第618話 聖獣と魔獣!

 モルタに案内された村は、俺が思っていた以上に荒れていた。

 エルドラード王国で幾つかの村を見て来たが、ここまで酷い事は無かった。

 村の境界を示す柵なども無く、いや正確にはあっただろうと思われる杭らしき物は残っている。

 遠目からでも崩壊した家屋が分かる。

 モルタ達の姿を見て、物陰から人が出てくる。

 獣等の外敵から、常に怯えながら生活しているのだろう。

 モルタ達に近寄ろうとするが、俺の姿が視線に入ると動きを止めて、寄って来ようとしない。

 見知らぬ者が居る事を警戒している。


「心配ない。彼は俺達を助けてくれた。先程の薬も彼から貰った物だ」


 モルタは俺が無害だと村の者達に説明をした。

 俺は軽く頭を下げる。


 安心したのか、女性と子供達が俺の近くまで寄って来て、エリクサーで毒から助けた礼を言われる。


「無事なら問題無い」


 俺はそう言いながら、村の者達を観察していた。

 痩せ細り、栄養が行き届いていない。


「俺達が上手く狩りが出来ない為、ろくに食事も取れていない」


 モルタは俺に説明する。

 まともな食事も取れていないのであれば、力も出ないだろう。


「ちょっと、待っていろ」


 村の現状を目の当たりにして、このまま放置は出来ないと思い、シロとクロに人型になるよう頼む。

 猫が少女に、鴉が紳士へと変化した事に皆が驚く。


「シロ」

「はい、御主人様」


 俺が名を呼んだだけで、シロは土系魔法で村の周りに二メートル程の土壁を作り始める。

 その隙にクロは気付かれないように影に潜る。

 森から獣や食べられそうな食材を調達して貰った。


 時間にして、五分くらいだろう。

 シロの作業が終わる。

 モルタに出入口等を聞いて修正したので、少し時間が掛かった。

 クロも先程逃げた猪や、鳥等を数匹生け捕りにして戻って来ていた。

 俺も【アイテムボックス】から幾つかの食材を出して、シロとクロに調理を任せた。

 誰も俺の事を覚えていないのであれば、【アイテムボックス】等のスキルも隠す必要が無いと開き直る事にした。


「ここはシロとクロに任せておけばいい。とりあえず、話を聞きたい」

「あ、あぁ」


 呆気に取られていたモルタに話し掛けて、話が出来る場所に移動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「改めてだが、俺はこの村、イスノミ村の副村長のモルタだ」


 この村はイスノミ村と言うらしく、三十人程が暮らしているそうだ。

 村長は一年程前に亡くなっているが、次の村長を決定していない。

 実質、副村長のモルタが村長になると思うが、喪に服している。

 以前はこの辺りに、エルドラード王国を往来する者達を管理する為の関所を設ける筈だったが、王であるウーンダイの一言で白紙になったそうだ。

 白紙になった理由は不明らしい。

 話振りから、国への不信感があるようだ。


「それと、先程の猫と鴉だが……」

「シロとクロの事か?」

「あぁ」


 俺はシロとクロの説明をする。

 エターナルキャットや、パーガトリークロウと言って通じるか分からなかったが……


「あの鴉が聖獣パーガトリークロウ。それに猫が、魔獣エターナルキャット……」


 クロは聖獣なのに、シロは魔獣扱いだった。

 そういえば……。


「シャレーゼ国はガルプ教徒が多いのか?」

「あぁ、表立ってはそうだ。実際には都で暮らす者達だけだろうが……」


 ガルプを神と崇めているのであれば、パーガトリークロウが聖獣なのも納得出来る。


「聖獣を従えているとは、流石はエルドラード王国の冒険者だな」


 エルドラード王国の冒険者が俺基準で考えられると問題だと思い、「俺が特殊だ」と訂正しておく。

 それと、報酬はシャレーゼ国と枯槁ここうの大地の情報だと伝える。


「それだけでいいのか?」

「あぁ。どうせ、支払える物が無いんだろう?」

「それは助かるが……国の情報に関しては、俺も詳しくは知らない」


 何か話したくない事情もあるのかも知れないので、シャレーゼ国の事については多くは質問しないつもりでいた。

 気になったのは、王妃や第一王子の話が出なかった事だ。

 主に王であるウーンダイや、第三王子のタッカールの事ばかりだった。


 枯槁の大地の情報は、場所と現在も草木も生えない荒れ地だと言う事。

 その影響なのか、枯槁ここうの大地と近い場所にあるイスノミ村も、作物が育ちにくい土地らしい。


「そこが豊かな森だった頃の話は知らないか?」

「俺達が生まれる前の話だからな……」

「そうか」


 俺の欲しかった管理者であった樹精霊ドライアドのイザベラの情報は無かった。


 【アイテムボックス】から拾った剣等の武器を数個出して【複製】で増やして、モルタに渡す。

 これがあれば、多少は戦力強化になるだろう。


「本当にすまない」


 俺に礼を言うが、盗賊退治については何も言って来ない。

 モルタ的には「この武器で解決しろ」と言われているのだと思っているに違いない。

 とりあえず、今回は盗賊を退治する事は伝えると、安堵の表情を浮かべた。

 俺が、次は俺が居なくても盗賊や獣の脅威に負けないようにして欲しい。

 とは言え、戦う事に慣れていない村の者には荷が重い事も理解している。

 突き放すのは簡単だが……。

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