第599話 研究材料と研究者!

 前夜祭も終わり、領主達が用意された部屋へと戻って行く。

 勿論、退室する際に嘘発見器で、闇闘技場の事が聞かれる。

 数人の領主が闇闘技場の存在は知っていたようだが、訪れた領主は二人だった。

 しかも、二人共闇闘技場の実態を知り、その場から立ち去った。

 そのせいで、立ち去った領主達の領地には奴隷商人が立ち寄らなくなったそうだ。


 殆どの領主達が居なくなる。

 居るのはルンデンブルク領とジーク領の領主だ。

 ダウザーは最初に退室を求められたが断り、俺の隣に居続けている。

 ミラもマリーとニーナの三人で、楽しそうに話している。


 グランド通信社とジョウセイ社の代表と副代表も居るので、彼らにしてみればダウザー達と話が出来て絶好の機会のようだった。


 俺はシーバとローラを連れて、夜風に当たってくるとバルコニーに移動する。


「とりあえず、これを見てくれ」


 二人に浄化石を見せる。


「ただの石に見えるが、タクト殿がそのような物を見せるとは思わぬし、何か細工がしてあるのだろう」


 俺はグラスの水に食べ残しの食材やら、酒等を入れる。

 そして、浄化石を入れると、濁っていた水は元の無色透明な水に戻る。

 食べ残しの食材は小さな物は無くなったが、大きい物はグラスの底に沈んでいた。


「これは面白いの! 石に触っても良いか?」

「あぁ、好きに触ってくれ」


 シーバとローラは、汚れた皿の上に浄化石を置いたりと、色々な状況を試していた。


「これは魔法研究所に提供するから、トイレや汚れた場所に活用出来るよう研究して貰ってもいいか?」

「勿論だ!」


 シーバは嬉しそうだったが、ローラが考え込む。


「研究の優先順位を変更するか、研究チームの再編成が必要になりませんか?」

「確かにそうだな。この浄化石の研究は、ルンデンブルクに任せるつもりだ」

「向こうも手一杯では?」

「そうだろうが、優先順位も含めて考えて貰うつもりだ」


 魔法研究所も忙しいようだ。


「もう一つあるが、出してもいいか?」

「まだあるのか。勿論だ」

「少し気味悪いが……」


 俺は寄生魔蟲きせいまちゅうの一種である魔鉤条蟲まこうじょうちゅうが詰められた瓶を置く。


「……この蟲は何だ?」


 俺はシーバとローラに魔鉤条蟲の説明をする。

 勿論、扱いには気を付けなくてはいけない危険な蟲だ。

 本当であれば、ネイトス領主ダンガロイの弟であるロスナイを痛めつける際に使用するつもりでいたが、アルが痺れ草で遊んでいたせいで、ロスナイが麻痺状態になってしまい、結局使う事無く捉えて殺してしまったので、使い道に困っていた。


「これは新発見ですな。タクト殿の説明であれば、もしかしたら生肉等を調べれば、生息確認出来るかも知れませんな」

「何かの研究の役に立つか?」

「勿論です。これは生物研究者が、とても喜ぶ品です」


 研究者にも色々いるらしい。


「どちらも有効活用してくれ」

「分かりました。発表の際には四葉商会様の名前も入れさせて頂きます」


 シーバとローラは、嬉しそうにしていたが一刻も早く研究所に戻りたいようだった。


「この二つは後で研究所に届ける。万が一、盗まれでもしたら大変だからな」

「確かにそうですな」


 俺は浄化石と魔鉤条蟲を【アイテムボックス】に仕舞う。


 バルコニーからマリー達の所に戻ると、まだ話をしていた。

 会場に人も俺達を除けば、別の集団が一つあるだけだ。

 使用人達は後片付けをする為に待機している。


「これ以上いると、後片付けが出来ないようだから、お開きにした方がいいんじゃないのか?」


 俺の言葉で、ダウザー達は状況を把握する。


「お前達は明日、どこに居るんだ?」

「私達は街で生誕祭を楽しむつもりです」


 生誕祭が行われる会場には、貴族でも数名しか入れない。

 それ以外は、城内の別の場所でルーカスの言葉を聞いた後に、この会場でパーティーが始まる。

 パーティーには俺達は招待されていない。


「タクトもか?」

「そのつもりだ。招待されていないし、マリーと街で祭りを楽しむつもりだ」

「……お主は王女の婚約者だと発表されただろう」

「そうだが、生誕祭は国王を祝うんだろう。結婚していない俺はまだ部外者だろう」


 ダウザーの言いたい事は分かるが、俺の勝手な解釈で招待もされていないパーティーに参加する事は出来ない。

 俺自身も、堅苦しいパーティーには参加したくないのが本音だ。


「どちらにしろ、俺達は城から出ないといけなしな」


 貴族である領主達と違い、俺達は一般招待客になる城内に宿泊は出来ないので、このまま帰宅する事になる。


「ユキノ様には会っていかないの?」


 マリーが俺に気を使ってくれる。

 しかし、一旦マリーをジーク領にある家に帰す必要がある。


「マリー殿の事なら心配するな。俺達が責任を持って送り届ける」


 ダウザーの送り届けるとは、転移扉を使用すると言う事は、すぐに分かった。


「私もまだ、御話ししたい事が沢山ありますし」


 ミラは、これからマリーとの御喋りを再開するつもりらしい。

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