第591話 前夜祭-3!
会場に入ると、既に多くの人達がいる。
優先順位的に俺達はかなり後なのだろう。
国王達王族の座る位置は数メートル高い所にあり、その前には何もない空間がある。
この場所で、祝いの品をルーカスに見せるのだろう。
俺が何も考えずに立っていると、マリーが俺を誘導してくれる。
二人して、邪魔にならないうように出来るだけ端の方に居た。
誰も近寄ってこないが、目線は感じている。
俺なのかマリーなのかまでは分からない。
「タクト。呼ばれているわよ」
「はぁ?」
マリーの目線の先には、ジーク領領主リロイと夫人のニーナが居た。
「一人で大丈夫か?」
「心配してくれてるの? 大丈夫よ、アンガスさんが、そこに居るから」
再度、目線の先を向くとアンガスが居た。
俺と目が合うと一礼して、こちらに歩いて来た。
「どうした、様子見か?」
「いえ、代表よりマリー様と一緒に居るように言われております」
「……もしかして、マリーの護衛をしてくれるのか?」
「まぁ、そんな感じですかね。マリー様と一緒に居れば、儲け話が飛び込んできそうですし」
「成程ね」
笑いながら答えるが、俺が呼ばれる事を想定してアンガスをマリーの話し相手として、一緒に居るように気を使ってくれたようだ。
「じゃあ、頼むかな」
「はい」
俺はマリーとアンガスに「行ってくる」と言い、リロイの所へと歩いて行く。
リロイとニーナとは、殆どが近況報告だった。
二人が幸せそうに話している姿を見ているだけで、俺の心も和んだ。
国王であるルーカスが入室する旨が伝えられると、皆に緊張が走る。
ルーカスと、王妃のイースが仲摘むまじい仲睦まじく姿を現す。
その後、王子であるアスランに、王女のユキノにヤヨイと続いた。
王妃であるイースが、夫である国王のルーカスに祝いの言葉を告げる。
アスラン達も各々に、ルーカスに向かい祝いの言葉を告げた。
拍手喝采だった。
ルーカスが立ち上がる。
まずは、家族への感謝の言葉。
次に、この場に居る者達への日頃の労いの言葉を口にする。
国王らしく素晴らしい話し方だった。
ルーカスが椅子に座ると、静かだった会場が賑やかになる。
ルーカスが座るのが合図だったかのように、各々が話を始めた。
リロイに聞くと、あとは贈り物の時間になると皆、注目するそうだ。
防衛都市ジークの領主リロイだが、これといった特産物等も無いので、毎年困っていると話してくれた。
出世に興味が無いとはいえ、どうしても他の領主に比べると国王に貧相な物を贈っている後ろめたさがあるのであろう。
暫くすると、ルーカスに祝辞と献上する品を披露する場所に、人が現れる。
どうやら最初に祝いの品を献上するのは、ルンデンブルク領領主のダウザーのようだ。
ダウザーの隣には妻のミラが居る。
ルーカスに向かいダウザーが祝辞を述べる。
俺の知っているいつものダウザーの姿とは違っていた。
やはり、丁寧な言葉を使えるのは羨ましいと思いながら、ダウザーの祝辞を聞いていた。
祝辞を終えたダウザーが使用人に合図を送る。
箱を両側で抱えた使用人が、ダウザーの所に来る。
使用人の一人が箱を支えると、もう一人が箱の蓋を開ける。
ダウザーが箱に手を入れると、中から煌びやかな服が現れる。
服を見た周囲の者達は「素晴らしい」「綺麗だ」と絶賛の声があがる。
お世辞を言っている者も居るのも分かっている。
しかし服を見た俺は、ユイのデザインだと確信する。
ルーカス自身も分かっているようだったが、気付かぬふりをしているようだった。
ダウザーは他にも、ルンデンブルク領の酒を献上していた。
その後、ネイトス領領主のダンガロイと、妻で国王ルーカスの姉フリーゼがダウザー達と入れ替わる。
こちらもネイトス領で作られている評判の良い自慢の酒のようだ。
ネイトス領は毎年、この酒を献上しているらしい。
近くに居た貴族が、この献上された酒が好きなようで、品薄な高級酒の為、なかなか手に入れられないと愚痴をこぼしていた。
俺は面白いと思いながら、代わる代わる登場する献上品を見ていた。
「興味ある物は御座いましたか?」
グランド通信社代表ヘレフォードが声を掛けて来た。
「そうだな。やはり、領地によって特色が出てるし、面白いな」
「領主様達が終われば私達、商人の番になります」
「まだ、随分と先だろう?」
「えぇ、そうです。しかし、我々商人の献上品は、領主様達からの注目度が高いです」
領地から献上出来る物は、ある程度決まっている。
その点、商人であれば毎回、新しい物を献上したり、試作品を献上したりと注目されるのは間違いない。
「今回は、四葉商会様が一番注目されるでしょうな」
ヘレフォードは楽しそうに話す。
その顔は完全に商売人の顔だった。
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