第518話 怖い魔王!

 雪山に【転移】した俺はスーノパパを探す。

 【魔力探知地図】で大きな印を発見したので、とりあえずそこに移動する。

 吹雪の中暫く歩くと、黒い人影が見える。スーノパパが立っていた。


「この気配はタクトだったか」

「久しぶりだな」

「俺、元気。タクトも元気か?」

「あぁ、俺も元気だ」

「タクト約束守ってくれた。俺の家族紹介する」

「あぁ、頼む」


 俺の気配を感知したのか、危険を感じて様子を見に来たようだ。

 スーノパパは毛で隠れて表情が分からないが、喜んでくれている事だけは分かった。

 吹雪の中、スーノパパの後ろを付いて行くと、洞穴が見える。


「あそこ、俺達の家」


 洞穴を指差しながら、スーノパパは自分の家だという事を俺に教えてくれた。

 俺はてっきり、かまくらのような家や、エスキモーが住むような氷や雪で出来た家を想像していた。

 洞穴の中には、奥さんのスーノママと子供達三人が居た。

 子供達は、俺に警戒しているのか、スーノママの後ろで隠れるようにしていた。


「タクト。俺の家族だ」


 スーノパパは俺に家族を紹介するので、俺も挨拶をする。


「人間族のタクトだ。宜しく!」


 俺の言葉にスーノママは頭を下げる。

 スーノパパ同様に表情は分からないが、毛で隠された体でも女性という事は分かった。


「タクト、本当に魔王!」


 スーノママは俺が魔王な事に驚いていた。

 スーノパパから聞かされていても、人間族が魔王になるなど信じられなかったのだろう。


「魔王、怖い……」


 子供の一人が呟く。


「魔王に会った事あるのか?」

「ある」


 スーノパパに確認すると即答だった。

 会ったと言っても喋った事がある魔王は一人だけだそうだ。

 魔族であれば、魔王の管轄下にならなければいけない事も無いので、余程のもの好きでなければ雪山に暮らす雪人族に会いに来る事も無いだろう。

 ……もの好き。一瞬、嫌な予感が頭を過る。


「因みに会った事がある魔王って誰だ?」

「アルシオーネ様だ」


 俺の嫌な予感が的中する。


「その魔王に嫌な事をされたのか?」

「された。固く握った雪玉を投げられて怪我をしたり、雪崩を起こしたりと凄かった」


 その光景が目に浮かぶ。子供達が怯えるのも理解出来た。


「俺はそんな事はしないから、安心しろ。もし、その魔王が来たら俺の名前を出せば、悪い事はしない筈だ」

「本当か!」

「あぁ、嘘だと思うのであれば、その魔王を呼んで証明するぞ」

「……アルシオーネ様、怖い」


 子供達が、怯えていた。

 ……アルは遊んでいただけだろうが、周りは怯えてしまう。

 友人が少ない理由の一つだろう。


「まぁ、呼ぶのは止めておくが俺は怖くない事だけは信じてくれ」


 スーノママの後ろに隠れている子供達に向かって、腰を落として手を出す。


「タクト、優しい。大丈夫」


 スーノパパが話すと、恐る恐る前へと出てきた。


「挨拶する」


 スーノママが子供達に礼儀として挨拶をするように言う。


「僕、スーノピカリ」


 最初に話し掛けてくれた子供はスーノピカリだった。


「私は、スーノララ」

「僕は、スーノモジャ」


 続けて残り二人も挨拶をする。


 全身毛だらけなので、スーノララは辛うじて判別がつくが、スーノピカリとスーノモジャに関しては判別不能だった。

 俺の差し出した手には誰も触れようとしなかった。


「タクト、熱い。子供達、苦手」


 雪人族にとっては、俺の体温が高い為、触れる事を怖がっている事をスーノパパは教えてくれた。


「確かにそうだな」


 しかし、触れる事が出来ないのは残念と言うか、寂しい気持ちになる。


「あっ!」


 俺は【アイテムボックス】から写真を取り出して、スーノパパに渡す。

 何も無い空間から、紙が出てきた事に子供達は驚いていた。


「これ、俺?」


 スーノパパはそこに移っているのが自分なのか、疑問の様子だ。


「スーノパパ。何故、ここに?」


 スーノママは写真とスーノパパを交互に見ていた。


「これが俺……」


 今迄、鏡の代わりに氷や水面でしか、自分の姿をまともに見た事が無かったのだろう。

 スーノパパは嬉しそうだった。


「家族全員の写真、取ってやるぞ」

「本当か!」

「あぁ」


 スーノパパは勿論、スーノママや子供達も喜んでいるようで並ぶ。

 俺はそれをカメラで撮り、後日持って来る事を伝える。


「俺達、楽しみ」


 スーノパパ達は歓喜の踊りなのか分からないが、皆で踊っていた。

 俺は雪人族が嬉しいと、頭の毛が少しだけ寝ぐせのように立つ事を知った。

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