第508話 街一番の迷惑者!

 シキブ達に礼を言って、イリアとトグルと一緒に部屋を出る。

 セフィーロの目の色は黒色に戻っていた。

 俺の目線に気が付いたセフィーロは「心配しなくても大丈夫」と小声で話す。


 一階に下りようとすると階段途中でルーノと目が合う。

 ルーノは俺に頭を下げた。

 階段を下りきると、ルーノが俺の所まで歩いて来た。


「タクトさん。先日は失礼致しました」

「先日?」

「リンカの件です」

「あぁ、別に気にするな。それに、俺を呼ぶ時は呼び捨てで良いぞ。同じ冒険者だしな」

「はい、ありがとうございます」

「なんか、印象が違うな?」

「これが本来の姿です」


 ルーノは紳士的に振舞っている。


「嘘つけ。すぐにボロが出るから止めとけって」

「なんだと、こらっ!」

「ほれみろ」


 ルーノはバツの悪そうな顔をしている。


「そうだな。普段通りで良いぞ」

「しかし……」

「何か、問題でもあるのか?」

「ダウザーさんの友人で、しかもランクSSSですし……」

「それを言ったら、トグルも俺に同じだろう」

「いや、コイツは馬鹿ですから」

「何だと! お前の方が馬鹿だろうが」

「いや、お前の方が馬鹿だろう」


 子供の喧嘩にしか見えない。

 興奮している二人だがイリアが咳をすると、動きを止めて恐る恐るイリアを見る。


「後でギルマスの部屋に来て下さい」

「はい……」


 既に同じ様に喧嘩をして、何度も叱られている事は想像出来た。

 しかし、この二人で今後上手くやって行けるのか不安になる。


「ところで、リンカは元気か?」

「あぁ、元気だぞ。集落に帰したが、俺がジークに来ると言ったら、一緒に来ると行っていたので俺の面倒見てもらう為に近々、到着するだろう」

「自分の事も自分で出来ないのかよ」

「あぁ!」

「んっ、んん」


 言い争いになる前に、イリアが咳払いで止める。

 トグルとルーノは完全に委縮していた。


「ザックとタイラーは、どうした?」

「それなら今、家に帰したぞ」


 ルーノが答えた。

 しかし、あっという間に紳士的態度で無くなったのは、相当無理をしていたのだろう。


「なんで、ルーノが答えるんだ?」

「あぁ、暇だったので街を巡回しながら時々、俺が面倒を見ていた」


 どうやら、トグルの方針で他の職業や武器等を経験させる事で、今後の連携等に役立たせようとしているみたいだ。

 訓練場に居たそうだが、俺達とは入れ違いだったようだ。


「まぁ、二人共仲良くやれよ。あんまりイリアを困らせるようだったら、ダウザーに連絡するからな」

「いや、それは……」


 二人共、本当に嫌そうな表情を浮かべる。

 若い時のトラウマだろう。


「そうですね。何かあれば、ダウザー様に来て頂きましょう」


 二人には笑顔のイリアが悪魔に見えただろう。


「タクトさん、少し御待ち頂けますか」

「あぁ、別にいいぞ」


 イリアはそう言って、受付に戻って行った。

 馬鹿二人が又、喧嘩しそうになるので、俺が二人の肩に手を置くと笑いながら別々の方向に歩いて行った。


「お待たせしました」


 イリアが戻って来た。

 後には受付嬢のユカリが居た。


「私の代わりに受付長になるユカリです」

「宜しく御願いします」


 ユカリは頭を下げて挨拶をする。


「そうか、ユカリが受付長なのか」

「はい。適任だと思い後継者に任命しました」


 ユカリは俺が初めて、このジークに来た時に対応してくれた受付嬢だった。


「俺は最初、嫌そうな顔をされたよな」

「いや、それはタクトさんが怪し過ぎたからですよ」

「そうですね。その件に関しては、ユカリに非はありませんね」

「そうか?」

「当たり前ですよ。変な恰好で無職だったじゃないですか。しかも、高レベルだと言われても信用出来る訳ないじゃないですか!」


 ……今も無職なんだけどな。


「この街の冒険者で一番面倒なのは、タクトさんなんですから自覚して下さいね」

「そんなにユカリに迷惑掛けたか?」

「……私もそうですが、受付嬢全体の意見です」


 俺はイリアを見ると、大きく頷いていた。


「全く心当たりが無いんだけどな」


 イリアとユカリは大きく溜息をついていた。


「まぁそれよりも、例の鑑定士を目指していた彼とは、うまくいっているのか?」

「はい、お陰様で」

「……なんで、ルーノさんを覚えていないのに、ユカリの彼氏は覚えているんですか!」

「さぁ、なんでだろうな」


 そんな事を聞かれても、俺もよく分からない。


「まぁ、イリアの後だと大変かも知れないけど頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」


 ユカリは深々と頭を下げて、イリアと一緒に去って行った。

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