第438話 つもり!
王都では冒険者ギルド主催の人気投票の結果で盛り上がっていた。
ギルド本部に着くと何人かは顔見知りなので、簡単に挨拶だけしてジラールの所に向かう。
「凄い盛り上がりだな」
ジラールに人気投票の感想を言う。
「おぉ、タクトか。お前のお陰で、例年以上の盛り上がりになっている」
「そうか、それは良かったな」
「集計する奴等からは、苦情が来ているがな」
「嬉しい悲鳴だな」
「まぁ、来年も同じだと思うと、恐ろしいぞ」
そう話すジラールは嬉しそうだった。
「表彰式を行う際は、タクトも一緒にどうだ?」
「その表彰式ってのは、いつなんだ?」
「明後日だ」
「あぁ、悪い。どうしても外せない用事がある」
「そうか、それは残念だな。表彰式の件は、グランド通信社から四葉商会に連絡が行っていると思うぞ」
「分かった。後で、確認しておく」
俺には連絡が無いので、直接マリーに連絡したという事だろう。
マリーも俺に知らせる必要が無いと、判断をしたのだろう。
俺がする事といえば、王都とジークの送迎くらいだ。
城にある転移扉を使えば、俺の送迎も必要無いと思うが、今回の件は国には関係無い事なので使用を控える。
「それで、用件はなんだった?」
「特に無い。人気投票の様子が気になったから、寄っただけだ」
「そうか、てっきり魔獣図鑑でも出来たのかと思ったんだがな」
「悪いな。もう少しだけ待っていてくれ」
エルドラード王国だけでなく、この世界の魔獣を全て載せるつもりなので、もう少し時間は掛かる。
シロには、各地での撮影を再開して貰う必要がある。
ジラールに挨拶をして、ジークの俺の部屋に戻る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マリーに確認をすると、確かにグランド通信社から表彰式の撮影の依頼があったそうだ。
まだ、明後日だったので今夜にでも俺に連絡するつもりだったみたいだ。
「行くのは、フランだけか?」
「いいえ、私も四葉商会の代表として招かれているわ」
「そうか、出発はいつの予定だ?」
「そうね、明日の午後には王都に居たいわね」
「……早いな」
「明日の夜に、グランド通信社から食事の誘いがあるのよ」
「……それって、俺は事前に聞いていたか?」
「言ってないわよ。今日、言えば何とかなると思っていたしね」
ジークから王都までは、馬車で十日前後はかかる。
俺が、オーフェン帝国に行く前に聞いていれば、問題無いがそれ以降だと、俺の【転移】ありきで話が進んでいる事になる。
「出発は、明日の朝でも問題は無いか?」
「えぇ、フランには明日と明後日は、仕事を空けて貰っていたから問題無いわ」
「それなら、明日の朝に迎えに来る。王都での宿はどうするんだ?」
「グランド通信社が用意してくれているわよ」
「成程な。流石は大手だな」
出発の件、フランにはマリーから伝えて貰う事にした。
マリーからグランド通信社に、午前中に王都に到着する事を伝えて貰う。
その後、マリーから四葉商会の状況を聞くが、特に問題は無いらしい。
問題では無いが、やはり徐々に結婚式の写真を撮る客が減って来ては居るようだ。
新しい建物についても、色々な意見があるようでまだ纏まっていないそうだ。
「大変そうだな」
「他人事みたいに言わないでよね」
「悪い、悪い」
「それとエイジンさんや、イリアさんの件だけど、今の仕事が落ち着き次第という事で、グランド通信社や冒険者ギルドと話が付いているわ」
「そうか、具体的に話が進んでいるんだな」
「イリアさんには、私の補佐を御願するつもりだけど、良かった?」
「人事については、マリーに任せているので好きにすれば良いぞ」
「……好きにさせて貰っているから、余計に悩むのよ」
確かに、マリーの好き嫌いで人事を決めていたら不平不満もあるだろう。
「あっ、王都に行ったら『エンヤ治療院』を訪ねてくれるか」
「知り合いでも居るの?」
「その治療院に、元王宮治療士筆頭のエンヤという老婆がいるんで、副代表として挨拶をしておいて欲しいだけだ」
「全く話が見えないんだけど……」
「……俺、マリーにエンヤ治療院を四葉商会にした事を、言っていなかったか?」
「聞いていないわよ」
……俺的には報告した気でいた。
社会人として、一番してはいけない事だ。
確実に報告しなければ、問題が起きる原因になる。
俺は、マリーに謝り『エンヤ治療院』の事を話す。
「分かったわ。挨拶には、行くわよ」
「本当に、悪かった」
「まぁ、良いわよ。ところで写真について、新しい案でも無い?」
「そうだな。家族揃った写真や、赤ん坊の成長写真等はどうだ?」
「そうね。赤ん坊の写真は確かに需要があるかも知れないわね」
「赤ん坊といえば、ラウムと赤ん坊は元気か?」
「えぇ、元気よ。仕事もきちんとしてくれているから、助かっているわ」
「それなら、安心だな」
「えぇ、子育てがあんなに大変だと知らなかったから、私は母親になる自信は無いわ」
「……もしかして、母親になる予定でもあったのか?」
「ある訳ないでしょう! 例え話よ」
マリーを怒らせたようだ。
普通に話をしていただけなのだが……。
「何か、必要な物は無いか?」
「あぁ、それなら粗目が欲しいわ。綿菓子をもっと食べたいし、出来れば売りたいと思っているのよ」
「それは、粗目の仕入れ先を紹介した方が良いのか?」
「そうね。仕入れ先と相場が分れば、後は私の仕事ね」
「マリーは、頼りになるな」
「タクトが、フラフラしているから、私が留守を守らないとね」
「……返す言葉が無いな」
俺の返答にマリーは笑う。
俺はビアーノと連絡を取り、仕入れ先を聞くと『ヴィクトリック商会』だと教えてくれた。
その事をマリーに伝えると、明らかに不機嫌な顔をする。
「ヴィクトリック商会を知っているのか?」
「えぇ、私の父が商人だった事は話したわよね」
「あぁ」
マリーの話だと、ヴィクトリック商会はマリーの父親の取引相手だったそうで、幼い頃に何度か代表と会っている。
ヴィクトリック商会のせいで、マリーの父親の事業が傾いたわけでは無いので、恨み等は特に無いが、代表の娘とは相性が悪く、出来れば会いたくないと言っていた。
マリーは奴隷になった時点で
「それなら、独自のルートで粗目を仕入れる事が出来れば良いのか?」
「そんな簡単にはいかないわよ。生産者や、仲介業者等が多数絡んでいる場合も多いから、難しいわよ」
「確かにそうだな。粗目の件は、俺の方でも少し考えてみる」
「御願いね」
マリーの話からすると、ヴィクトリック商会の令嬢は、かなりの我儘御嬢様のイメージがする。
箱入り娘と言う奴だろうか?
男の俺では分からない、女同士の特有の問題があるのかも知れない。
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