第540話 引越し屋!

 最近の俺は、都合の良いように使われている感じがする。

 シキブとムラサキのジークから、ゴンド村の新居への引越しの手伝い。

 そして、空き家になったシキブ達の家へ今度は、トグル達の引越し。

 イリア達も引越しは、もう少しだけ先になるが、俺を使う気でいる。

 ただし、常識人のイリアとエイジンは、それなりの報酬を払うと言うが、従業員になる二人の引越しなので、報酬は要らないと答える。

 それは、トグルと一緒に引越しをするリベラに、双子の兄弟ザックとタイラーも同じ事だ。

 当然の事だがトグルは、おまけだ。

 しかし、シキブとムラサキからは明確な報酬の話は無かった。

 俺としては「報酬を払う」と言っても断るつもりでいる。

 最初から無報酬のスタンスだと、少し複雑な気分になる。

 

 トグルからは「今迄、散々迷惑掛けてきたんだから、恩返しくらいはきちんとしろ!」と上から目線で文句を言われる。

 内心、おまけで引越しの手伝いをしてやったトグルに言われると、余計と腹が立つ。

 そんな俺の気持ちを知ってか、トグルの引越しが終わってから、シキブとムラサキから礼を言われる。

 ムラサキから「報酬は支払うので、少し待っていてくれ」と頭を下げられた。


「子供が生まれるので、色々と揃える物があったりと大変だろう。気にしなくていいぞ」


 俺の心が広い事を、ムラサキとシキブに伝える。


「元気な子供の顔を見せてくれたら、それで十分だ!」


 俺はムラサキの顔を見て笑う。

 ムラサキは恥ずかしそうに笑い返した。

 親しき仲にも礼儀有りだ。と改めて感じた。


「それはそうと、悪いが今回の件、俺は辞退させてもらうつもりだ……」

「まぁ、その方が良いだろう」


 今回の件とは、数週間後に行われるタルイへの討伐になる。

 指揮を取るのは、王国騎士団団長のソディックになる。

 オークロードを討伐した実績があった、ムラサキとトグルにも声が掛かった。

 シキブは妊婦なのは、グランドギルドマスターのジラールから報告を受けていたのだろう。

 トグルは参加すると言っていた。

 当然、俺にも声は掛かっている。断る気も無いし、事の発端は俺かも知れないので、参加はする。

 明日、王都で作戦会議が開かれると言うので、トグルを連れて王都に行かなければならない。

 新しくギルマスに就任したルーノは、トグルに対して「なんで、お前が……」と、妬んでいるようだった。

 ルーノは妹のリンカがジークに来た為、ギルマスの仕事とリンカの面倒とで大変そうだった。

 結局、リンカも冒険者になり、ルーノの目の届くこの街で生活する事になった。


 シロと作成していた『魔物図鑑』も初級に中級、上級と完成した。

 グランド通信社と冒険者ギルドとの間で、正式に書籍化する運びになる。

 今後、冒険者になる者や、ランクの低い冒険者には、初級の本を無料で渡す事になる。

 マリーは、何もしていないのに儲かるのも変な感じだと言っていた。

 この本だけでも、かなりの収益になる。

 四葉商会も安泰だ。


 ジークのスラム街跡地について、新しく建物を建てるつもりだったが、今の所で不便を感じないので、計画は白紙に戻った。

 『ブライダル・リーフ』の店主、リベラも隣に引っ越した事も影響しているのだろう。

 結婚式だが、進行を行う牧師や神父が出来る人材を確保出来ない為、店でマリーやリベラが、説明を兼ねた指輪交換をしていたら、それが一般的な結婚式のように世間に認知されてしまった。

 ジーク領主のリロイ達のような結婚式とは別のものだと理解されている。

 ムラサキとシキブは、『ブライダル・リーフ』の宣伝も兼ねた式だと言う噂まで出回っていた。

 俺的には、きちんと結婚式を普通に生活している人達にも挙げて貰いたかったので、少し複雑な気分だった。


 王都魔法研究所に居るローラからは、開発中の【交信】出来る機械が出来ないので、助言を求められる。

 正確には助言と言うよりも、固定概念を覆す為、別の角度から物事を見た上でどう思うかという事で、常識外れの俺に連絡が来た訳だった。

 内容を聞くと、近くでは成功するが離れると通話が出来なくなると言うので、途中に中継出来る機械を設ける事を提案する。

 ローラは「これで問題のひとつは解決しそうだ」と言う。

 話し振りから、他にも幾つか問題があるのだろう。


 クロはタルイの調査を継続して貰っている

 俺は【全知全能】で「この世界で、ガルプツーと言う名の居場所を教えてくれ」と質問をすると、回答不能だった。

 より詳しい情報で「この世界で、ガルプツーと言う名のパーガトリークロウの居場所を教えてくれ」と質問したが、先程同様に回答不能になる。

 いつも通り、質問の内容が悪いのだと思うが、これ以上の情報は無い。

 変だと感じた俺は、シロにシャレーゼ国に侵入調査をして貰う。

 シロからは、シャレーゼ国は貧富の差が激しいと教えてくれる。

 これは以前に聞いた情報と同じだった。

 街の中に、餓死や病死した死体が、そのまま転がっており衛生的にも酷い状況で、赤ん坊や幼児の存在は確認出来なかったそうだ。

 俺が「流行り病の可能性は?」とシロに質問をすると、「その可能性は低いと思います」と答える。

 シロは「国として成り立っていない状況」だと言っていた。

 シャレーゼ国にある枯槁ここうの大地に、生死不明になっている樹精霊ドライアドの調査もある。

 シャレーゼ国にガルプツーが居ると思っていた、俺の考えは間違いだったのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る