第464話 宿敵!
特訓場に、小学生二人が突然姿を現す。
「突然呼び出して悪いな」
「気にするな。どうせ、暇な身じゃ。それで、呼び出した用件は何じゃ?」
「そこで戦闘態勢になっている人に、見覚えは無いか?」
アルがフリーゼを見る。
「知らんな」
即答だ。
アルにしたら、長い年月の中で数日間の事等、いちいち覚えてはいないのだろう。
「タクトよ。礼を言うぞ、まさかもう一度、戦えるとはな」
フリーゼはアルが、自分に勝ち逃げした龍人だと確信していた。
しかも、自分の事を知らないと言われた事で、余計に腹を立てたのかフリーゼは殺気に満ちていた。
「一応、紹介をしておく。こっちの龍人はアルシオーネと言って第一柱魔王だ。」
俺がアルを魔王と紹介すると、アルを知らない者達は一気に緊張する。
「それで、こっちで俺の手から血を吸っているのが第二柱魔王のネロだ」
ネロは俺に抱き着く振りをして、手から血を吸っていた。
第二柱魔王だと続けて紹介し終わると、手から引き離す。
フリーゼ達は更に、緊張度を増していた。
ネロが一緒に来る事は、なんとなく想像は出来ていた。
紹介が一度で済むので、俺的には助かる。
「アルシオーネだ。タクトの一番弟子じゃ」
「ネロなの~。師匠の二番弟子なの~」
二人共、威圧する事無く普通に挨拶をする。
「そうか、私の宿敵は魔王であったか」
フリーゼは笑っていた。
魔王であれば、若かりし自分が負けても仕方が無いと思ったのだろうか?
「それで妾は、あの女と戦えば良いのか?」
「死なない程度にな。死にそうになったら、俺が【回復】か【治療】を掛けるから攻撃を中止してくれ」
「なにやら、面倒じゃの」
「弱い冒険者相手だと思って相手をしてくれ」
「分かったのじゃ」
アルにしたら、力加減が面倒臭いのかも知れない。
力加減を間違えれば、即死させる危険もある。
「絶対に殺すなよ。分かったな」
「分かったのじゃ。死なない程度に戦えば良いのじゃな」
「そうだ。頼むぞ」
アルに再度、注意するように話す。
フリーゼに用意が良いかと尋ねるが、既に戦闘態勢なので「いつでも大丈夫だ」と答える。
俺は始めの合図をして、審判をする。
フリーゼは勢いよく、アルに斬りかかるが剣がアルの体に触れる前に、フリーゼは弾き飛ばされる。
戦闘を観戦していたルーカス達は勿論、飛ばされたフリーゼも何が起こったか分かっていないだろう。
「ちょっと、待て」
俺は早速、アルを止める。
アルも追撃の意思は無いので、早速フリーゼの【治療】と【回復】をする。
フリーゼは立ち上がるとすぐにアルに向かって、攻撃を再開する。
先程と同様に、アルに少し触られただけで吹き飛ぶ。
フリーゼは激痛で顔を歪めているので、【治療】と【回復】をする。
アルは自分の手を見ながら俺に向かい、困った顔で叫ぶ。
「タクトよ。コイツ、弱すぎるので加減が難しいぞ」
この言葉にフリーゼは怒り、攻撃を仕掛けるが俺から見ても単調な攻撃だ。
王国騎士団団長のソディックや、冒険者のトグルの方が格段に強いのが剣筋からも分かる。
このレベルで、王国騎士団と互角の腕を持っていたというのには、不思議で仕方がなかった。
俺の予想では、王女と言う立場から騎士団の者達は手加減をして、フリーゼの御機嫌を取っていたのだろう。
騎士団だけでなく周りの者達も、フリーゼに対して注意出来る者も居ないので、自分の実力も分らないまま勘違いをして育ち、今に至る気がする。
もしかしたら、フリーゼの性格を理解して、腫物扱いしていた者達も居たかも知れない。
領民に優しいのも、自分を敬ってくれている者達だから、優しくしているのではないかと疑ってしまう。
思い出してみると今迄の言動からも、自分の認めない者に対しては高圧的な態度で接している。
一歩間違えれば、独裁者になってもおかしくは無い性格だ。
ダンガロイという常識を持った夫が居たからこそ、上手く制御が出来て暴走する事が無かったのだと思う。
そう考えると、前国王の判断は素晴らしい。
じゃじゃ馬娘の手綱を引く人物に嫁がせる事に成功したからだ。
どちらにしろ、俺の中でフリーゼの評価は大きく下落した事で間違いない。
親族で無く、全く関係無い貴族として出会っていたのであったのであれば、ボロカスに文句を言ってやりたい気分だ。
「こんな筈では……」
フリーゼは息を切らしながら呟いていた。
簡単に避けるアルが攻撃の仕草をするだけで、フリーゼの動きが一瞬止まる。
既にフリーゼの意思に反して、体が恐怖を感じてしまっている。
しかし、フリーゼ自身は気付いていないのか、認めていないのか分からないが、そのまま攻撃を続ける。
アルの攻撃で、フリーゼは皮膚から骨が飛び出したり、内臓にダメージを受けた際に大量の血を口から吐き出したりしたが、その度に俺が治す。
治療行為をする度にフリーゼは、「私は強い筈だ」「魔族如きに……」等と呟いていたが、俺は無視していた。
夫であるダンガロイや弟のルーカスには、苦痛な時間だろう。
護衛のカーディフやセドナでさえも、悲痛な表情を浮かべていた。
事情を知らない者が見たら、殺戮を繰り返す魔族の拷問にしか見えない。
実際は絶対的強者と、弱者と言うか自信過剰な身の程知らずの阿呆な者の闘いだ。
この場に王妃であるイース達が居なかったのが唯一の救いだと思いながら、戦いを観戦していた。
フリーゼは叫びながら、アルに攻撃をするが結果が変わる事は無い。
俺が【治療】と【回復】を施すので、何時で全力で攻撃出来るが、徐々に攻撃の速度が落ちて来ていた。
攻撃もより単調になり、闇雲に剣を振り回しているようにも見える。
万策尽きた為、何をして良いのかさえも分らないのだろう。
アルは時折、俺の方を見て「いつまで、やるのじゃ」と訴えていた。
俺としても、こんな茶番に付き合わせている事が申し訳ないと思っている。
ネロは興味が無いのか、俺の血を吸って満足したのか横になって寝ていた。
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