第504話 久しぶりの帰宅!

 ババ抜きも終わったのでジークに戻る為、転移扉のある俺の家まで移動する。


「何故、転移魔法を使わないのだ?」


 てっきり、【転移】で移動すると思っていたフリーゼは疑問を抱き、質問をして来た。


「姉上。その答えは直に分かりますよ」


 得意げにルーカスは答える。

 フリーゼも、それ以上は聞く事は無かった。

 俺はリベラに連絡をして、今から行く事を伝える。


 転移扉の前まで来ると、ルーカスは立ち止まる。

 何も知らないダンガロイやフリーゼにしてみれば何故、この扉の前で立ち止まったか不可思議な光景だっただろう。


「カルア。例の物を」

「はい」


 カルアは転移扉の通行証を持っていない者に渡す。


「これは?」

「通行証だと思って貰えれば結構です。義兄上に姉上、行きましょう」


 ルーカスがダンガロイ達に、そう話すとシロが扉を開けてくれた。

 俺が最初に扉に入り、中継場所である王都の部屋でジークへの扉を開けてルーカス達を案内した。

 アルが扉に入ると、【結界】が破壊された。

 【魔法反射(二倍)】のせいだと分かったが、俺ではどうする事も出来ないので、このままにする。

 カルアには分かっていたのか、渋い顔をしていた。


 ルーカスに言われるがまま移動してきて、転移扉初体験のダンガロイとフリーゼは驚いていた。


「これは……」


 周りを見渡すダンガロイとフリーゼ。


「これは『転移扉』と言って、対なる扉であれば何処にでも一瞬で行ける扉です。まぁ、開発製作はタクトになりますが」


 ルーカスの簡単な説明で、ダンガロイとフリーゼは俺の方を向く。

 それに俺は笑顔で返す。


「この様な技術まで既に完成されているとは……」


 フリーゼは、衝撃的だったのか扉を何度も触っていた。


「皆様。いらっしゃいませ」


 物音がした事で、俺達が来た事に気が付いたリベラとユイが、リビングの扉を開けて挨拶する。


「リベラちゃんに、ユイちゃん。久しぶり」


 イースがユイに向かって手を振ると、リベラとユイは御辞宜をする。


「適当に座っていてくれ。今から食事を持って来る」

「分かった。アルシオーネ様にネロ様、ババ抜きの続きをしましょうぞ」


 ルーカスは一番に座ると、アルとネロに向かって早速勝負を挑む。

 当然、アルとネロは断ることなくババ抜きを始める。

 しかし、国王と魔王二人のババ抜きの光景を見ていると、この世界の重大な物を掛けているかのような感じだった。

 イースは、ユイとリベラ達と喋りに夢中になっていた。

 何度もこの家に来ている者達は、それぞれ適当に座って時間を潰そうとしている。

 勝手が分からないダンガロイとフリーゼ、それに護衛のセドナは困惑しているので、ユキノに話し相手を頼む。


 俺は一階に下りてガイルの店から料理を運ぼうとすると、セフィーロが後ろから付いて来た。


「街に用事でもあるのか?」

「いいえ、たまには人族の暮らしを体験してみようと思ってね」

「……いつでも体験出来るだろう?」

「それが、街に居ると男性から、声を掛けられて面倒なのよ」


 確かに、セフィーロは美人なので、軟派な男達から声を掛けられるだろう。

 しかし……


「その紅い目だと、魔族だと一目瞭然だろう」

「大丈夫よ」


 セフィーロはそう言うと目を閉じる。

 目を開けると赤い目は黒く変わっていた。


「これで、どうどうと歩けるわよ。何かあったら守ってよね」

「俺が隣に居れば、男達が寄って来ないという事か……」


 セフィーロは笑っている。

 何を言っても無駄だと思い、俺は仕方が無いと諦める。


「タクトさん、お帰りなさい」


一階でフランの弟子であるミランダと、妹のアルパに声を掛けられる。


「今から帰る所か?」

「はい。も少ししたら、トグルさんが戻って来ると思いますので」


 話を聞くと、ミランダとアルパの送迎をトグルが危険だからと言って、クエストが無い日は毎日やっているそうだ。

 トグルの都合が悪い日は、トグルが仲間の冒険者に頼んで送迎をして貰っているらしい。

 あのトグルが! と一瞬、耳を疑った反面、嬉しかった。

 しかし同時に、トグルが身銭を切って冒険者に頼んでいないか心配にもなる。


「トグルを待っている間に、これを【転写】してくれないか?」

「はい、分かりました」


 俺はミランダにカメラを渡す。

 中身は、雪人族であるスーノパパを撮影した物だ。

 写真を渡す約束をしているので、フラン不在なのでミランダに頼んだ。


「ところで、いつまで隠れているつもりかしら?」


 ミランダ達が居なくなると、セフィーロは空中を見ながら話しかけた。

 次の瞬間に、妖精族ピクシーのエマが姿を現す。


「なんで、ヴァンパイアロードが居るのよ」


 エマは半泣きだった。

 どうやら、エマはセフィーロと面識があるようだ。


「そんなに怖がらなくても大丈夫よ」


 笑顔でエマに話し掛けるが、エマにとってはその笑顔が何より怖く感じただろう。


「俺が保証するから大丈夫だ」

「……本当に」

「あぁ」


 エマは俺の肩に移動する。


「数少ないピクシーが居るなんて珍しいわね」

「あぁ、俺の所の従業員だ」

「ピクシーが従業員! 本当に面白いわね」

「タクト。なんで、ヴァンパイアロードと一緒なのよ」

「まぁ、それは色々あってな。因みに、二階には魔王二人居るぞ」

「えっ! 魔王二人って、状況的に一人はネロ様として、もう一人って……」

「アルシオーネよ」


 セフィーロが俺の代わりに答えると、エマは真っ青な顔になる。

 話を聞くと遠い昔、アルに追いかけられて死ぬ思いをしたらしい。


「まぁ、アルもネロも危害は加えないと思うから、挨拶だけでもして来い」

「いやよ。行くならタクトと一緒に行く」

「そうか、それなら料理を持って戻って来るから、その時な」

「……うん」


 エマは気乗りしないようだが、不意に見つかり攻撃されるよりは良いだろう。

俺はセフィーロと一緒に、向かいの冒険者ギルド会館に向かう。

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