分かっていた。


「団長の思いと、我等の思いは同じです」


 彼等も死を覚悟した上で、王妃とネイラートを助けようとしていた。

 王妃とネイラートを救出する際に、何人かの騎士達を失う。


「私がいては逃げるのに足手まといになります。ですから、貴方だけでも……」

「嫌です!」

「よいですか。必ずエルドラード国王に、この手紙を渡しなさい。エルドラード国王であれば、必ず力になってくれます」

「しかし!」


 王妃は第一王子のネイラートに全てを託す。


「ネイラート様。追っ手が来ます」

「ネイラート、行きなさい!」

「母上!」

「イエスタ。ネイラートを頼みます」

「この命に代えても、御守り致します」


 イエスタはネイラートを連れ出した。

 その後、エルドラード王国へ行くの逃走が続いていた。


「しかし、海を渡ってオーフェン帝国へ向っている情報を流したのに何故……」


 ネイラートが話し終えると、イエスタは疑問を口にする。

 別行動していた者達が、嘘の情報を流していたのだ。


「今迄、追っ手に遭遇した事はあるのか?」


 俺はイエスタに質問をする。


「いや、無い」

「それなら、誰かに見られた事は?」

「二日前に、近くの村の者に……!」


 密告したのは間違いなくイスノミの村の者だろう。

 でなければ、一直線に此処に向かっている説明がつかない。

 もしかして、モルタは分かっていて俺にネイラートを殺させようとしていたのか?

 そうだとすれば、はっきりさせておかなければならない。


「約束通り、追っ手は俺が始末してくる」

「俺も着いて行く」


 俺が約束を破って、シャレーゼ国側につく事を考えての発言だろう。


「あぁ、構わない。俺としても、その方が有り難いしな」

「我等も御供します!」


 騎士達が同行を求める。

 しかし、全員着たら誰がネイラートを護衛するのだろう。

 当然、イエスタも同じ事を思っていた。


「シロにも護衛をして貰うから、数人連れてきても大丈夫だ」


 最終的には、イエスタと他二人が俺に同行する事になる。

 俺はクロに位置を確認する。


「イエスタ達は用意してくれ。用意が終わったらシロに言ってくれ」

「分かった。すぐに用意する」


 俺はその隙にクロの所まで行き、場所を把握する。


「思ったより早いな」

「はい。迷わずに進んで来ています」


 やはり、モルタに確認をする必要があると思った。

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