第600話 サプライズ演出?

 シーバとローラに別れの挨拶をしてから、ダウザー達に用意された部屋に俺とマリーも同行する。

 俺は途中でユキノに会いに行くつもりだ。

 ダウザーの部屋の前では、ロキサーニが立っていた。

 俺とダウザーが前夜祭後も行動を共にすると思っていたようで、部屋の前で待っていた。


「俺を連れて来いと言ったのは、ユキノじゃないよな」

「はい。国王様で御座います」


 俺の予感が的中する。

 ダウザーとミラに、マリーの事を頼んでロキサーニと歩く。


「ロキサーニは用件を聞いているか?」

「いいえ。私はタクト様をお連れする様にと言われただけです」

「……それで、ダウザーの部屋の前で待っていたのは勘か?」

「そうですと言いたい所ですが、出口にはステラが待機しておりました」

「成程ね。会場だった部屋の外で待たなかったのは、俺に気を使ってくれたのか?」

「どうでしょうか。部屋の外ですとタクト様を待っている方々がいらっしゃるかと思いましたので……」

「それよりも、その様付けは止めないか?」

「何を仰られます。ユキノ様の御婚約様に向かって、そのような失礼な事は出来ません」

「それは分かるが、様付けで呼ばれるのは嫌いなんだよな」


 俺を取引相手や格上の存在だと認識すると、俺が頼んでも言葉使いを変えない者も居る。

 グランド通信社のヘレフォードや、アンガスがそうだ。

 無理矢理変えさせるつもりは無いが、様付けで呼ばれる程の人物で無い事は俺が一番良く分かっている。

 ロキサーニも、ユキノの婚約者という立場の俺を、今迄通り呼ぶ事に抵抗がある事も理解している。

 これ以上言うと、前世で言うパワハラになるので何も言わなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「どうだ、驚いたか!」


 ルーカスは無邪気に、俺へのサプライズの感想を聞く。


「いや、別に驚きはしなかった。その前の言動等で、薄々気付いていた」

「なんだと!」


 驚いていたと嘘の一つでも言って、ルーカスを喜ばそうかとも考えたが、何かの拍子で嘘だとルーカスが知ったら、ショックが大きいとも思い正直に話す。


「俺を呼んだのは、それを言う為じゃないだろう」

「そうだ。単刀直入に言おう、あの洗濯機と嘘発見器なる物をもっと欲しい」

「それは別に良いが、洗濯機は何に使うんだ?」

「城に置いて、使用人達に使わせる」

「一つでは足りないのか?」

「全然足りぬ。この城に何人の使用人が居ると思っているのだ?」

「……使用人に使わせる為か?」

「勿論だ。余達の為に働いてくれておるのだから、少しでも楽をさせてやりたい」

「分かった。必要な数量をマリーに言ってくれれば調達する」

「承知した」


 ルーカスの国王らしくない、こういった所には好感が持てる。

 洗濯機の外殻である箱の発注は、トブレにする必要があるので忘れないように後で連絡をする。


「俺からも聞きたい事があるが、いいか?」

「よいぞ」


 まず、カルアが居なくなる事で今迄簡単に出歩いていた護衛が居なくなる懸念を話す。


「それなら、大丈夫よ。外出時は私が護衛する事になっているから」

「毎回か?」

「えぇ、そうよ。一応、指名クエストになるかしらね」

「……カルアは、いち冒険者に戻るって事か」

「そう言う事」


 体制が変わっても、カルアが護衛をする事に代わりは無いと言う事なので、少し安心をする。

 いずれは誰かに、護衛の任を譲るつもりもあるのだろう。


「それと、カーディフ達の華撃隊に人数を入れないのは何故だ?」

「それは特にありませんが、四人の四をいれると良い名前が思いつかなかっただけです」

「因みに華撃隊という名に皆、納得しているのか?」


 カーディフをはじめ、他の三人も苦笑いをしている。

 多分、期日の今日までにパーティー名が浮かばなかったのだろう。


「華撃隊は誰の案なんだ?」

「それは余じゃ! 華のある攻撃をする隊、略して華撃隊じゃ!」


 誇らしげに名付け親を宣言するルーカス。

 国王が名付けたら、それ以外の選択肢は無くなる。

 苦笑いしている理由もよく分かった。


「タクトよ。申し訳無いが、余達は明日の最終打合せがあるので、ユキノともゆっくりさせてやることも出来ん」


 ルーカスが申し訳なさそうに、俺に話す。


「国の行事だから仕方が無いだろう。気にしなくていい」

「そう言って貰えると、余も助かる。今から少しだけだがユキノと話でもするがよい」


 俺はユキノを連れて、バルコニーから外を見る。


「疲れたか?」

「いいえ。疲れよりもタクト様との事が、皆に知って頂いた事が嬉しくてたまりません」


 ユキノは笑顔で答える。


「しかし、手続きやら何やらで、これから色々と大変なんだろう?」

「そうですね。大臣に聞く限り、王族から抜ける手続きに前例が無い為、新しく書類を作成したりしているそうですので、私より大臣達の方が大変ですね」


 ユキノは自分の事よりも、大臣達を気に掛けている。


「引っ越す際に持って行く物はあるのか?」

「そうですね……タクト様に作って頂いた動きやすい服を数枚と髪飾りに、この袋くらいです」


 家具やら服等は、国民の税金で購入した物が多いので、全て置いて行くそうだ。

 服はいずれ、ヤヨイが着れるかも知れないと話すが、ユキノに合わせて制作した服は、ヤヨイでは着れないだろうと思うので、仕立て直すのだろう。

 特に中身のない会話だが、ユキノと居ると心地好い事を再認識する。

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