第602話 それぞれの役割!

「そろそろ国王様の御言葉が聞ける時間ですな」


 エンヤはそう言うと、俺達を連れて治療院を出て城へ向かう。

 街の人々も分かっているのか、人の流れが城へと向かっていた。

 遠くから城のバルコニーを見ている。

 皆が国王であるルーカスや、王妃のイース達王族を一目見ようと浮足立っていた。


 距離的にも俺達のいる場所に、ルーカスの声は届かないだろう。

 しかし、国王や王族を肉眼で見る機会は限られている。

 生誕祭は街の人々にとっても特別な祭典なのだと、周囲を見ながら感じていた。


「国王様が姿を御見せになるぞ」


 騎士や護衛衆がバルコニーに姿を見せた事で、ルーカスが登場する事が分かる。

 管楽器等が無い為か、派手な登場曲も無い。

 大臣が姿を見せると後ろから、ルーカスにイースそしてアスラン、ユキノにヤヨイと登場する。

 大臣が何かを言ったようで、城に近い人々達から歓声があがる。

 俺の周りの人々も感化されてか歓声をあげていた。

 その後、ルーカスがなにやら喋っている。

 感謝の言葉を国民に向けて話しているのだろう。

 ルーカスが手を挙げると、イース達は頭を下げる。

 群衆からは割れんばかりの歓声があがり、その歓声を聞きながらルーカス達は退場した。

 時間にすれば、十分も満たない。

 それでも国民にとって、ルーカス達の姿を見る事は非常にありがたい事なのだろう。


 人々は満足そうな表情で、その場から去って行く。


 ルーカスの挨拶が終わったとはいえ、今日一日は生誕祭なので、人々は浮かれたままだ。

 当然、この状況に便乗して犯罪も起きやすい。

 街の中でも衛兵の人数は多いし、冒険者ギルドにも犯罪者を見つけたら、拘束して衛兵に引き渡すクエストもある。

 因みに、泥酔して周囲に迷惑を掛けた冒険者が、衛兵に連れていかれる光景も目にしている。

 この場合、衛兵に冒険者を引き渡した冒険者に、クエスト報酬が発生するのかが気になった。


 エンヤ達の元気な姿も見れたので、俺とマリーは挨拶をして別れる。

 これ以上、王都に居てもする事が無い。

 俺はマリーを家に送ってから、ゴンド村へと移動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 珍しく、アルとネロの姿が見えなかった。

 何か用事でもあるのだろう。

 俺は部屋を見渡しながら、家具の配置などを考えていた。

 当然、ユキノの意見も聞くがユキノの性格を考えると、自分の意見は言わずに俺の意見を尊重するだろう。

 俺は【アイテムボックス】のスキルを持っているし、ユキノは収納袋があるので、必要な物はその中に入れておく事になる。

 家具等も最低限になると思う。


(やっぱり、広いな)


 分かっていたが、俺とユキノだけではかなり広い。

 城にあるユキノの部屋に比べれば、かなり狭いが……。

 家具等はドワーフ族に依頼するつもりだ。

 前世から、俺は物を選んでいる時は楽しくて仕方が無い。

 カタログ等を見ながら妄想に耽る。

 少々時期より、物を買って貰えるような裕福な家庭では無かったので、自然と想像力が豊かになってしまったのだと、自分を分析した事もあった。

 色々と考えてみるが、やはり全てにおいてユキノと決める事が大事だと感じる。

 結果的に全て俺の思った通りになってしまったとしても、二人で決めたという過程を大事にしたい。


 下を見るとシキブがモモと、村の子供達数人と歩いていたので、上から声を掛ける。

 シキブもモモも、俺が居た事に驚いていた。


「今日、生誕祭よね?」

「あぁ、さっきまで王都に居たぞ。初めて参加したが、国王は人気があるんだな」

「当たり前でしょう、国王様よ」


 シキブは呆れていた。


「体調は大丈夫か?」

「えぇ、引っ越して来てからは、楽に過ごさせて貰っているわ」


 子供のいる御腹を擦りながら、笑顔で答える。

 その表情は子供の事を考えている母親の表情だった。


「調子が良いからと言って、あまり無理をするなよ」

「タクトもムラサキと同じ事を言うわね」


 シキブは笑う。

 妊婦を労わるのは、父親で無くても当たり前の事だ。

 それは異世界だろうが、関係の無い事だと思っている。


 俺もシキブ達に同行して散歩をしてみる。

 いつも通り、俺を見ると皆が声を掛けてくれる。

 元気そうなので、俺としても安心する。

 村長のゾリアスが難しそうな顔をして、コボルト達の畑を見ている。


「よっ、難しい顔してどうしたんだ?」

「タクト、戻って来ていたのか」

「あぁ、さっきな」


 シキブにモモ、子供達と別れてゾリアスと話込む。

 ゾリアスの悩みは、コボルト達の子供の事だった。

 子供達が大きくなれば、仕事を手伝う事になる。

 しかし、畑仕事をこれ以上増やしても、作物を村で消費する量を超えている。

 コボルトの寿命は長くて五年、平均で三年くらいだとゾリアスは言う。

 しかし、それは外敵が居た場合なので、安全なゴンド村であれば、もう少し長生き出来るとゾリアスは考えている。

 繁殖能力の高いコボルト達の事を今の内に考えておかないと、後々に大きな問題になると思っているようだ。

 作物については、マリーに相談してくれれば四葉商会もしくは、他の商社を紹介するので問題無い事を伝える。

 土地の広さを考えても、畑の面積を増やす事については問題は無い。

 村の外へ出る事は構わないが、人族から襲われる可能性が高い。


 村の問題に、いち早く気付くゾリアスが、立派な村長になっているようで、嬉しかった。

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