第603話 襲撃!

 生誕祭も終わりを告げようとする時間だなと、思いながらゴンド村で外を見ながら、一人で夜空を見ていた。

 突然、【交信】が入る。相手はグラマスのジラールだった。

 【交信】に出ると、ジラールは焦りながら口早に話す。


「タクト、城が襲われている!」


 ジラールの口調からも嘘では無い。


「すぐに行く」


 俺はギルド会館本部のグラマスの部屋に【転移】する。


「とりあえず、城を見てくれ!」


 俺が姿を現すと同時に引張って、外に連れ出される。


「……何が起こっている。城に向かう」


 昼間まで立派に立っていた、エルドラード王国の象徴でもある城が半壊している。

 俺は人目も気にせずに、その場で【転移】を使い城に移動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「大丈夫か!」


 ルーカス達が居るであろう場所で、声を上げる。

 しかし、部屋にも大広間にもルーカス達の姿は無い。

 ターセルやカルアに【交信】をするが、連絡が着かない。

 しかも、城の中に魔獣達が居る。

 俺はルーカス達を探しながら、魔獣達を討伐していく。

 シロとクロには、別行動で襲われている人達の救出等を頼む。


 かすかに、人の声が聞こえる。

 俺は急いで向かう。

 

 魔獣と騎士団が戦っていた。

 俺は騎士団に加勢して、魔獣を倒す。


「何があった!」


 俺は騎士達に聞く。

 騎士達も気が付いたら魔獣に襲われていたので状況が分からないらしい。

 しかも他の騎士達に【交信】で連絡を取ろうとしたが、連絡が着かないそうだ。

 なにか【交信】が出来ない妨害工作がされているのだと確信する。

 俺は騎士達にルーカス達が、何処に居るかを聞く。

 現在の場所は分からないが、護衛の際に聞いた場所であれば、ダウザーやダンガロイ等の親族達と、来客用の部屋で寛いでいるそうだ。

 俺は騎士達に礼を言うのも忘れて、ルーカス達が居る部屋へと急いだ。

 途中にいる魔獣達は、全て討伐する。


 部屋の扉は壊されていた。

 部屋の中では、ルーカス達を守る為、護衛衆や華撃隊が魔獣達と戦っていた。


「大丈夫か!」


 俺は魔獣達を討伐して、ルーカス達と合流する。


「タクト、来てくれたの……ごめんね」


 疲労しきった顔でカルアが話す。

 俺は言葉を返さずに部屋の中にいる魔獣達を一掃する。


「皆、無事か?」


 俺の問いに誰も答えようとしない。


「……ユキノは、どこだ?」


 ルーカスが重い口を開く。


「すまん、タクト」


 ルーカスは申し訳なさそうに、俺に謝罪する。

 護衛衆や、華撃隊も同じだった。


「こちらです……」


 傷だらけのダンガロイが俺を案内してくれる。

 ルーカス達が襲われていた部屋の二つ隣だった。

 破壊された扉、傷だらけの壁や天井、そして……。


 フリーゼに覆い被さるようにユキノが居た。

 辺りの血の量や、ユキノの体を見てユキノとフリーゼが死んでいる。


 俺は呆然として、ユキノを見ていた。

 駆け寄る事も、声を掛ける事も出来なかった。


「タクト様。ユキノ様を守れなかった私達の失態です」


 護衛衆のロキサーニが、処分を覚悟で動こうとしない俺に話す。


「……何があった」


 俺はユキノを見続けたまま、辛うじて口を動かした。


 生誕祭も終わろうとしていた時、フリーゼとダンガロイにユキノの三人はユキノの婚約について祝ってくれていた。

 護衛にはロキサーニとステラが就いていた。

 ルーカス達はダウザー達と、先程の部屋で談笑中だったそうだ。

 騎士の一人が城内で魔獣を発見して、それを伝えようとしたが【交信】が使えず、大声で魔獣を発見した事を伝える。

 魔獣は一匹だけでなく何匹も居た為、城内は混乱する。

 既に王都から離れた領主も居たが、何人かの領主は城の外に逃げ出していた。


 護衛衆も華撃隊に、騎士団や衛兵達も必死で魔獣と戦った。

 ロキサーニとステラは、ダンガロイ達を守りながら戦うが多勢に無勢だった事も有り、魔獣もそれなりの強く次第に劣勢になる。

 魔獣の攻撃で、ダンガロイとロキサーニにステラ、フリーゼとユキノで分断される。

 ロキサーニとステラもユキノ達に合流しようとするが、魔獣達がそれを邪魔する。

 フリーゼは部屋にあった剣を手に取り、ユキノを必死で守っていたそうだ。

 しかし、フリーゼの実力では魔獣達に敵う訳も無く殺される。

 ユキノは倒れたフリーゼを庇おうとして殺された。

 二人が倒れた事で、ロキサーニとステラ達に攻撃を変えたが、辛うじて部屋に居た魔獣は全て倒して、ルーカス達に合流したそうだ。


 ダンガロイは何も出来ず、殺される妻とユキノを見ているだけしか出来なかったと、何度も俺に謝罪をした。

 

 話を聞き終えた俺は、ダンガロイの謝罪も頭に入ってこなかった。

 何故、ユキノなのか。

 そして何故、俺は近くに居てユキノを守ってやれなかったのか。

 頭の中で、堂々巡りしていた。

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