第592話 前夜祭-4!

 領主達の祝辞等が終わる。

 一旦、小休止して商人達等に移るそうだ。

 確かにルーカス達も座っているだけとはいえ、疲れているのは分かる。

 俺はヘレフォードと一緒に居るので、数人の貴族達にも挨拶をする。

 毎回、呪詛証明書を提示して悪気が無い事を伝えるのが、とても面倒臭い。

 当たり前だが、貴族の中にも【呪詛】だと分かっていても、俺の言葉使いに嫌悪感を抱いている者も居る。

 なんとなく、そういう者は分かるようになってきていた。

 四葉商会と言っても、知名度も結婚式の事で知っている程度なので、俺がそこの代表だとしても、さして興味も無いのだろう。

 どちらかと言えば、王国最大の商社であるグランド通信社代表のヘレフォードとの関係を築きたい事も分かっている。


「タクト様」


 ヘレフォードが小さな声で俺の名を呼び、目線で何処かを見るような仕草をする。

 俺はその方向を向くと、マリーとアンガスが居た場所に、見知らぬ女性がマリーに向かって何かを言っているようだった。

 揉め事かと思い、俺が行こうとするとヘレフォードが俺を止める。


「大丈夫です。アンガスも居ますし、あの女性ではマリー様に敵う訳も御座いません」

「相手の女を知っているのか?」

「はい。ヴィクトリック商会様の副代表ペラジー殿です」


 ヴィクトリック商会って事は、以前にマリーが言っていた相性が悪いと言っていた相手という事が分かった。

 俺とヘレフォードは声が聞こえる距離まで移動して様子を見る事にする。



「何故、貴女のような方がこの場所に居るのですか?」


 女性がマリーに対して、高圧的な態度で接していた。

 幼少時代、ヴィクトリック商会はマリーの父親と取引があったと言っていたが、立場的にはヴィクトリック商会の方が上だった事も原因なのだろう。


「ですから、招待頂いたのです」

「本当ですか? 落ちぶれた田舎商人の娘が来れる場所ではありません」

「嘘では御座いません。このような場所に招待もされずに、勝手に入って来れるなら、私に盗賊の素質がありますわ」


 マリーの言葉に、周囲にいた者が笑っていた。

 ペラジーはマリーが周りに好感触な事が気に入らないのか、一方的に突っかかっていた。

 俺から見てもマリーは、よく我慢していると思った。

 相手にしないように言葉を返すマリーに、ペラジーは苛ついている感じだった。

 それは俺だけでなく、マリーの隣にいるアンガスや、俺の横のヘレフォードそして、周囲の貴族達も感じている。


「どうせ、四葉商会なんて大した商社でも無く、三流に毛が生えた所なんでしょう。たまたま、招待されただけで、私達ヴィクトリック商会と同じだと思って、図に乗らないで頂戴ね」


 この言葉に、マリーの琴線に触れる。


「ペラジー様。私の事は悪く言って貰っても構いませんが、弊社を侮辱した言葉は取り消して頂けますか」

「えっ、何ですって。三流を三流と言って何がいけないのです。なんなら、貴女の商社なんて私達が簡単に潰してあげますわ」

「……それは弊社に対しての御社からの宣戦布告と捉えて宜しいですか」

「えぇ、そうよ。すぐに潰してあげますわ」


 マリーの怒りが俺にまで伝わってくる。

 自分の事より、四葉商会の事を馬鹿にされた事を怒っている。

 そして、売られた喧嘩は買うと言う俺さながらの気迫が伝わる。


「分かりました。ヴィクトリック商会様は四葉商会様に宣戦布告したのですね。このグランド通信社副代表補佐であるアンガスが証人になりましょう。そして聞かれた領主様達も同様に証人になりますが、ペラジー殿は宜しいのですね」

「えぇ、勿論よ。ヴィクトリック商会副代表の私が言ったのですから当然です」

「承知致しました」

「今後、四葉商会と取引する領主様方には、弊社との取引は控えさせて頂きますので御了承願います」


 ペラジーは高らかに話す。

 領主とはいえ、物流を止められるのは避けたい。

 領地によってはヴィクトリック商会と取引が出来なくなる事は死活問題になる所も有る。

 立場で言えば領主が上になるが、実際は商人達が経済を回している。


「グランド通信社様も四葉商会でなく、我が社と業務提携しませんか?」

「ペラジー殿。何か勘違いをされておられるようですね。弊社が四葉商会様に頭を下げて業務提携して頂いているのです。商社の大きさは当然、弊社の方が大きいですが立場的には四葉商会様の方が上なのです」


 アンガスが四葉商会とグランド通信社の関係を説明する。

 隣のヘレフォードも頷いていた。


「御冗談を」

「冗談では御座いません。四葉商会様との取引という事であれば、弊社も同様にヴィクトリック商会様の取引される領地とは取引出来ないという事になります」

「えっ!」


 ペラジーはアンガスの言葉が冗談では無い事を知る。

 食材の物流には大して強くないグランド通信社だが、他の物流や情報を含めれば影響力はヴィクトリック商会よりも大きい。

 両社を天秤にかけた場合、殆どの領主はグランド通信社を選択するだろう。

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