第537話 友からの依頼!

 先代グランニールは、俺達との会話を楽しんでいるように思えた。

 この場所に、たった独りで長い間居たのだから、会話できる相手が居るのが嬉しいのだろう。

 特に初対面の俺が居る事で、会話の幅も広がっているのだと感じた。

 息子であるグランニールの子供の頃や、アルとの昔話等を面白おかしく俺に話してくれる。

 アルは時折、内容を否定したりしたが、それさえも嬉しそうな顔だった。


「あいつは、まだ喋れんのか!」


 息子のグランニールが、人族の言葉を未だ話せない事に、ショックを受けていた。


「アルがグランニールの言葉を理解しているし、アル以外の人族との交流も少なかったから、覚える必要が無かったのかもな」


 一応、グランニールのフォローをしておく。


「ゴンド村、アル達が住んでいる村の子供達も少しだが、ドラゴン族の言葉を理解出来るらしいので、子供のドラゴンの方が早く人族の言葉を覚えるかもな」

「それはそれで、ドラゴン族の長として失格だと思わぬか?」

「ん~、確かに話せるにこした事は無いが、話せないのであれば話せる奴に任せるのも一つの方法だと、俺は思うぞ」

「人族らしい考えだな」


 先代グランニールは考えていた。

 当たり前の事だが、此処に独りで居ても、ドラゴン族の事は気になるらしい。


「タクトよ。此処に来た土産に、足元に転がっている鱗や髭を持って行って良いぞ」


 先代グランニールの足元や周囲には、長年蓄積された鱗や髭が無造作に落ちていた。


「魔素の影響で強度等も強くなっておる。これで武器や防具を作れば、最強の物が出来るじゃろうな」

「魔素を帯びた物を使って、人族に影響は無いのか?」

「それは分からんな。魔剣と言われる武器等と同じになるかも知れんの」

「……とりあえず、貰える物は貰っておく。ありがとうな」

「気にするでない。邪魔な物を片付けてくれるので、こちらが感謝するくらいだ」


 俺は落ちている鱗や髭を【アイテムボックス】に仕舞おうと近付く。


「あぁ、タクトは近寄ると拘束している器具等に影響があるかも知れんので、動ける範囲で良いので、適当にこっちへ蹴ってくれ」

「分かった」


 先代グランニールは俺達の方に向かい落ちている鱗や髭を動ける範囲で飛ばしてきた。

 アルやネロも入れないのは、あの中に入れば何人であろうと、先代グランニール同様に拘束される。

 しかも、拘束される人数に反比例して拘束強度が変化する為、グランニールの拘束が解かれる危険があるそうだ。

 この洞穴で、この場所まで魔獣が一匹も居なかった事に納得する。

 魔獣等が入って来られない様に、何かしているのだろうが結界であれば、俺達が破壊したとも考えられるが、洞穴に入った際には破壊した感じはしなかった。


「グランニールの魔力を、魔獣が嫌う匂いに変えておるので、寄っては来ん」

「この匂いに気が付かない師匠は、鈍感なの~」


 全く、臭いがしない。

 ネロの言う通り、鈍感なのだろうか?

 身体能力は向上しているが、五感は強化されていない感じなので、普通の人間族と大差が無いのかも知れない。


 グランニールは溜息なのか、息を大きく突風のように吐いて話し始める。


「私の意識がある時間が、随分と短くなってきておる。完全に意識が無くなるのも、時間の問題だろう」

「お主は会う度に、同じことを言うの」

「何回でも言うつもりだ。アルシオーネに会う度に、それは実感出来る」

「それは分かったのじゃ」


 アルは、先代グランニールが次に言う台詞が分かっているので、適当にはぐらかしているのだろう。


「私が私で無くなった時は、遠慮無く私を殺してくれ。頼む」


 そう話す先代グランニールの目は真剣だった。


「分かったのじゃ。妾が必ず殺してやるから、安心するのじゃ」

「本当に頼むぞ。友としての頼みを裏切るなよ」

「しつこいの! 分かったと言ったら分かったのじゃ」

「タクト。お前に会えた事は、何かの導きかも知れんな。我が息子グランニールにアルシオーネの事を頼んだ」

「あぁ……」

「そろそろ、時間が来たようだ。又、会える事を期待している……」


 先代グランニールは話し終えると、眠る仕草を取る。


「タクトよ。よく見ておけ」


 アルが真剣な表情で、俺に語り掛ける。

 先代グランニールが目を開けたかと思うと、暴れ始める。

 両手足と胴体に首、巻き付いている鎖を外そうと必死になっている。

 明らかに、先程までの雰囲気とは異なる。


「これがこの世界で、一番強力な魔獣のドラゴンロード本来の姿じゃ!」


 そう話しながら、先代グランニールを見るアルは悲しそうだった。

 いずれ、自分が長年の友を殺す事に躊躇っているかのようにも見える。

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