第471話 料理とは!
「美味いな、これ」
王都の調理場で、料理人達が作った料理の試食をしている。
ビアーノから料理の用意が出来たと連絡があったので、ビンゴ大会の会場の準備をする前に、こちらに移動した。
以前に俺が提案した米料理の試作品で無く、各々が考えた俺に食べさせる為の料理らしい。
俺が喜んで食べる為、試食の列が出来ている。
量自体は少ないので、料理人全員分を食べても満腹になる事は無い。
試食を食べ終わると期待した眼差しで感想を求めてくる。
俺はグルメレポーターのように、誇張したコメントをすると料理人達は皆、喜んでくれた。
料理長であるビアーノからは「アドバイス無しで感想のみ」と言われていたからだ。
俺がアドバイスをすると考える事を止めたり、それ以上の発想が出来なくなるからだと思う。
最後の一人が終わったので、席を立とうとするとビアーノが「まだです」と自分の料理を出してきた。
「料理長のビアーノは必要無いだろう」
「いえいえ、料理長であるまえに私も一人の料理人ですから」
「分かったよ」
ビアーノに出された料理は、今迄の料理人が出してきた料理と異なり、見た目が質素なスープだった。
一口飲むが、美味い。
具も無く澄んだ透明なスープだが、見た目と違い濃厚だ。
俺はビアーノが敢えてこのスープを作った理由を考える。
俺に出すという事は、ビアーノに何か考えがある筈だ。
一か八か思い付いた事を言ってみる。
「このスープは、他の料理人が捨てた食材で作ったのか?」
俺の言葉にビアーノは驚く。
どうやら当たりのようだ。
「流石はタクト殿。仰る通り、食べれる個所があるのに捨てられた食材から作りました」
ビアーノが俺の言葉が正解だと言うと、料理人達から歓声が上がった。
「この事がどういう事か分かるか?」
ビアーノが料理人達に向かって自分が何故、このような料理を作ったかを料理人達に問うが、誰一人として答える者は居なかった。
ビアーノは大きく溜息をついた。
「……情けない」
料理人達に対して、食材を贅沢に使い過ぎだと注意する。
捨てられた食材でも、使い方によっては美味しい物が出来る事。
そして、食材は無限でなく有限だという事。
忘れていけないのが本来料理人とは、手元にある材料で美味しい物を作る事だ。
高級品を使えば、誰でもそれなりに美味しい料理を作る事が出来る。
料理の基本である家庭料理を忘れる事無く、精進する様に力説していた。
ビアーノの話を聞いていて、やはり王都総料理長とは料理の腕で無く人として立派でないと務まらないのだと思った。
ビアーノから料理人達への注意が終わると、試食をした俺に御礼の挨拶をされて、用意した食事を見せられる。
「これだけですが、宜しかったでしょうか?」
これだけと言うが、かなりの量がある。
国王の外出先での食事と、俺からの依頼なのでビアーノ達も気合を入れたようだ。
「急な依頼なのに、すまなかったな」
「いえいえ、タクト殿に料理を提供する事は、国王様達に料理を作るよりも緊張します」
「そんなに厳しいか? 文句を言った記憶は無いぞ」
「そういう意味ではありません。国王様達に御提供させて頂いている高級料理は、御口に合わなければ残されたりします。タクト殿の場合は、良い意味で誰でも美味しいと思う料理で無ければ満足されないのではないですか?」
「確かにそうだが……それは、大衆食堂のガイルを意識しているのか?」
「そうですね。少しは意識しております」
ガイルの話題を出すと、嬉しそうに話すビアーノだった。
「そういえば、少し御待ち下さい」
ビアーノは思い出したかのように、料理人達に指示を出す。
奥から料理人が大きな袋を出してきた。
中身を確認すると、粗目だった。
「これもお持ち帰りください」
「どうしたんだ、これは」
「タクト殿が欲しいと言っておられましたので、買い付けれるだけ買い付けました」
「そうか、気を使わせて悪かったな。それで金貨何枚だった?」
「今回は、私共料理人からタクト殿への贈り物です」
「いや、それは駄目だろう」
粗目が大袋一杯の相場が分からないが、決して安くはない事くらいは俺でも分かる。
「根菜の発見に調理方法、マヨネーズ等の新しい調理法を御教え頂いた事に対して、私共料理人は何も恩返しをしておりません」
再度、断ろうとするがビアーノや後ろにいる料理人達の目を見ると、断る言葉が出てこなかった。
「今回だけ好意に甘えるが、次回は必ず支払うからな」
「有難う御座います」
今度、高級食材でも持って来て料理人達に食べて貰う事で、この件は帳消ししようと考える。
俺は料理と粗目を【アイテムボックス】に仕舞い、ビアーノ達料理人に礼を言って調理場を去った。
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