第605話 黒幕!
「もう少し、上手く働いてくれると思ったんだけどな」
声の方を振り返ると、少年が浮かんでいた。
俺は腹の棒を自分の手に【転送】させる。
「これでも死なないか。流石は魔王だね」
「……お前が、プルガリスか?」
何故だか分からないが、少年が第五柱魔王のプルガリスだと分かった。
「その通りだよ。初めまして、大四柱魔王タクト」
右の掌をひらひらと、左右に振り挨拶をする。
「なっ、何故、セレナを殺した」
ガルプツーがプルガリスに向かい、事の真相を聞こうとしていた。
「そんなの簡単な事だよ。ツー兄さんを利用する為に決まっているだろう」
「なんだと!」
「あのダークエルフの子が人族に殺されれば、単純なツー兄さんは人族への復讐をすると思っていたしね。まぁ、僕の思っていた通りだったけど」
「くそっ!」
手足が陰に縛られた状態のガルプツーは、血を吐きながら叫ぶ。
「それとワン兄さんは賢いから、使い辛いからね」
そう言いながら、クロの方を見る。
「……お前は、ガルプスリーなのか?」
「その名で、僕を呼ぶな!」
ガルプスリーと呼ばれたプルガリスは、クロに攻撃をする。
俺はクロを【転送】で引き寄せる。
「兄さん達が、ガルプ様の思いに答えないから、僕が任務を引継いでいるんだよ」
そう言うと俺達に向けて黒い槍のような物を放つ。
魔法攻撃であれば、【魔法反射(二倍)】で返す事が出来る。
しかし、俺は【オートスキル】から【魔法反射(二倍)】を外しているので、頭の中で【魔法反射(二倍)】と念じる。
黒い槍は、反射してプルガリスへと向かう。
しかし、プルガリスは簡単に避ける。
「ガルプ様は世界の滅亡を望んでいるのに、どうして邪魔をするんだ?」
プルガリスは不機嫌な顔で、俺達を見下ろしていた。
クロが世界の滅亡はガルプの意思では無いと話すが、プルガリスは聞く耳を持とうとしない。
「まぁ、ワン兄さんは最初だから、詳しくは聞かされてなかったのかもね」
面倒くさそうに話す。
「ツー兄さんの不器用さには呆れていたんだよね。まぁ、そろそろ用済みだとも思っていたし、潮時だね」
クロとの会話を無視するように、ガルプツーの事に話を戻す。
背後から大きな音と同時に、血飛沫が飛ぶ。
俺は振り返ると、幾つもの陰で出来た槍に、ガルプツーは突き刺さっていた。
「ツー兄さん。今迄、御苦労様」
プルガリスは笑っていた。
「あっ! タクト、御免ね。王女様の仇を取らせてあげるの忘れていた」
更に大きな声で笑っていた。
俺は【転移】でプルガリスの近くに移動して殴る。
しかし、拳はプルガリスの体を通り抜ける。
「無駄だよ。僕の実態は此処に無いからね」
俺はムキになり、何度もプルガリスの体に拳を叩きつける。
「無駄だよ。君では決して僕を倒す事が出来ないよ」
笑いながら、幾らでも攻撃をして下さいと言わんばかりに、無防備で俺を見る。
「ちっ!」
プルガリスは何かに感付いたのか、俺との距離を取る。
(主。ガルプスリーの本体は影の中です)
クロが、プルガリスの正体に気が付き、俺に教えてくれた。
「相変わらず、ワン兄さんは頭が切れる。だから、嫌いなんだよね」
影の中から本体が現れた。
俺は本体に向かって行き、拳を繰り出す。
「おっと、危ない」
俺の拳を、プルガリスはあっさりと片手で止める。
当たり前だが、少年の力では無い。
「成程ね!」
プルガリスの胸からクロの手が出ていた。
クロがプルガリスの背後から、攻撃を仕掛けたようだ。
「僕の負けだね……」
クロがプルガリスの体から手を抜くと、プルガリスは地面に激突した。
【神眼】で確認するが、プルガリスは確かに死んでいる。
第五柱魔王と言われている者にしては、呆気ない最後だ。
「主。差し出がましい事致しました」
勝手に攻撃した事をクロは謝罪する。
数少ない同族を、自らの手で始末する。
その覚悟が俺には分かっていたので、「悪かったな」とだけ伝えた。
クロが、ガルプツーの所に駆け寄る。
老人の姿で無く、三つ目の鴉状態になっていた。
ガルプツーは既に息絶えていた。
俺はプルガリスの死体を、もう一度確認する。
やはり、死んでいる。
念には念を押して、死体を焼き払う。
骨の形が残るだけで、綺麗に消し炭となった。
「主。ガルプツーも焼いて頂けますでしょうか」
このままでは、他の魔獣に食べられるのが、同族として耐えられないのだろう。
俺はガルプツーを焼き払った。
燃え盛る炎を見ながら、クロは何を思っているのだろう。
復讐すべき相手だったガルプツーも、プルガリスの手の上で踊らされていた。
そのプルガリスも死んだ事で、俺は怒りの矛先を失っていた。
……俺は【全知全能】にプルガリスとガルプスリー等の分かっている情報で、
プルガリスの生死について質問をする。
答えは「生きている」だった。
なんとなく分かっていたので驚きもしないが、居場所を聞くと「影の中」と答えが返って来た。
「ありがとうございました」
ガルプツーの姿が骨だけに変わると、クロは俺に礼を言って来た。
俺はクロに、プルガリスが生きていた事を伝えて、影の世界について聞く。
影の世界は広い為、クロでもプルガリスの居場所を突き止める事は出来ないと言う。
プルガリスがクロ達の事を「兄さん」と呼んでいたので、「兄弟なのか?」とクロに聞く。
同族だが血のつながりは無いそうだ。
この世界に来た時より、プルガリスいや、ガルプスリーは親しみを込めてそう呼んでいたそうだ。
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