第585話 神の屁理屈!
俺はモクレンに、フレッド・エルドラードの【殲滅】を阻止する方法は無いかと尋ねる。
「勿論、ありますよ。当然、タクトの協力が必要ですが」
「私で出来る事であれば協力致しますが……」
「【殲滅】の条件を覚えていますか?」
「はい。魔王同士が戦い、最後の一人になった時ですよね」
「その通りです。つまり、魔王が揃わなければ良いのです」
「仰る意味がよく分かりませんが?」
「魔王同士の戦いで、最後の一人になるという事は、六人の魔王つまり、第一柱から第六柱魔王が戦い、最後の一人になった時ということですよね」
「はい、その通りです」
「ですから、魔王が六人揃わないように、タクトには第六柱魔王の称号を私から授けます」
「えっ?」
「タクトが第四柱魔王と第六柱魔王になれば、魔王は五人しか誕生しません」
「……」
俺にはモクレンの屁理屈にしか聞こえなかった。
「そもそも、モクレン様が魔王誕生させるという事は、地上に干渉されるということになりませんか?」
「いいえ、違います」
モクレンは笑顔で嬉しそうに答える。
地上の事には神は干渉出来ないと言っていた。
今回の件は、モクレンが否定したとはいえ、どう考えても干渉する事になる。
しかも、エリーヌの表情から何も聞かされていない事も分かる。
「誕生するかも分からない不確定な者を、私が排除するだけです」
「排除ですか……」
「はい」
モクレンの言い分としては、エクシズに居ない者については、神の力でどうとでもなるという事なのだろう。
干渉と言うのは、あくまで既に誕生している者達が対象と言う事だ。
「魔王の称号が二つになると、私自身や世界に何か影響はありますか?」
「全く影響はありません。今迄通り、第四柱魔王を名乗って貰って結構です。第六柱魔王は永久欠番になるだけです」
笑顔のモクレン。俺に拒否権が無い事は分かっていた。
「少し、考えさせて貰ってもいいですか?」
「そうですね、分かりましたか。代案ではありませんが、タクトには【称号強奪】のスキルを与えるので、誰でも魔王を倒したら強制的に称号を奪う事が可能です」
「それは、相手を殺すって事ですか?」
「いいえ、違います。負けを認めるか、殺すかの二択です」
「分かりました」
「ただし、第六柱魔王が誕生する兆しが現れるまでの話です。兆しが現れて、タクトが他の魔王から称号を奪っていなかったら、私が強制的にタクトを第六柱魔王にします」
別に影響が無いのであれば、即決しても良い気がする。
俺は【称号強奪】を与えられて、アルやネロにロッソと称号を懸けた戦いをする気が無い。
アルとネロの事だから、戦闘でもゲームでもどちらでも了承はするだろう。
モクレンは俺がこの場で第六柱魔王にならざる状況を作っているのだとも感じた。
所詮、神には敵わないのか……。
「分かりました。第六柱魔王になります。出来れば、第六柱魔王の称号は人に見られないようにして頂けますか?」
「分かりました。何人たりとも覗けないようにしておきます。私の願いを聞き入れてくれて、ありがとぅございます」
「いえ……」
エリーヌを見ると、少し笑っている。
考えてみれば、俺が最初にエリーヌと会った時のやり取りに似ている。
あの時は神とはいえ、簡単に【恩恵】を貰えたのに……。
これが本来の神と人との関係なのだろう。
神と言う存在には所詮、敵わないという事を思い知った。
エリーヌも中級神になると、モクレンのような感じになるのだろうか?
俺はエリーヌを見ると、向こうも不思議そうな顔をして俺を見ていた。
俺はモクレンから『第六位柱魔王』の称号を受け取った。
同時に、エクシズから第六柱魔王が誕生しない事となる。
「それと、これはアデム様からです」
モクレンが俺に掌を向けると、体が金色に光る。
手や足等を見ても何も変化が無い。
俺は期待してモクレンに尋ねる。
「もしかして、【呪詛】が無くなったんですか?」
「残念ですが違います」
俺の糠喜びだった。
「では、何ですか?」
「それは内緒です。いずれ分かる時が来ます」
「……そうですか」
「別に悪い事では無いので安心して下さいね。心配ならステータスを確認して頂いても結構です」
「いえ、大丈夫です」
なにをされたのか分からない為、少し不安を感じる。
しかし、俺がこれ以上の事を聞いたとしても、モクレンは答えないだろう。
「では、これからもエリーヌの事を御願いしますね」
「分かりました」
「エリーヌも行きますよ」
「はっ、はい」
モクレンは笑顔で、エリーヌは引きつった顔で消えて行った。
しかし、エリーヌを頼むと言うモクレンの言葉が引っ掛かった。
この場合、「エリーヌの力に」とか「世界を頼む」と言うのではないだろうか?
一抹の不安を感じた。
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