第568話 価値の無い者!

「ようこそ、皆様!」


 ノゲイラが来客達に向かって、挨拶をしていた。

 先程の歓声は、ノゲイラが登場したのだろう。


「今宵の催し物は、今迄とは比べ物にならない程、楽しい物になる事を御約束致します」


 ノゲイラの言葉に、観客も大盛り上がりだ。

 俺はノゲイラの話を聞きながら、奴隷っぽい服に着替える。

 一応、髪もぼさぼさにして、それっぽく見えるようにする。

 クロから、奴隷にされた者達は全て保護したと最終の連絡を貰う。

 取り急ぎ、クロには奴隷にされた者達を王都に連れて行って貰い、解放してくれるよう頼む。

 王都ではユキノとヤヨイ達が待機している。

 俺も奴隷の装いをして、部屋に向かい移動しようとするが、奴隷アイテムの首輪が付いていない事に気が付く。

 以前に外した物を形だけ首に取り付ける。

 これで、何処から見ても奴隷にしか見えないだろう。


 奴隷商人だった者達は二部屋に分かれていた。

 その他に、ショーシア達子供が三人。

 空いていた部屋に、俺は勝手に入り【隠密】を解く。

 他の部屋からは見えないので、俺が一人だけ居るという事は分からない。


「お前、他の奴達はどうした?」


 俺を発見した奴隷商人が、質問をして来た。


「さっき、鍵が締まっていなかったと言って、逃げて行ったぞ」

「そんな事あるか! 俺はきちんと施錠した筈だ」

「それは分からないが実際、俺しか部屋に居ないだろう?」


 奴隷商人は自分は施錠をした自信はあるが、現実を目の当たりにしているので自信が揺らいでいた。

 同時に、奴隷を逃がしてしまった事により、ノゲイラから何をされるか分からない恐怖を感じ始めていた。


「なんで、お前は逃げなかった」


 恐怖から免れようとしているのか、奴隷商人は俺に話し掛けてくる。


「あぁ、逃げても行く所が無いし、万が一捕まったら懲罰受けるんだろう。それなら、此処にいた方が良いと思っただけだ」


 俺はそれらしい理由を付けて話す。

 奴隷商人も俺の言葉に一理あると思ったのか、納得していた。

 分かってはいたが、奴隷にされた者の顔は、やはり覚えていないのだと思った。

 俺は【分身】を使う。

 分身を部屋に座らせて、俺は【隠密】で闘技場へと向かう。


 闘技場では、ノゲイラが長々と話を続けていた。

 話の内容は分からなかったが、ルーカスが奴隷制度反対している事に対して、反論を述べている。

 観客席に居る者達もノゲイラの言葉に同調していた。

 今よりも待遇を良くしたい貴族達を煽って、ルーカスを国王から引きずり降ろそうとしているとも思える。

 欲と言うのは、幾らでも大きくなり限りが無いと知っている。

 ここに居る者達は、取り分けて強欲な者達ばかりなのだろう。


 改めて闘技場を見渡してみると観客席の前に棒のような物があり、その先端に石のような物が埋め込まれている。

 何か分からないので【転移】で移動して、誰にも気づかれない様に石に触る。

 【全知全能】に質問をすると『結界石』と言い、幾つかを連ねて使うと【結界】と同様の力が発動するらしい。

 しかし、威力が弱いので強い魔獣には効かない事もある。

 俺は【全知全能】からの回答を理解した。

 確かに目を凝らしてみれば、棒の他にも壁等にも結界石が大量に埋め込まれている。

 これだけの数でなければ、観客に被害が及ぶという事が分かる。

 俺は先程同様に【転移】で結界石を触る。

 そして、闇闘技場全体に【結界】を張り、闘技場の外に出れない様にした。


 ノゲイラの長い挨拶が終わると、タルイ領主であるエランノットが登場する。

 先程以上の歓声だ。

 エランノットもノゲイラ同様に、国王であるルーカスを批判する。


「タルイがいえ、このエルドラード王国が、これ程までに繁栄したのには此処に居られる価値の有る方と、存在自体意味を成さない不必要な者達との身分の差があったからこそです」


 観客席に座っている貴族達は皆、頷いていた。

 自分達は特殊で、選ばれた者だという認識があるのだろう。


「エランノット様こそ、国王に相応しい」


 貴族の一人が叫ぶと、他の者も「そうだ」と言い始める。

 エランノット自身も御満悦のようだ。

 自分が国王に相応しいと言われれば、悪い気はしないだろう。


「皆様、ご静粛に」


 エランノットの言葉に、徐々に話し声が小さくなる。


「私の話はこれ位にしておいて、皆様お待ちかね本来の目的である事を楽しみましょう」


 観客席から、一番大きな歓声が上がる。

 その脇で、ノゲイラは部下から報告を受けている様子だったが、凄い形相をしていた。

 用意していた奴隷の殆どに逃げられた事を知ったのだろう。

 エランノットは、ノゲイラの様子がおかしいと気が付く。

 そして、ノゲイラの報告を受けると鋭い眼光でノゲイラを睨んでいた。

 ノゲイラは進行役も兼ねているのか、高台に上がる。


「まず、手始めにオーク戦を御覧頂きましょう」


 オークの相手は、どうやら俺のようだ。

 分身が連れていかれているのが分かった。

 俺はすぐに【分身】を解いて入れ替わる。


「俺もお前と同じ運命かもな……」


 俺を連れて行く奴隷商人は覇気が無かった。

 俺に数時間後の自分を重ね合わせているのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る