第449話 言い伝え!

「この家です」


 村長が俺の背中から一軒の家を指差した。

 何故なら、俺は村長をおぶっている。

 フリーゼに急かされた村長が急ごうとして、走ろうとした瞬間に転倒したからだ。

 一応、治療はしたが又、転んで怪我をする事も考えられたので、おぶる事にした。

 村長を下ろして、家の外から家に入る事を家主に伝えて、返事があったので扉を開ける。


「この冒険者様が、治療をして下さる」

「ありがとうございます」


 そう話す親子だが、俺達を見ているのだが焦点が合っていないようだ。

 起き上がるが、動きがぎこちない。


「これが銀色の水か?」

「はい、万病の薬です」


 枕元にあった銀色の水を見ながら質問をする。


「……それは、誰から聞いた?」

「誰からと言うか、昔からの言い伝えです」


 俺はフリーゼと村長を見る。


「確かに、昔から銀色の水は万病に効くと言われている」

「根拠はあるのか?」

「いや、言い伝えでしかない。そもそも、実際に銀色の水を目にするのも初めてだ」


 【全知全能】に銀色の水が水銀かどうかを確認する。

 答えは水銀では無いが、成分等は水銀に似ているそうだ。

 毒性については、水銀よりも強い。

 この世界では、銀水や、銀色水等と地域によって呼び名が異なるようだ。

 とりあえず、俺はこの銀色の水を呼び慣れている『水銀』と呼ぶ事にした。

 水銀といえば、体温計や電灯に使われていたのを思い出す。

 体温計が出来れば、役に立つと思うが壊れた時は気化して毒性の気体を発生する事になる。

 扱いには十分、注意が必要だ。


「これは、猛毒の水銀と言うものだ。地域によっては銀水や、銀色水等と呼び名は違う」


 猛毒と言う言葉に対して、その場に居た者達は驚く。


「それは、本当ですか!」


 家主が俺に話し掛ける。


「あぁ、この水銀は徐々に空気になり、それを吸うだけでも体調に異常をきたす。思い当たる事は無いか?」


 家主は、思い当たる事があるのか無言だった。


「まぁ、知らなかったから仕方が無いだろう。今後は気を付けろよ」


 とりあえず、俺は【浄化】で家の中から毒素を無くしてから、水銀を【結界】で外部と遮断する。

 いきなり、部屋の中が綺麗になった為、驚いていたが俺のスキルだと説明をしておく。


「今から治療をする。あっ、動かなくて良い」


 俺は家主とその家族に【神の癒し】を施すと、元気を取り戻す。


「有難う御座いました」


 家族と村長から、礼を言われる。

 家主に許可を取り、他の部屋にも【浄化】を掛ける。


「これで大丈夫だ」

「色々と有難う御座います」


 再度、礼を言われる。


「この水銀は俺が処分をしていいか?」

「はい、御願い出来ますか」

「あぁ、勿論だ」


 俺は家族に挨拶をして、水銀の入った器を手に取り家の外に出る。

 家を出るとすぐに水銀を器ごとアイテムボックスに仕舞う。


「ん? 水銀とやらはどうした?」


 俺の後に家から出てきたフリーゼが、俺が何も持っていない事に気付き話し掛けてきた。


「あぁ、もう仕舞った。出来るだけ人目に付かない方が良いからな」

「早いな。しかし、賢明な判断だ」

「むやみに不安を煽っても仕方が無いからな。詳しい説明は、村長からでもしてくれるよう頼んでおいてくれ」

「分かった。しかし、言い伝えが間違っているとはな……」

「昔と今では考え方も、価値観も違う。言い伝えが正しいと考えられているのだから、仕方が無いだろう」


 昔は安くて良いと思っていた物が、年月と共に有害な物質に認定される事を俺は知っていた。

 時間が経たなければ、分からない事はあるのだ。


「水銀が発見された岩まで案内してくれるか?」


 俺は村長に頼む。


「勿論です。猛毒であれば取り払って頂きたい」

「水銀を俺が手を加えて、商品にした際はこの村にも還元するからな」

「……猛毒を商品にですか?」

「別に毒薬を作るとかじゃない。水銀の特性が分れば毒以外の事でも、何かに活用出来るかも知れないという話だけだ」

「そうですか。どちらにしろ、私達には猛毒でしかありませんので、冒険者様の御好きなようにして頂いて結構です」


 村長から水銀の商品利用の許可を貰う。


「私も同行するぞ」


 フリーゼも同行すると言う。

 断る事は出来ないので、水銀を撤去した後にアルミラージを討伐する事にした。

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