第606話 蘇生と代償!

 俺は【転移】でユキノの死体がある部屋に戻って来る。


「御主人様。誰も近づけてはおりません」

「ありがとうな」


 シロは俺の言葉通りに従い、問題無い事を報告する。

 ルーカス達、身内でさえも近づけていない。


 俺はユキノの横に片膝を付き、胸に手を添える。


「タクトよ。何をするつもりだ」


 ルーカスは不安な表情で俺を見る。


「……ユキノ達を生き返させる」

「なんだと!」


 ルーカスは驚く。

 何か言おうとするが、カルアが焦って俺に話し掛ける。


「タクト。私が前に言った事、覚えている?」

「大丈夫だ。冥界の神であるオーカスにも話は通してある」

「……そう。今回が初めてでは無いようね」


 カルアの言葉に俺は何も返さなかった。

 俺が深く呼吸をすると、シロとクロも分かったようで「気を付けて」と言ってくれた。

 俺が冥界から戻るまで、誰も近づける事は無い。

 それに、戻って来た俺に意識が無くなっていても二人が対処してくれる筈だ。

 俺は冥界へと意識を移動させる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 目を開けると目の前に、セレナが立っていた。


「申し訳ありませんでした」


 俺に謝罪をする。

 ガルプツーが、ユキノを殺した事を謝罪しているのだろう。

 ガルプツーへの怒りは消えないが、それをセレナにぶつけるのは違う。


「悪いのですが、今はガルプツーの事はどうでもいい。ユキノを生き返させる事の方が重要です」

「……はい、分かりました。誰を蘇生させますか?」

「ユキノとフリーゼという伯母にあたる人物の二人です」

「……三人でなく二人で宜しいですか?」

「三人? ……どういう事ですか?」

「お腹にいる子供の事です」


 ユキノが妊娠している筈が無い。

 セレナが言っているのは、フリーゼがダンガロイとの間に授かった子供の事だろう。

 俺はセレナに子供について聞くが、本人も自覚症状が無いくらい、まだ小さいらしい。

 俺は「三人で」とセレナに頼む。


「代償についてですが……王女それに、聖女である為、かなり大きな代償を支払って頂きます」

「覚悟してます」

「代償は大事なものだと、知っていますよね?」

「はい」

「貴方との繋がり。つまり、人族全てから、貴方に関する記憶が全て消えます」

「……つまり、存在しない事になる」

「少し違います」


 セレナの説明では、俺と直接関わりのあった記憶が消える。

 冒険者や商人であるタクトは存在している。

 冒険者ランクSSS等は、そのままという事になる。

 個人的な関係が全て、白紙に戻る事になるという事なのだろう。

 但し、人族の記憶から俺が消えても『魔王』の称号は消える事が無い。

 商会登録している四葉商会代表についても、無かった事にされる。

 四葉商会の代表に記載される『タクト』の文字が読めなくなる。

 そうすると、自然に代表を書き換える必要が出てくる。

 副代表のマリーが必然的に代表になるのだろう。


「現世に神達は、関与しないのでは?」

「オーカス様の特権です。と言うより今回が特殊だからでしょう」


 同じ神でもエリーヌ達とは違う事だけは分かった。

 半魔人であれば、俺の事を覚えているそうだ。

 エルフ族は、人族の類に入るので俺との記憶は無くなる。


「婚約も無かった事になる為、聖女の称号も無くなるでしょう。精霊との契約も無かった事になります」


 精霊とはウンディーネのミズチの事を言っているのだろう。


「この条件を聞いても、生き返らせますか?」

「勿論です。」


 俺との関係が無くなったとしても、ユキノが生き返るのであれば何も悩む必要が無い。

 生きて笑っていてくれるだけで良い。

 例え、その隣に俺が居なくてもだ。


「戻ったら、すぐに記憶から無くなるのですか?」

「ちょっと待って下さい。確認致します」


 セレナは分からなかったのか、誰かに確認を取っていた。


「生き返らせた二人のどちらかが、目を覚ますまでになります」


 とりあえず、ルーカス達に報告は出来る。

 マリー達や、ゴンド村への説明は無理だと悟る。

 少し悲しいが仕方の無い事だ。


「既に三人蘇生されてます。今後、蘇生のスキルを使用する事は出来ません」

「分かっています」

「冥界に来る事は可能ですので、その際は私が担当させて頂きます」

「はい……」

「では、魂をお連れします」


 前回は俺が探したりしていたが、セレナが連れて来てくれるようだ。


「タクト様!」


 泣きながらユキノが走って来た。


「大丈夫ですか?」

「はい……」


 俺はユキノを強く抱きしめる。


「タクトよ。ここは何処だ?」


 フリーゼも状況が分かっていない。


「此処は冥界。死者の国です」


 セレナが俺の代わりに答える。

 フリーゼも自分が魔獣により倒された記憶が戻ったのか、「そうか」と悔しそうだ。

 セレナは俺がユキノとフリーゼを生き返らせる事を説明すると、二人共驚く。

 ユキノは「やはり、タクト様は神ですわ」と言ってくれる。

 この言葉を聞くのも、これが最後だろう。


「そろそろ、いいですか?」


 セレナが時間だと告げる。


「先に戻っていてくれますか?」

「はい。タクト様、言葉使いが……」

「こちらでは【呪詛】の影響がありませんので、丁寧な言葉使いが出来るのです」

「そうでしたか。その話し方も、素晴らしいですわ」


 ユキノは笑顔で答えてくれる。

 セレナに案内されて、ユキノとフリーゼは現世へと戻る道を進もうとする。


「ユキノ!」


 俺の言葉にユキノは振り返る。


「その……お元気で」

「タクト様。変な事を言われますわね?」


 ユキノは不思議そうな顔をする。


「又、後程」


 手を振りながらセレナの後ろを歩いて行く。

 途中、何度も振り返っては微笑んでくれていた。

 俺はその笑顔を目に焼き付けていた。

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