第476話 魅惑の森!

 奴隷商人達が消えて暫くすると、リラが姿を見せる。


「終わったわよ」

「ありがとうな」


 奴隷商人達は、覚める事の無い夢の中で死んでいった。


「タクトさんの頼みを聞いたので、今度は私の番ですね」

「そうだな。無理な事じゃないだろうな」

「いつ私が、タクトさんに無理な御願いをしましたか?」


 不敵な笑顔を浮かべている。

 リラとしては、俺の実力を分かったうえで頼み事をしているので、問題無いと思っているのだろうか?


「勿論ですよ」


 リラは俺の思考を読み取り、先に答える。


「まずは、これですね」


 リラの目線は俺の後ろを見ていたので、振り返る。

 ゴンド村にあるエリーヌ像よりも大きい木像がある。

 当然のように、その隣にリラの木像もある。


「オリヴィアに対抗したのか?」

「さぁ、どうでしょう」


 笑顔を崩さない。


「リラの木像は実物サイズか?」

「いいえ、少し大きくしています」

「……悪いが、このままだと樹精霊ドライアド達の見栄の張り合いになるから、実物サイズにしてくれ」


 リラは不満そうだったが、渋々納得して貰う。

 しかし、樹精霊ドライアドの姿は見る者によって違う筈だが、自分の姿を晒して良いのだろうか? と、樹精霊ドライアドであるリラやオリヴィアが作った木像を見る度に疑問を感じていた。


「より具体的な姿があった方が、信仰して貰いやすいですから」

「確かそうだが……」


 考えた事が伝わるので、どうもやり辛い。

 そもそも樹精霊ドライアドの信仰と言うよりは、管理している森を敬って欲しいのだろう。


「女性には本来の姿で見られます。男性に関しては、美人であれば私がどのような容姿をしていようが、関係ありませんから」


 元来、姿を現す事が無い樹精霊ドライアドが姿を晒したところで、大した問題では無いという事か。

 しかも、リラは自分が美人だと宣言した。

 それよりも、リラは木像を見せる時に「まず」と言った。という事は、頼み事は二つ以上あるという事になる。


「その通りです。タクトさんに頼み事は三つになります」

「一つ目が木像だから、二つ目は今から言うって事か」

「はい」


 リラの笑顔が怖くなってきた。


「私の森の名称を変えて広めて貰いたいのです」

「はぁ?」


 リラ曰く、既に迷う事が無くなった森なのに『迷いの森』という名称はおかしい。

 それに、リラ自身が『迷いの森』という名を気にいっていないので、新しい名を広めて欲しいという事だった。

 俺的には、世間的に『迷いの森』で認知されているので、むやみに足を踏み入れる者も居ないのでゴンド村を隠すには好都合なのだが……。


「それで、新しい名はなんなんだ?」

「それは、タクトさんが決めて下さい」

「えっ!」


 俺が決めるのか?

 それ以前に、ネーミングセンスゼロの俺に頼む事自体、どうかしている。


「ど〇ぶつの森は、どうだ?」


 頭に浮かんだゲームタイトルを口にしてみる。


「却下です。森に動物が居るのは当たり前の事ですわ」

「そうだよな」


 密林や樹海等は既に使われているので、候補から外される。

 森に関係しそうな言葉を考える。田、畑は違う……雑木林、竹林。

 イメージがどんどんと貧相になっていっている。

 森林が頭に浮かぶので、候補として残す。

 先に『迷い』の部分を変更する事にする。

 迷い、迷う、惑わす……魅惑!

 俺にしては、良いワードを思いついたと感心する。

 迷いの森林。何か違う。

 森林を大森林にしてみるそこまで大きく無いし、語呂もしっくりこない。

 そうなると……。


「魅惑の森でどうだ?」


 魅惑であれば、良い意味もある反面、悪く捉える者も居る筈だ。

 それに魅惑の森であれば、迷いの森同様に足を踏み入れたら戻って来ない者が居ても、元迷いの森だからと不思議がられる事は無いだろう。


「魅惑の森ですね。迷いの森よりは響きが良いですね」


 リラも納得してくれたようだ。


「エルドラード国王にも、森の名称を変更した事を御伝えして下さいね」

「確かに、その方が手っ取り早いな」


 ルーカスに伝えた後に、ギルド本部にも名称変更を伝えれば自然と新しい名称は定着するだろう。


「残りの一つは何だ?」

「ゴブリンとオークの集落だった場所を【浄化】して頂きたいのです」

「リラは【浄化】出来ないのか?」

「はい、残念ですが私では草木のある場所であれば埋める事は出来ますが、臭いや汚れ等を綺麗にする事は出来ません」

「しかし、綺麗になったら又、魔物が住み着くかも知れないぞ?」

「確かにそうですが……そうですね、【浄化】して頂いた後に洞窟の入口も塞いで貰えませんか」

「そうだな。もう一度、中をよく探索してから【浄化】して入口を塞いでおく」

「ありがとうございます」


 三つの頼み事と言いながら、三つ目は明らかに一つの頼み事では無い。

 リラを見るが、笑顔のままだ。

 このまま、知らぬ存ぜぬで通す気のようだ。

 俺としても大した事では無いので、オークの集落だった場所に戻る事にする。


「では、又」


 用件が済んだのか、リラは挨拶をして消えた。

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