第451話 意気投合!

 フリーゼ達が出発の準備が出来たので、ホラド村からアルミラージの住処である洞窟に向かう事にする。


「シロ、場所は分かるか?」

「はい、大丈夫です」


 シロを先頭に、クロには最後尾を頼む。

 俺は【魔力探知地図】で周囲を確認する。

 幾つかの反応があるが、進行を邪魔する反応が少し先にある。

 シロもクロも気が付いている様子だ。


「シロ。俺が片付けるから下がっていてくれ」

「はい、御主人様」


 俺はシロと位置を変わる。


「お主ら、何を言っているのだ?」


 俺とシロの会話を不思議に思ったフリーゼが、話し掛けてきた。


「あぁ、今から魔獣が現れるから討伐する」

「魔獣の居場所も分かるのか?」


 フリーゼの質問に笑って返す。


「ちょっと見ていろ」


 俺は足元の雪で玉を作り、大樹の枝に向けて投げる。

 雪玉が当たる寸前で、大樹の枝は雪玉を避けて、俺達の目の前に落ちて来た。

 大樹の枝に擬態していた『フローズンマンティス』が姿を現す。

 枝と言っても大木の枝に擬態している為、大きさは二メートル前後はある。


「あのまま進んでいたら、こいつの餌食だ」


 カーディフとセドナも、魔獣には気が付いていなかったようだ。


「我らも加勢致します」


 カーディフとセドナが戦闘態勢に入る。


「いや、大丈夫だ。気にせずに観戦でもしていてくれ」

「しかし、相手はフローズンマンティスです」

「まぁ、何とかなるだろう。シロにクロ、護衛は任せたぞ」

「はい、御主人様」

「承知致しました」


 二人の返事を確認して、攻撃態勢に入る。

 俺より先にフローズンマンティスが、腕から氷の刃を飛ばしてきた。

 俺は【火弓】でフローズンマンティスの攻撃を相殺する。

 やはり、氷には炎だなと思った矢先、連発で氷の刃を飛ばしてきた。

 気にせず【火弓】で迎え撃つ。

 相殺した影響で、周囲は水蒸気が出ていた。

 俺は【風刃】を放つ。フローズンマンティスが腕を振ると、【風刃】を凍らせた。


「空気も凍らせられるのか!」


 正直、驚いた。フローズンマンティスが何をしたかは分からない。

 しかし、【風刃】を凍らせる事が出来るという事は、ある程度の者は凍らせる事が可能という事だ。

 それは、生物も含めてだろう。

 考えていても仕方が無いので、至近距離まで移動する。

 フローズンマンティスは両腕のハサミで、俺を攻撃する。

 挟もうとするハサミを、拳で弾き飛ばす。

 俺の拳は一瞬、皮が捲れる。

 体自体が凍っているのか、触れるだけで凍傷になるようだ。

 思ったより厄介な相手だ。

 フローズンマンティスは、自分の得意距離なのか両腕のハサミで攻撃してくる。

 凍傷したとしても【自己再生】があるので、気にせずハサミを掴み上に放り投げる。

 少しの間ではあるが手の皮膚が捲れる為、痛みを感じる。

 宙に浮いたフローズンマンティスに【雷球】を撃ち込む。

 これで終わりかと思ったが、フローズンマンティスは咄嗟に近くの枝を掴んで、電気を逃がした。


「……シロ。こいつって強いのか?」

「はい。冒険者の討伐クエストであれば、ランクA以上は確実だと思います」

「成程ね」


 知能が低いかと思ったが、咄嗟に電気逃がしたり、反撃を見ると考える能力はあるようだ。


「タクト殿。今からでも我らが加勢致します」


 俺が不利だと思ったのかカーディフが再度、加勢を申し出る。


「あぁ、大丈夫だから」


 俺はカーディフの申し出を断る。

 傍から見ると、そんなに不利な戦いをしているように見えるのかと、疑問に思った。

 確かに今迄、相手にしてきた魔獣とは違い、勝手が分らない。

 今から、イエティやアルミラージを討伐するのに、不安がられるのも少し癪なので、強引に攻撃をする事にした。


 俺は【神速】でフローズンマンティスの後ろに移動して、首の付け根部分の外殻と外殻の間に拳を叩きこむ。

 叩き込んだ手を広げて神経か筋肉か分からないが、それを掴んで引っこ抜いた。

