第470話 一触即発!
「あらあら、大人数ね」
気配も無かった入口から、女性の声が聞こえる。
振り向くとセフィーロだった。
「お母様なの~」
ネロはセフィーロの所に駆け寄る。
セフィーロはネロの頭を撫でると俺の方を見る。
「久しぶりね」
セフィーロが俺に挨拶をする。
「約束通り、村に来てくれているみたいだな。ありがとう」
「お礼は別にいいわよ。可愛い娘が居る村だし、居心地も悪くないわよ」
俺が笑うと、セフィーロも笑いを返してくれた。
「タクトよ。そちらの方は」
ルーカスが恐る恐る俺に話し掛ける。
「さっき話した吸血鬼族の長つまり、ヴァンパイアロードでネロの母親だ」
「初めまして、現国王」
セフィーロは笑顔で挨拶をする。
ルーカスが挨拶を返そうとすると、フリーゼが小さな声呟く。
「……吸血鬼風情が」
離れていたセフィーロには聞こえないと思ったのだろう。
しかし、セフィーロは勿論、俺にも聞こえていた。
「あら、面白いわね。それは私に喧嘩を売っていると捉えていいのよね」
セフィーロは変わらぬ笑顔のまま、殺気を出す。
部屋の中にいる者達は恐怖で体が動かなくなり、血の気が引いていった。
特に、王妃であるイースや、王女のユキノやヤヨイ等は、今にも気を失いそうになっている。
「おいおい、新築の家を壊すのは止めてくれよ」
俺は、セフィーロに破壊行動は止めてるよう忠告する。
遠まわしに殺気を引っ込めて欲しい意味を含めている。
「それもそうね。まぁ、相手をして欲しいのであれば、この村に被害の無い場所で、私から仕掛けても良いのだけどもね」
そう言うと、セフィーロは殺気を消す。
俺の意図に答えてくれた。
殺気が消えると同時に皆が、一気に大きく呼吸を始めた。
セフィーロの殺気で、呼吸すら出来なかったみたいだ。
「セフィーロ殿、大変失礼した。こちらとしては、貴女方と事を構えるつもりは無い。国王として、正式に謝罪をさせて頂きます」
ルーカスは立ち上がり、一国の代表としてセフィーロに謝罪をした。
「申し訳なかった」
ルーカスが頭を下げた事で、フリーゼも自分の発言が原因で不快な思いをさせた事を謝罪した。
「まぁ、いいわ。タクトの血で許してあげるわ」
「はぁ、なんで俺の血なんだ」
「貴方、ネロにばかり血を吸わしているそうじゃない。貴方の血の美味しさを、ネロに教えたのは私なのにズルくない」
「いや、その理論が俺には分からん」
このまま話を続けても面倒な事になると思い、頭を掻きながら会話をしていたが、ルーカスから視線を感じている。
多分、この場を丸く収めたいので俺の血を差し出せという事なのだろう。
「分かったよ。どれくらい必要なんだ」
「そうね、そこの容器くらいでいいわ。あまり多くても鮮度が落ちるから」
「……分かった。あとでネロに届けさせる」
「そう、ありがとうね。それと、そこに居るのカルアよね」
俺との会話が終わると、カルアに話を振った。
「御無沙汰しております。セフィーロ様」
「魔王ロッソの弟子が国王の護衛とは、面白い世の中になったわね」
「はい。ロッソ様より、自分の目で見た物だけを信じるようにと教わっております。現国王のルーカス様は私の中で守る価値のある方です」
「そうなのね。しかし、現国王はあの闇落ちした鬼人と言い、人材に恵まれているわね」
セフィーロはルーカスを褒める。
俺の中のルーカスの評価と、世間的なルーカスの評価に大きな開きがある事を、この時感じた。
フリーゼは、カルアが魔王ロッソの弟子だと知り驚いていた。
「国王様!」
息を切らしてローズルがやって来た。
尋常じゃない殺気がこの場所から出ていたので、急いで来たそうだ。
「あら、ごめんなさいね」
セフィーロは、ローズルに謝る。
「いえ、セフィーロ殿の殺気と分かれば、安心致しました」
ローズルは息を整えながら答える。
「お前、ロキか?」
フリーゼがローズルに向かい、声を掛ける。
「御無沙汰しております、フリーゼ様」
「お前は死んだと聞かされていたが……それよりもその姿は」
「姉上、私が説明します」
ルーカスは、ロキが闇落ちをして破壊衝動に駆られて俺が正常に戻した事。
そして、自分のした行いを恥じて自責の念で死のうとしていた所を俺に救われ、ローズルと名を変えてこの村で暮らしてい居る事を伝える。
