第530話 魔境!

 アルに連れられて来た場所は見覚えの無い所だった。

 【魔力探知地図】で調べると案の定、初めて訪れる場所だった。


「ここはエルドラード王国の領地内なのか?」

「何を言っておる。人族の領地では無いぞ」

「はぁ?」


 アルから衝撃的な事実を告げられる。

 人族が統治している『エルドラード王国』『オーフェン帝国』『シャレーゼ国』の三国は、この世界のすべての土地を統治している訳では無かった。

 人族では越える事が出来ない山脈の向こうに、魔族が生存する土地が存在していた。

 但し、こちらの魔族は人族の統治している所に行く事が出来ないと言うか、生存する事が出来ない。

 逆もしかりで、人族の統治する魔族が山脈を超えて来ても生存する事は出来ない。

 魔素が充満されているこの土地だからこそ、人にとって魔素が有害なように、魔素が無い人族の土地は此処に住む魔族達にとっては呼吸が出来ないのだろう。

 この土地の事を『魔境』とアルは呼んでいた。

 大きさで言えば、オーフェン帝国より少し小さい位だと、アルは教えてくれた。 

 魔境に生存している魔族は、殆ど魔獣ばかりで知能も低い。

 純粋な弱肉強食の生態系が成り立っていた。


「ちょっと、待ってくれ。それだとアルやネロはどうして行き来する事が出来るんだ?」

「ふふっ、それは妾達が強いからじゃ!」

「そうなの~」


 説明になっていない。それより、俺がこの魔境に適合していなければ死んでいた事を考えなかったのだろうか?

 俺はもう一つの疑問を感じた。それは『ロード』についてだ。

 俺達の知らない世界で魔族が存在しているのであれば、当然ロードが存在するはずだ。

 ロードになれば、それなりに知能もある。

 魔素の事もあるが、人族の領地へ侵略する事だって考える事が出来るだろう。

 それにロードになれば、魔王の称号を得る事だって考えられる。

 魔境に魔王が居ないというのも変な感じだ。


「この魔境でもロードは居るのか?」

「それがの、この魔境ではロードらしき者が居ないのじゃ」


 アルも昔、強き者を求めて魔境で討伐をしていたが、ロードのように紅眼の魔獣を発見する事が出来なかったそうだ。

 神に代わって、魔王討伐した際に、神に聞いてみると魔境に生存する魔族はロードになる資格が無いと言われたそうだ。

 ロードになる資格が無い魔族?

 そもそも、ロードになる資格とはなんだ?

 【全知全能】に質問しても良いが、神であるエリーヌかモクレンに聞く方が良いと思い、稽古が終わってから聞いてみようと思う。


「ここの魔獣は強いのか?」

「人族に居る魔獣に比べれば、段違いに強いぞ。戦ってみるか?」


 アルは挑発するように俺に話し掛ける。


「少しだけ戦ってみるか」


 【魔力探知地図】には数え切れない位の印があるのは先程、確認していた。

 但し、アルとネロの周りから魔獣は離れていた。

危険を察知した回避行動なのだろう。

 俺がアル達から離れると、俺は危険で無いと判断されたのか徐々に印が集まってくる。


 草むらから一匹の魔獣が姿を現す。

 何度となく見た事のある姿のそれはゴブリンだった。

 しかし、体の色は黒っぽく、体格は一回り以上大きく俺の知っているゴブリンとは、若干異なっていた。

 俺を見つけたゴブリンが奇声を上げる。

 仲間を呼んだのだろう。しかし、普通であれば、数匹単位で行動するゴブリンが、単体で行動する事にも驚く。

 草むらから一匹、もう一匹とゴブリン達が集まってくる。

 手には丸太のような物を持っている者も居る。

 武器を製作する技術が無いこの土地では、丸太等が唯一の武器なのかも知れない。


 俺を叩き潰すとする丸太を左手で受け止める。

 そのまま丸太を握っていると、他のゴブリン達が同じ様に丸太で俺を叩き始めた。

 俺は握っていた丸太を離して、叩きつけられる丸太を全て避ける。

 辺りには土煙が立ち、ゴブリン達の笑い声が聞こえる。

 俺を倒したと思っているのだろう。

 土煙から俺の姿を発見すると、奇声を上げる。

 ひたすら俺の居る所を叩くが、ゴブリン同士の丸太が当たり見当違いの所を叩く事もある。

 俺は簡単に避けて最初に攻撃してきたゴブリンの背後に回り、腰の辺りを叩くとよろけて前のめりで倒れる。

 倒れたゴブリンを、他のゴブリン達は丸太で叩いていた。

 自分達が叩いているのが仲間のゴブリンだと気が付いていないのだろうか?

 暫くして攻撃が終わると、倒れたゴブリンをじっと見ていた。

 仲間同士で何かを話しているようだが、目の前の俺に気が付くと同時に襲い掛かって来た。

 俺が避けるだけで、ゴブリン同士で叩き合い自滅していく。

 最後の方は、殴られたゴブリン同士で喧嘩になり、俺を討伐するという目的自体無くなっているようだった。

 最後に立っていたゴブリンが勝利の雄叫びを上げる

 俺は無防備なゴブリンの背後から攻撃をする。

 ゴブリンの体に俺の拳が貫通する。

 その後、倒れているゴブリン達も完全に殺しておく。

 一応、コアを回収するが濁った色をしていた。


 ゴブリンと言えば、弱い部類になる。

 人を攫ったりと自分より弱い者を徹底して狙う魔族だ。

 この魔境と言われる場所だと、人族のように弱い種族が居ない。

 そう考えると、ゴブリンは最弱部族なのでは無いだろうか?

 考え込んでいると、正面から大きな石が飛んで来た。

 俺はそれを拳で砕く。

 石の飛んで来た方向の茂みに何か居るのを感じる。


 二回戦の開始だ。

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