第536話 ドラゴンロード!

 案内されたのは、大きな洞穴だった。

 心なしか、案内するアルに元気が無いように思えた。


 上部から差し込む小さな光が、鎖に繋がれた一匹のドラゴンを照らしていた。


「これは珍しい。久しいな、アルシオーネ」

「元気か? と聞くのも変じゃな」

「気にするでない、私が決めた事だ。それよりも、そこの人間族が新しい魔王か?」

「そうじゃ、第四柱魔王になったタクトだ。そして、妾とネロの師匠じゃ」

「お前達の師匠だと! お前達より強いのか!」

「あぁ、強いぞ! それに面白い」

「ちょっと、待ってくれ」


 俺は戸惑いながら、アル達の会話を止める。

 一目見ただけで、ただのドラゴンで無い事位は俺でも分かる。

 なにより、俺達と言葉が通じる事に驚いた。


「俺の名はタクトと言う。【呪詛】で丁寧な言葉を話す事が出来ない」

「そうか、私の名はグランニール」

「グランニール?」

「お主の知っているグランニールの父親じゃ」

「父親?」


 混乱する俺にアルは説明を始める。

 此処に居る先代グランニールは、数百年前にドラゴンロードになる前兆を見せる。

 ドラゴン族は知能が高い種族の為、最初は破壊衝動等を制御出来ていたが、何年も経つと、次第に自分での制御が難しくなり、我を忘れてしまう事が多くなってきた。

 破壊衝動を抑える事が出来なかった際に、同族であるドラゴンに大怪我を負わせた事を気に病んだ先代グランニールは、長年の友人でもあったアルを頼る事にする。

自分が殺されると、新たにドラゴンロードが誕生してしまう為、生きたままの拘束する措置を取って欲しいと、アルに頼んだ。

 アルは第三柱魔王ロッソに協力して貰い、先代グランニールを拘束する鎖等を作ってもらう。

 グランニールと言う名は、ドラゴン族の長が代々受け継ぐ名前らしい。

 先代は息子にグランニールの名と共に、ドラゴン族の長になる事を託す。

 紅い目に黒い鱗に包まれた体。そして立派な翼。

 気高く気品があり、ドラゴンロードの称号に恥じないと感じた。


「食事等はどうしているんだ?」

「ここの魔素を吸っているだけでも、多少は腹が膨れる」


 その割には痩細っていない。

 動かない分、消費エネルギーも少ないのだろうか?


「たまに妾も食事を持って来てやっているからな」

「そうだ。アルシオーネには感謝している。ところで、タクトとやらは、アルシオーネやネロよりも、強いのは本当か?」

「あぁ、その件だが……」


 俺は正直に話す。

 戦闘という点で言えば、アルやネロには全く歯が立たない。

 俺の弟子と言っているのは、ゲームで勝てないので弟子になっただけの事だと。


「それはそれで、面白いでは無いか」

「そうなのじゃ! タクトと居れば退屈せんのじゃ」

「そうなの~」

「そうか。アルシオーネにネロ、良かったの」


 優しそうに話す先代グランニールは、二人の父親のようだった。

 アルにネロも照れていた。

 俺には分からない長い時間を共に過ごしてきた、かけがえの無い友人なのだろう。


「あいつは元気でやっておるか?」


 先代グランニールが言う「あいつ」とは今のグランニールの事だろう。


「元気じゃぞ。そこのタクトの村で人族共交流をしておる」

「人族と交流だと?」

「そうじゃ。妾達もその村に住んでおる」

「私が知らぬ間に、魔族と人族間で和解でもしたのか?」

「いや、相変わらず種族同士の争いは無くなっておらぬ。タクトの村だけが、この世界で異質な村なだけじゃ」

「そうか。少し期待したが、やはり難しいの」


 先代グランニールは争いが嫌いなのだろう。

 しかし、ロードと一括りに言っても、様々な形態があるのだと感じた。

 そもそも何故、ロードが必要なのか?

 そして、誕生する理由……。


「しかし、新たな魔王が人間族とはな。これから大変だな」

「まぁ、今でも大変だけど。何かあるのか?」

「力を持ったロードであれば、新たな魔王を倒して自分が魔王になろうと考える馬鹿な者も居る」

「それは大丈夫じゃ」


 アルが先代グランニールの発言を否定する。


「魔族の間では、タクトは妾とネロの師匠だと知れ渡って居るので、タクトを倒そうとする者等、現れんじゃろう」

「成程。確かにアルシオーネとネロの強さを知っている者で有れば、手を出す事は無いの」


 その考えは俺には無かったので、少し戸惑った。


「タクトや。我が息子の事、宜しく頼む」

「俺は特に何もしてないが、グランニールには世話になっているから、出来る限りの事はするつもりだ」

「まだ未熟なので、迷惑をかけるかと思うが宜しく頼む」


 グランニールは長い首を折り、俺に頭を下げた。

 俺も了解したと、同じように頭を下げる。


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