第433話 帰国の挨拶!

「ところで、いつエルドラード王国に帰るんだ?」


 会談も終わり、オーフェン帝国に用事も無くなったので、帰りの時間を尋ねる。


「用意が出来次第、帰るつもりだ。もう少し、待っていてくれ」


 俺的には、夜の飛行を希望したいが、多忙なルーカスに我儘も言えない。

 本音を言えば、時間に余裕があるのであれば、帝都の街を見てみたい。

 しかし、ルーカス達の帰り支度に、どれだけ時間が要するか分からないので、黙って待つ事にした。


「先に、飛行艇に行っている」


 俺は用意が終わった大臣のジャジーとメントル、それにユキノとシロとで飛行艇に移動する。

 ルーカス達が来るまでは、ジャジー達と雑談をする。

 一応、ユキノの婚約者扱いなので、気を使われる。

 今後は、色々な人達とも、こんな感じになるのかと思いながら、雑談を続けていた。


 飛行艇の扉を叩く音がするので、シロが警戒しながら扉を開けると、フェンとスタリオンが居た。

 シロがあからさまに嫌そうな顔を一瞬したが、俺に用事があるというので、俺ひとりだけ飛行艇の外に出る。

 シロにはユキノと、大臣達の警護を頼む。


「何か用か?」

「はい、帰国される前に、もう一度謝罪をと思いまして……」


 スタリオンは、怯えながら俺に話をする。


「何をそんなに怯えているんだ?」

「その、タクト様の強さです。その気になれば、私の命等、一瞬で奪われますし……」

「お前が弱いと見下していた者達も、今のお前と同じ気持ちだったんだろうな」


 スタリオンは即答せず、暫く考えて「申し訳なかったです」と頭を下げる。

 この国に来た時は、傲慢な奴だと感じたが、負けた途端に態度が変わってしまった。

 あまりの変貌振りに、倒した俺が申し訳なく感じる。

 王子としての威厳も無くなってしまっているようだ。


「力を振りかざさずに、弱い者にも寄り添える者こそ、本当に強い者だと思うから、スタリオンも頑張れよ」

「ありがとうございます」

「それと、武闘会は必ず優勝しろよ」

「はい、分かりました」


 俺が励ましの言葉を掛けると、清清しい顔でと答えた。

 フェンも再度、俺に謝罪をした。

 シロに嫌われた事が、かなりショックだと話をしてきた。

 言葉の端端に、俺に仲を取り持って欲しい事が伝わる。

 俺はシロの味方なので、気付かない振りをして話していると、無理だと感じたのか諦める。


「元気でな」

「……はい」


 落ち込んだまま、スタリオンと共に帰って行った。

 寂しそうなフェンの後姿を見ると、悪い事をしたかな? と思えてくる。

 フェン達の姿が見えなくなるまで、見送る。


 飛行艇の周りを見ながら、来た時はあそこにシャレーゼ国の馬車があったなとかを思い出す。

 ルーカス達が不味いと言った料理を出した料理人達は、既に処刑されているのだろうと、何となく思う。

 今後、シャレーゼ国いや、ガルプツーとの戦いになると思いながら、その場所を見ていた。

 俺がガルプツーを倒すという事は、数少ないクロの仲間を殺すという事だ。

 クロには悲痛な思いをさせてしまうが、仕方ない。

 クロも分かってくれるだろう。


 建物の方から、話し声と足音が聞こえる。

 建物の方向に体を向けるとルーカスを見送る為なのか、トレディア達が姿を現す。


「タクト殿!」


 俺を見つけると、俺の所まで寄ってきた。

 何か文句を言われるような事をしたか考えるが、思い出せない。

 トレディアからは、魔穴から持ち帰った品の事で、感謝される。

 トレディアの後ろに居た何人かの衛兵は、持ち帰った装飾品の肉親らしい。

 装飾品に名が刻んであったみたいだ。

 生きているか死んでいるか分からないよりは、はっきりと死んだ事が分かった方が、残された方は気が楽なんだろう。

 

 トレディアは土産だと言って、特産品の食材をくれる。

 俺の物では無いが、礼を言って【アイテムボックス】に仕舞う。


「もし、我が国に来る事があれば是非とも、寄って欲しい」

「面倒事になるのが分かっているから、あまり嬉しくない誘いだな」

「まぁ、その時はルーカス殿にも連絡するから、気にしなくて良い」


 ルーカスが絡んでも、面倒な事には変わりは無いのだが……。

 どちらにせよ、オーフェン帝国に来る時は、港町が中心になるので帝都まで来る事は無いだろう。


「分かった。帝都に寄る際は、城に寄らさせて貰うので、その際は宜しく頼む」

「勿論だ」


 一応、社交辞令で返事をしておく。


 暫くすると、ルーカス達も姿を現す。

 俺は、トレディアから土産を貰った事を報告する。

 ルーカスは、トレディアに礼を言い、最後に二人で握手を交わした。

 とりあえず、エルドラード王国と、オーフェン帝国の間での会談は無事終了した事が証明された。

 トレディアが、フェンとスタリオンが居ない事を気にしていた。

 俺は先程、挨拶に来たから心配ない事を告げる。

 二人共、大手を振って別れをする心境でも無かったのだろう。

 最後にもう一度、オーフェン帝国の者達に礼と別れの挨拶をした。

 ルーカス達を飛行船に乗せる。


「忘れ物は無いか?」


 ルーカス達に最後の確認をしてから、出発する事を告げる。

 エルドラード王国へと帰国する。

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