第617話 他力本願!

「何があった……」


 戻って来たリーダー格の男が、先程までとは違う光景に驚く。

 俺は座ったままだが、他の仲間達は満足そうな顔で休憩していた。

 周りには、食事が終わった事が分かる猪の骨等が散らかっている。

 誰も俺を監視していない。

 その状況で俺自身も逃げる素振りを見せていない。


 仲間の男達は、リーダー格の男に説明をしていた。

 どのような説明をしているかは気になったが、敢えて聞き耳を立てずにいた。

 ただ、説明を聞いているリーダー格の男は、何度も俺の方を見て信じられない顔をしていた。

 説明が終わり、気持ちの整理がついたのか俺の方に歩いて来た。


「仲間を助けてくれた事、そして食事を与えてくれた事は感謝する」


 そう言って、俺に礼を述べる。

 助けたと言うのは、猪からか毒なのか分からないが、感謝された事だけは確かだ。


「しかし、お前は何の目的で此処に来た」

枯槁ここうの大地は知っているか? 俺はその状況を確認に来ただけだ」

枯槁ここうの大地? あの、荒地の事か……」


 知っている口ぶりだ。

 俺は通じるか分からないが、エルドラード王国の冒険者ギルドカードと、呪詛証明書を見せる。


「エルドラード王国の冒険者。しかもランクSSS……」


 俺の冒険者ギルドカードを見詰めていた。


「俺は身分を明かした。お前等こそ、何者だ?」


 俺は呪詛証明書を見せながら話す。

 失礼な言葉使いは【呪詛】のせいだと分かってもらう為だ。


 リーダー格の男は『モルタ』と名乗り、他の者達を集合させる。

 彼等は、少し離れた村の者達で、シャレーゼ国の民だ。

 ここ数年、作物も思うように育たず、育ったとしても獣達に食べられてしまい、万年食料危機になっていた。

 国への税を納められないので、村から成人女性が連れていかれる。

 それに最近は、村を襲う者まで現れていたそうで、俺をその仲間と思って警戒したと話す。

 モルタを含めて、その場に居た者達から正式に謝罪される。


 納税も出来ない村を何の目的で襲うのかが、俺には気になっていた。

 襲うには襲う理由がある筈だ。

 俺は、その事について質問をする。


「それは、俺達の村が都から一番遠い場所にあるからだろう」

「どういう事だ?」


 シャレーゼ国は小国なので、領主という制度が無い。

 一年に一度、納税さえすれば目を付けられる事も無い。

 つまり、納税すればあとは何をしても、何をしてもお咎めが無いのだ。

 密告しようとする者に対しては、有無を言わさず殺害すれば良い。


「しかし、税も納める事も出来ない土地だよな?」

「あぁ、そうだ……」


 何か隠している。

 俺に言う義務も無いので、深くは聞かないでおく事にする。


「まぁ、俺の誤解が解けたなら、それでいい」


 俺は身の潔白が証明されたので、枯渇の大地へ向かおうとする。


「待ってくれ!」


 モルタが俺を引き止めようと叫ぶ。


「こんな事を頼めた義理では無い事は十分承知しているが、俺達に力を貸してくれないか」


 モルタは頭を下げた。

 その行動を見た他の者達も、モルタ同様に頭を下げる。


「とりあえず、話だけ聞く」

「感謝する」


 モルタは、俺に盗賊を追い払って欲しいと頼んできた。

 村の者では、侵略されるのも時間の問題らしい。


「追い払う事は出来るが、俺が居なくなった後の事はどうするんだ?」


 俺が居なくなれば、別の盗賊が襲って来るかも知れない。


「それは……」


 他力本願だと、根本的な問題解決にはならない。

 自分達の村であれば、自分達で守る必要がある。

 その意識が無ければ、俺が助けたとしても同じ事だ。


「それと、報酬は?」


 依頼するのであれば、報酬を払うのが当たり前だ。

 無報酬で依頼を受ける物好きは、そうそういない。


「支払えるものは無い……」


 当然だろう。

 冒険者に支払える報酬があれば既に、冒険者へ依頼を出している筈だ。

 別に報酬が欲しい訳では無い。

 俺としては、枯渇の大地やシャレーゼ国の情報を報酬として貰えれば良いと考えている。

 しかし、依頼と報酬の仕組みを確認しておかないと、モルタ達が騙されて被害者や犯罪者になる事もある。


「力を貸さないとは言っていない。とりあえず、村へ案内してくれるか?」

「分かった」


 村へ案内される道中に毎回、厄介事に関わるのは何故なのかと、もう一度考えてみた。

 考えてみるがやはり、答えは出なかった。

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