 フローズンマンティスは悲鳴を上げる。

 再度、拳を叩きこんでフローズンマンティスの体内で【雷撃】と【火球】を使う。

 フローズンマンティスから悲鳴が止まり、フローズンマンティスは倒れる。

 念の為、【雷撃】を使うが起き上がる気配はない。

 【魔力探知地図】でも、フローズンマンティスを表していたマークは消えていた。


「終わったぞ」


 フリーゼ達に戦闘が終わった事を告げる。


「本当に一人で、フローズンマンティスを倒すとは……」

「余裕で倒せると思っていたが、思ったより手こずった」

「しかし、なんて無茶な戦い方だ」

「普通はどうやって倒すんだ?」


 俺は厄介な討伐相手だったフローズンマンティスを、他の冒険者達はどうやって討伐するかが気になった。


「単独討伐は、無理なので逃げます」


 カーディフがフリーゼの代わりに答えた。


「……逃げる?」

「はい。向こうに有利な環境での戦闘になりますので、単独討伐成功は極めて難しいです。よって、逃げるのが最善になります」

「仮にフローズンマンティス討伐だと、どれくらいの人数でどうやって討伐するんだ?」


 カーディフは少し考えて、人数は十数人での魔法攻撃だと言うが、実際にフローズンマンティスを討伐した事案は少ないので、あくまで想像だと言う。

 確かに物理攻撃が効かないのであれば、魔法攻撃しかない無いのは分かるが……。

 そもそも、フローズンマンティスは発見事例が極端に少なく、被害も報告されていないので討伐依頼が無いのが実情だ。


「それは、フローズンマンティスと対峙した者が皆、餌食になっているからじゃないのか?」

「確かに雪山での遭難者が、見つからない事は多いが……」

「遭難者全員では無いが、一部は魔獣の餌食になったんだろうな」


 フリーゼは今迄、その事に気が付いていなかったのだろう。

 被害報告が無ければ、遭難者扱いになる。

 村人同士が勝手に捜索する事はあっても、領主から捜索隊を出す事は二次被害がある為にしないようだ。

 但し、貴族等には大人数での捜索はする。

 捜索隊が何人死のうが、遭難した貴族が見つかれば良いという考えだからだ。


 俺は、フローズンマンティスを【解体】して【アイテムボックス】に仕舞う。


「ところで、フローズンマンティスの素材は売れるのか?」

「何を言っている。高級素材だぞ!」


 俺の質問に、フリーゼが驚きながら答えた。


「そうか、この素材はホラド村に寄付するから、後の処理は頼めるか?」

「寄付だと! お前は、この素材の価値を知らんのか」

「知らん」


 フリーゼは絶句する。


「大まかだが、この素材だけでホラド村の村民は、二年は何もしなくても食べて行ける」

「そうか、それは良かったな」

「……本当に寄付して貰えるのか?」

「勿論だ。男に二言は無い」

「感謝する」


 フリーゼは、俺に頭を下げ礼を言う。


「それは、領主夫人としてか?」

「そうだ。領主と言え、全ての村に対して平等に対応するのは、実際無理だ。私達の力不足が大きいのが原因なのだが……」

「それは、理想論だろう。村によって状況が異なるし、それは村で考えれば良い事だ。領主に頼りっぱなしの村は、早かれ遅かれ潰れるだろう」

「しかし、それを村民に任せるのは難しいだろう」

「所詮、人任せで考える事を止めたのであれば、それ以上の発展は望めないだろう。それは村だけでなく領地でも同じじゃないか?」

「その通りだが……」

「出来ない事ばかりを嘆かずに、出来る事を少しでも考えれば良いだけの事だ」

「お主は本当に冒険者なのか? どこかの馬鹿な貴族達よりも立派な考えを持っているぞ」

「俺はその馬鹿な貴族が嫌いなだけだ。まぁ、領主夫人で国王の姉に対して言う言葉では無いがな」

「気にするな。私も同じ考えだ」

「無職の俺と気が合うな」


 フリーゼが笑うと、後ろのカーディフとセドナも笑っていた。

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