第575話 心壊寸前!
エランノットとホドリゴとの話は、簡単なものだった。
ノゲイラが自分を裏切った為、罰を与えた事。
そして、ノゲイラの後釜として、ホドリゴを商人ギルドのギルドマスターとする事だった。
「商人ギルド本部には私から連絡をしておく」
「ありがとうございます」
そう言って、すぐにホドリゴは退席したそうだ。
ノゲイラの件で、エランノットを問い質す事もしなかった。
ホドリゴも虎視眈々とギルマスと、サーバン商会代表の座を狙っていた野心家だったかも知れない。
だからこそ、エランノットの言葉をすんなりと聞き入れたのだろう。
俺はクロから報告を受けて、商人ギルド本部内にもエランノットの息が掛かった者達が居る事を確信する。
エランノットが商人ギルド本部に関与出来て、影響力を持っているのではないかと思い、アスランに連絡をする。
この場合、早めに動かないと証拠を隠蔽される恐れもある。
アスランであれば、ルーカスに頼んで国王直属の暗部を動かして貰える可能性もあるからだ。
案の定、アスランはすぐに動いてくれると約束をしてくれた。
俺をそれだけ信頼してくれているのだろう。有難い事だ。
しかし、ホドリゴが此処に来れるという事は、商人ギルド会館に居なかったという事になる。
少し気になったが、たまたま別の場所に居たり、この闘技場内に居た可能性も考えられる。
「大変申し訳御座いませんが、次が最後になります」
予定より少ない事に観客は不満を口にする。
「御詫びとして、我が領主エランノット様より、御一人様に奴隷一人を後日、送らせて頂きます」
ザボーグがエランノットの代弁をすると、不平不満を口にする者は居なくなり、エランノットへ称賛の声があがった。
親が子供に向かって、専用の奴隷が貰える事を教えると、子供は跳ね上がって喜んでいた。
そして「どんなに刺したり切っても良いんだよね」と、日常的な会話をする。
この言葉で、やはり人種が違うのだと感じた。
「では、先に魔獣から登場です!」
ザボーグの言葉で登場したのは、ゴブリンだった。
しかも一体だけで、手には剣を持っている。
俺は対戦相手がゴブリン一体という事に驚いたが、より残虐なものを見せるのであれば大型魔獣よりも効果的だと思った。
しかし、ゴブリンは魔獣で無いのでは? とザボーグの紹介にも疑問を持つ。
観客も含めて、この場に居る誰も俺と同じ疑問を感じていないのだろうか?
ゴブリンは観客を見渡すと、うめき声をあげ始める。
登場した場所から動けないのは、調教の腕輪で行動を制限されているのだろう。
「本日の最後を飾る奴隷達です!」
奴隷商人に連れられて、首輪を付けられ鎖で引っ張られながら子供三人が登場する。
大きな歓声でショーシアにマチオ、ベラサージ達は迎え入れらえれた。
三人は観客席を見渡していた。
自分の両親達を探しているのだろう。
一番最初に両親を見つけたのはマチオだった。
しかし、家名や名前を言う事が出来ないよう制限されているので名を発する事は出来ない。
「父上、母上!」
マチオがそう叫ぶと、観客席から一斉に笑い声が起こる。
誰も相手にしていない。そう、マチオの両親でさえ。
その光景を見ていたショーシアとベラサージの二人も、自分の両親に向けて叫ぶが、返ってくるのは両親の笑う顔と罵声だけだった。
この瞬間、三人は助けを求めても無駄な事だと知ったようだ。
それに鎖を持っていた奴隷商人が、力強く鎖を引っ張りながら、余計な事を喋らない様に忠告をしていた。
「今回はゴブリンの生態も含めての催しになります。そう、ゴブリンと言えば、殺戮に強奪、そして強姦です。今回は女の子供が混じっていますね。果たして、どういう最後になりますことやら、楽しみですね」
ザボーグの実況は俺にとって不快でしかなかったが、観客席に座っている者達にとっては違っていた。
ゴブリンによる幼女強姦という言葉が頭に過ぎるだけで、今迄とは違ったものが見られるかも知れない期待で興奮しているようだった。
恐ろしいと思ったのは、観客席に居た小さな子供までもが、強姦の意味を知ったうえで笑っていた事だ。
俺の中で、何かが壊れるというか、冷める感じがした。
それが何かまでは分からないが、闇落ちする時はこんな感じなのかと考えてみた。
冷静になる為、俺は大きく息を吸い吐く。
(こいつ等より、無残に死んでいった奴隷の人達の方が価値ある者達なのは、間違いない。こいつ等は生きていても害を成す害虫のような存在だ)
観客席を見渡しながら、笑顔で楽しそうな表情を浮かべている者達を見ながら思う。
そして、ザボーグの手が上がる。
観客達からの歓声を受けたザボーグが、手を振り下ろすと本日最後の殺戮ショーが始まった。
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