第586話 技術者魂!

 生誕祭の前夜祭まで、あと二日。

 俺は誰にも邪魔をされない場所、魔境に来ていた。

 エリーヌとの会話で【魔法付与】が破壊されなければ、永遠に存在する事を知ったので、幾つか試したい事があった。

 まず【神の癒し】を水に【魔法付与】すれば、HPとMP共に完全回復する水が出来る。

 つまり、俺のゲーム世界で知る『エリクサー』だ。

 これがあれば、冒険者の死亡率を減らすことが出来る。

 しかし、懸念事項として無謀な戦いに挑む事も考えられる。

 エリクサーの容器は、ドワーフ族の硝子職人でもあるザルボにあった小さな瓶だ。

 同じ物を数百個発注してある。

 ザルボは対して面白くないようだったが、簡単な作業なので他の硝子細工が得意なドワーフ族に頼むようだった。

 この場所に来たのは、俺と戦闘して瀕死の魔獣にエリクサーが効くかの確認もあった。

 エリクサーの効果は凄かった。

 瀕死の魔獣にエリクサーを掛けると元気になり、俺を見てすぐに逃げて行った。

 これでエリクサーは商品化が可能だ。

 現在販売されているHP回復薬や、MP回復薬とは比べ物にならないだろう。

 効果については鑑定士のターセルの御墨付きを貰えば、誰もが信用してくれるに違いない。


 次に【炎波】を剣に【魔法付与】した。

 剣に魔力を込めると、炎が現れる。

 これで『炎の剣』の完成だ。

 魔力が少ない剣士でも扱う事が出来るだろう。


 俺の考え方次第で、新しい物が出来る。

 何故だか、物凄く楽しかった。

 忘れていた技術者魂に火がついた感じだった。


 その後も、前世の記憶を思い出しながら、便利な品が出来ないかと考える。

 この時間さえも楽しい。


 アルミラージの角を加工して【掘削】を【魔法付与】して、簡単に地面を掘ったりする事が出来る『掘削ドリル』を製作した。


 次に、少し歪な形の硝子玉に【真偽制裁】を【魔法付与】する。

 道具の成果を試そうとしたが、これは俺一人では試す事が出来なかった。

 質問者と回答者の二人必要だったからだ。

 【分身】を使い、試してみたが全く反応が無い。

 【魔法付与】する際に、先に硝子玉に手を触れた者が質問者になり、後で手を触れた者が回答者になるように念じてみたのだが……。 

 失敗だと思い、少し考えてみる。

 別に質問者が手を触れなくても、回答者が手を触れていて、真実か嘘かが分れば良いだけだ。

 とりあえず、事前に複製しておいた硝子玉を【加工】のスキルでして形を整える。

 そして、【真偽制裁】と【光球】を【魔法付与】する。

 俺の考えが正しければ、嘘を付けば硝子玉が光る筈だ。

 硝子玉に手を当てる。


「俺は女だ」


 言葉に反応して、硝子玉が激しく光る。


「俺は正直者だ」


 硝子玉が少しだけ光る。

 その後も、色々と試すが、嘘の大きさと光の強さは比例しているようだった。

 これがあれば、冤罪等も無くなるし、犯罪の検挙率も上がるので街の治安が良くなるだろう。

 なにより、これがあればルーカスからの呼出しが減る。

 とりえずこの硝子玉を『嘘発見器』と名付けた。


 俺は魔族のスキルで役に立ちそうなものが無いか、ステータスを開いて考える。

 当たり前だが、毒やら石化等物騒な物が多い。

 とりあえず、ロータスヒルの【撥水】を選ぶ。

 ロータスヒルは体が小さく、水を弾く体で他の生物から血を吸う。

 数時間程度であれば、水の中でも生息は可能な珍しい魔物だ。

 布に【撥水】の【魔法付与】を掛けて、水を弾く布を作る。

 これで傘や合羽等の雨具を製作する事が出来る。

 以前に、フランがカメラが壊れないように、自分の服を脱いで被せながらびしょ濡れで帰って来た事があった。

 マリー達も雨の日は、体が濡れるので外出が億劫だと、こぼしていた。

 今、流通している雨具は魔物の革を羽織るだけだ。

 魔物の革は雨を通しにくいだけで、完全防水では無い。

 しかも、元々重いにも関わらず、水に濡れるとさらに重くなる。

 俺が服に【撥水】を【魔法付与】すれば、問題解決だ。

 今回は新技術という事で、敢えて布で試してみた。

 アラクネ族にも、ドワーフ族同様に俺の考えていた合羽のイメージを伝えていたので、試作品が出来ていると思う。

 フード付きの服は、この世界では一度も見ていない。

 奇妙な服の依頼に、アラクネ達は喜んでいた。


 前夜祭で四葉商会が新技術として紹介するのは『洗濯機』に『エリクサー』、『嘘発見器』と『合羽』の四つにする。

 多分、一つでも良いとは思うが初めて四葉商会を知る貴族達にすれば、与える印象が格段に違う。

 販売をするかどうかは別としても、技術力を見せつける事が出来るのは大きい。

 俺が生きている限りは【魔法付与】で幾らでも製作が可能だ。

 ……【魔法付与】。

 よく考えれば、【魔法付与】のスキルも何かに【魔法付与】出来るのかも知れない。

 この突然下りてきた閃きを試してみようと思ったが、他にスキルを持っていなければ、例え【魔法付与】出来る物を持っていたとしても、難しい事に気付く。

 とりあえず、【アイテムボックス】から宝石を出して、【魔法付与】を【魔法付与】してみる。

 成功したかどうかは分からない。

 今度、マリーかフランでも渡して確認して貰う事にする。

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