俺は、ローズルの後任にカーディフが就任する事を伝える。
「カーディフ殿。この度は、私の落ち度で大変な迷惑を掛ける事になり、申し訳ない」
「いえいえ、気になさらずに。それよりもロキ殿いえ、ローズル殿が生きている事が分かった事の方が嬉しいです」
ローズルはカーディフに謝罪をした。
「私は、上で休憩しているから。ネロに頼まれた物も持って来たわよ」
「お母様、ありがとうなの~」
頼まれていた物とは、ビンゴ大会の景品だろう。
セフィーロは、手を振って別れの挨拶をすると飛び立った。
アルとネロも同時に居なくなった。
普通に階段を使えば良いのにと思いながらも、飛んだ方が早いし楽なのかも知れないとも考えていた。
「まぁ、ゾリアスからゆっくり話を聞いてくれ。俺達は用事があるから、そこの広場で用意しているので、何かあれば声を掛けてくれ」
「何をするのだ?」
ルーカスが不思議そうに質問をする。
「アルとネロの希望で、ビンゴ大会をする」
「なんじゃと!」
ルーカスは目を輝かせて立ち上がった。
「なんだ、そのビンなんとかとは?」
ルーカスは嬉しそうにフリーゼに説明をしたが、興奮したルーカスの説明では分からいようで、王妃であるイースが丁寧に再度説明をした。
「それよりも、ちょっといいか」
俺はフリーゼに厳しい表情を向ける。
ビンゴ大会の用意の前に、どうしても言っておきたい事があったからだ。
「領主夫人の一言で、この場にいる者や村に被害があったかも知れない。それを知っていて、あのような事を言ったのか」
「いや、そういうつもりでは」
「では、どういうつもりで言ったんだ。領主夫人が魔族を嫌っている事は知っているが、その自分勝手な思想で周りに危害を加えるのは、自分の都合だけで人族を殺害する魔族と同じだろう」
「なんだと!」
フリーゼは腰の剣に手を添える。
「自分が不利になったら武力で黙らせるのか」
俺はフリーゼを睨みつけた。
力でも俺に敵わないのは知っている筈だが、咄嗟に剣を添えようとするのは、今迄も同じ様な事があった際にとっている行動なのだろう。
この動作だけでも、フリーゼに腹が立つ。
「タクト殿、すいません」
俺とフリーゼの間に、ダンガロイが割って入り謝罪をした。
「今回の件は、全てフリーゼに非があります。夫として謝罪致します」
「いや、それは……」
「フリーゼ、黙りなさい! 貴女の言動で国王様達は勿論、この村の者達まで危険に晒した事は事実です」
ダンガロイはフリーゼを叱る。
「領主たるもの、民の生活を第一に考えると常日頃から言っているのはフリーゼ、貴女自身ですよ」
ダンガロイの口調からも、かなり怒っているのが分かる。
フリーゼは逆らわずにダンガロイの言葉を聞いていた。
「しかも、話し合いの最中に剣を抜こうとするとは言語道断です」
怒りの勢いを増すダンガロイに対して、フリーゼは意気消沈していた。
自業自得なので、可哀想とは感じない。
「義兄上殿。もう、そのくらいで良いでしょう。タクトの機転のお陰で結果として皆、無事だったのですし」
「国王様。タクト殿はフリーゼの粗相の代償として、私達を助ける為に貴重な血液を差し出したのです。本当に申し訳ない事です」
ダンガロイは俺が普通の人間族だと思っているので、器一杯の血を提供すれば致死量に近い量なので命を懸けて、この場を治めたと思っているのだろう。
ダンガロイに叱られた事で、フリーゼの中で魔族への嫌悪感が増幅しないかが心配だった。
そう簡単にフリーゼの考えを変えられるとは思っていないが、面倒な事になるのは避けたい。
ダンガロイがこの中で唯一、俺を普通の人族と扱っていてくれるので、余計に話がややこしくなっているのかも知れない。
フリーゼはダンガロイの説教が終わると、自分がいかに愚かなで大変な事をしたのか、事態の大きさに改めて気付かされたのか、ルーカス達やゾリアス、それと俺に謝罪をしてきた。
ダンガロイの説教は理にかなっているし、感情論も若干入ってはいるが脳筋に近いフリーゼには堪えたのだろう。
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