第487話 村の役割!

 ゴンド村の神祠のある場所に、リロイとニーナを連れて戻る。


「これが村なのですか……」


 ゴンド村の状況を見ながら、驚きを隠せないでいる。

 それはニーナも同じであった。


「驚く準備はしていたんだろう」

「驚く次元が違います。多種族が共存しているようにも思えますが……」

「あぁ、色々な種族が居るぞ。人族は勿論だが、魔族もいるし、エルフ達も居るからな」

「エルフもですか!」

「あぁ、そうだ。一応、エルフ族と揉めるような事はしていないからな」

「はぁ……」


 リロイは溜息交じりの返事をする。


「それと、アルやネロもこの村に住むことになっているから」


 魔王二人が、この村に住むと聞きリロイとニーナの顔から完全に笑みが消える。

 自分の領地内に、このような村がある事は想定していなかったのだろう。


「タクト!」


 俺を呼ぶ声がするので振り返ると、ゾリアスとルーカスにアスラン、それにダンガロイが集まっていた。


「丁度良いな。紹介するジーク領主のリロイと、妻のニーナだ」


 俺が紹介するのも変だと思いながらも、リロイ達を紹介する。

 リロイとニーナは俺の言葉の後に、自己紹介をする。

 国王であるルーカスと王子のアスラン、それに国王の親族であるダンガロイに緊張しているのが、横に居ても分かる。


「余が言うのもなんだが大変だと思うが、宜しく頼むとしか言えぬ」


 哀れむようにルーカスは、リロイに話す。


「何が大変なんだ?」


 俺はルーカスに質問をする。


「この村が脅威だと、先程申しただろう」

「それの何が大変なんだ?」

「……もう良い」


 ルーカスは呆れていた。


「リロイ様。この度、ゴンド村の村長になったゾリアスと申します」

「ゾリアス殿、お久しぶりです。私が領主に就任した際に、ご挨拶に伺った時依頼ですね」

「覚えて頂いてましたか」


 ゾリアスはリロイが、スラム時代の自分を知っていた事に驚くのと同時に、有難い事だと思っていた。


「しかし、この村は凄いですね。種族は勿論ですがドラゴン等も居ますし……」 

「最初は戸惑うかも知れませんが、争い事も無く平和に暮らしております」

「そうですか。この村も本来はジークが襲われた際に、後方より加勢出来るように滞在出来る村だと伺いましたが、それは今も同じだと考えて宜しいですか?」


 リロイの話は初耳だった。

 ゾリアスも聞いていなかったのか、俺と見合う。


「前村長のゴードンを呼んで確認させて頂いても良いですか?」

「はい、御願いします」


 ゾリアスは、すぐにゴードンを探しに、この場から走り去っていった。


「この村が後方支援の村とするのは無理があるだろう」


 王都やルンデンブルク領からゴンド村を訪れるには、ジークを通らなければならない。

 それ以外の領地から応援が来る事は考えにくい。


「それは私も感じていましたが、この村には特殊な役割があるのかと思っていました」


 特殊な役割と言われて、この村を犠牲にする事で、ジークから少しでも戦闘地域を離そうとしているのかと感じた。

 しかし、目的は王都やジークになるので、暇潰しに襲われる村としか考えられない。


「お待たせ致しました」


 ゴードンを背負いながら走って来たゾリアスは、息を切らしながら話す。


「お初にお目に掛かります。前村長のゴードンと申します」


 ゴードンはリロイに挨拶をする。

 その後、前領主から言われた事をリロイに伝えた。

 ゴードンは気まずそうに話し始めた。

前領主からは、ジークが攻め込まれた際は味方であれば食料等の物資を全て差し出し、敵であれば抵抗せずに食料等を振舞い、井戸に毒を投げ込んで兵士が寝静まった後に、兵士を殺せと言われていたそうだ。

ゴードンは、この事を村の者達には伝えずに、敵が襲ってきたら抵抗せずに逃げるようにと言っていたそうだ。

話を聞いていても、敵に襲われても大した戦力と期待はしていない事は分かる。

敵味方にしろ、戦争が始まった段階でこの村は見捨てられる運命だったのだ。


「そんな約束守る必要無いな。襲って来る者は全滅させる。もしも、村の者に危害を加えたのであれば、死んだ方がマシだと思える程の拷問をしてやる」


 俺が話すと、誰も話さなくなった。


「タクトよ。お主が言うと、冗談に聞こえないな」

「冗談のつもりは無いぞ。まぁ、俺じゃなくても、対応してくれる奴は居るし、むしろ俺の方が優しいと思うぞ」


 皆が黙り込んでしまう。


「リロイ様。何かあれば村としては当然、出来る事は致しますが、出来れば平穏に暮らしたいと思っております」


 ゾリアスは協力はしたいが、他種族が生活しているこの村を味方だと思う者が居るかどうかも含めて、悩みながら答えていた。


「国王。戦争の際に、この村が援護したとしたら、国として魔族を認める事になるぞ?」

「確かにそうなる。時期にもよるが、この村が世に認められるまでには、もう少し時間が必要だろう」


 扱いに困る村なのだ。


「この村は良くも悪くも中立な村だ。危害を加えられなければ、こちらから攻撃するような事はしない」

「そうだな」

「そのうち、結界のような物で外から見えなくするつもりでもいる」

「そんな事が可能なのか?」

「分からん。第三柱魔王のロッソに相談してみるつもりだ」

「第三柱魔王か……その魔王まで住む事は無いだろうな」

「一緒に住むには難しいな。ある意味、俺より簡単に人や魔獣を殺せるからな」


 見つめるだけで命を奪う事が出来るロッソであれば、一瞬で村は壊滅してしまう。


「もう、それ以上は聞かぬが……」


 ルーカスは聞くんじゃなかったと、後悔していた。

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