第505話 魅力的な女性!

 外に出ると、行き交う男性達がセフィーロに目を奪われていた。

 ここまで、男性達を誘惑するのであれば、サキュバスでは無いかと疑ってしまう。

 それに、ここに立たせておけば良い宣伝になるとも思う。


「この感覚、本当に久しぶりだわ」


 視線を浴びる事に、嬉しそうな表情を浮かべる。

 その仕草で更に、男性達からの視線が集まる。


「さっさと行くぞ」


 俺は呆れ気味に、セフィーロに声を掛ける。


「はいはい」


 不満そうに返事をするセフィーロだったが、俺は気にせずに冒険者ギルド会館へ歩き始める。


 冒険者ギルド会館には、冒険者達が戻っている時間帯だ。

 先程同様に、中に居た冒険者達はセフィーロに目を奪われていた。

 俺の隣に居る為、必然的に俺の連れだと分かっているのか、遠巻きで見ているだけの者が多数だった。


「タクト!」


 聞き覚えのある声がするので、声のした方を向くとトグルだった。


「よっ!」


 俺は手を挙げて答える。


「……隣の女性は誰だ。もしかして、浮気相手か?」


 トグルは疑いの目を俺に向けていた。


「違う違う」

「あら、貴方の体液を飲んだ仲じゃない。それなのに、寂しい事を言うのね」

「ん、なぁ!」


 セフィーロの言葉にトグルは勿論、他の冒険者達もざわつく。


「おい、誤解を招く言い方は止めろ」

「うふふ」


 完全にセフィーロは、この状況を楽しんでいた。

 セフィーロを連れて来たの失敗だったと、早くも後悔する。

 血液と言えば誤解を招くが、体液と言うと違う液を想像する事は間違いないし、別の意味で誤解を招く。


「なんの騒ぎですか!」


 受付からイリアが走って来た。


「……タクトさんでしたか。どうして、顔を出す度に騒動が起きるんですか!」

「それは、俺が聞きたい」

「それで、そちらの女性は?」


 俺が答えようとする前に、セフィーロが口を開く。


「ちょっと、ギルマスに挨拶でもしてこうかしらね」

「……なんで、そう問題をややこしくするんだ」

「やぁね。只の挨拶よ」


 相変わらず笑顔だ。

 仕方が無いので、イリアにシキブに面会の許可を取って貰う。

 ついでに、トグルにも同行をして貰う。


「サブマスも居るので、今からでも大丈夫だそうです」

「そうか。イリアも一緒に話を聞いてくれ」

「私もですか」

「あぁ」


 今後、四葉商会に就職する事が決まっているイリアには、出来る限り情報は開示しておいた方が良いと判断する。

 俺達が移動すると、冒険者達が俺に聞こえないように陰口を叩いていた。


「なんで、あいつばっか良い女を連れているんだ。この間も凄い美人を連れていたぞ」

「そうだよな。俺の方が絶対に良い男なのによ」

「やっぱり、金貨持っている方が良いのかね~」


 本当に好き放題言っていた。

 俺は特に気をしなかったが、セフィーロが陰口を叩いていた冒険者の所まで歩き始めた。

 ひとりの冒険者の前に立つと、右手で冒険者の顎を触り、上目遣いで冒険者を見る。


「坊や。綺麗な女が欲しいなら、もっと強くならないと無理よ。強さの前に金貨等、なんの意味も持たないわ」


 挑発的に、そして誘惑するような口調で冒険者達に言い放つ。

 セフィーロの言葉に、冒険者ギルド会館が静まり返る。

 種類は違えど【威圧】に似た空気だ。

 金貨より強さとは、セフィーロの価値観なのだろう。


「おい、置いて行くぞ」


 俺は、その空気を払拭するように、セフィーロに言葉を掛ける。


「はいはい」


 お道化るように、セフィーロは俺の所に戻ってきた。


「……問題起こすなよ」

「分かっているわよ」


 笑顔を崩さずに答える。

 案内しているイリアは、背中越しだが怒っているのが分かる。

 俺のせいじゃないのに、後で怒られるのだろうと感じていた。


「トグル。ミランダ達を送迎してくれているんだってな。ありがとうよ」

「……まぁ、ついでだ」


 なんのついでか分からないが、照れ隠しな事は分かった。


「他の冒険者に頼んだ際、自腹って事はないよな?」

「それは大丈夫だ。近くの宿に泊まっている奴に頼むだけだ。たまに飯を奢るくらいだし、自腹って事でもない」

「そんな無駄遣いして良いのか? リベラとの新居資金とかに貯めておいた方が良いだろう」


 俺の何気ない言葉に、トグルは真っ赤な顔になり言葉を発しなくなった。


「今度から、冒険者達に使った分だけ四葉商会に請求してくれ。大体の金額で良いから」

「……分かった」


 トグルは了承したがトグルの性格上、請求する事は無いだろうと思ったが、これ以上の事は言わないでおく。

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