第424話 クラーケン討伐ツアー!
昼食の部屋に行くと、当たり前だがスタリオンも居た。
明らかに俺に対して恐怖感があるのか、目を合わせようとしない。
仕方ないと思いつつ、用意された席に座る。
ユキノとの婚姻関係を宣言したのだから、席はユキノの隣だった。
ここに来る間にターセルに、スタリオンとフェンの【鑑定】をしたかと尋ねる。
勿論、鑑定済みだと返答する。
その鑑定結果で、どちらと対決しても俺の勝ちは確定していたと、笑って話していた。
妖精族まで鑑定出来るターセルを、改めて恐ろしいと感じたと同時に、心強いとも感じる。
ターセルが、俺にスタリオンやフェンを【鑑定】をしなかったのかと聞かれたが、怒っていた事もあるが、スタリオンに関しては、ユキノの件があったので、情報無しでの戦いの方がフェアだと感じた。
それに、なんとなく鑑定しなくても負ける気が全くしなかった。
それは、スタリオンだけでなく、フェンでも同様だった。
明らかに気になる相手であれば、鑑定するがそれがないと言う事は、格下なのが間違いないと今迄の経験で、分かっていた。
トレディアが、今回の件をもう一度話し始める。
内容に間違いが無いかの確認だろう。
黒い玉を使用した者達は、牢獄に入れて常に監視していると報告があった。
三国会談での、エルドラード王国からの話が実現した事により、オーフェン帝国内でも、黒い玉について独自で調査をするそうだ。
エルドラード王国とで、情報の共有をしたいとの正式な申し出に対して、ルーカスは承諾した。
詳しい話は、牢獄の者達から尋問をした後だそうだ。
昼食が運ばれる前に、フェンとスタリオンから正式に謝罪があった。
スタリオンは、かなり怯えていた。
「タクト殿、先のクラーケン討伐の同行者だが、スタリオンで問題無いか?」
よりによって、スタリオンか……俺は良いが、スタリオンが嫌だろう。
「父上、クラーケン討伐とは?」
スタリオンが恐る恐る、トレディアに質問をする。
「タクト殿が、クラーケンを単独討伐するので、我が国から同行者というか、見届け人をつける事になった。その任を、スタリオンお前に任せるつもりだ」
スタリオンは言葉を失っていた。
クラーケン単独討伐の事なのか、俺への同行の事なのかは分からない。
「タクト殿は、私で問題ないのですか?」
対決前の高飛車な態度とは異なり、低姿勢だった。
強者に従うというのは、こういう事なのだろうか?
「俺の邪魔さえしなければ、誰でも良い」
スタリオンは、完全に萎縮していた。
自分より強い者に出会っていなかったので、負けたショックも大きかったのかも知れない。
俺との対決がトラウマになるような事は、止めて欲しいと願う。
一応、オーフェン帝国の王子で、いずれは国を治める存在なのだから。
クラーケン討伐の話をしている中で、ユキノが同行したいと言ってきた。
俺が「いいぞ」と即答をすると、トレディア達が驚いていた。
「ルーカス殿は、宜しいのか?」
「あぁ、タクトが言うのであれば安全なのだろう。余も行きたいくらいだからな」
「じゃあ、来るか?飛行艇からの観戦になるがな」
「いや、それはトレディア殿との会談があるから、無理だな」
ルーカスのいう事はもっともだ。
「タクト殿、その飛行艇には何人乗れるのだ?」
「そうだな。狭くて良いのであれば、俺を入れて十二人は乗れるぞ」
「安全なのは、間違いないのだろうな」
「ん~、大丈夫だろう。カルアはどう思う」
俺は、経験豊富なカルアに聞いてみる。
「そうですね。私とタクトのスキルであれば、問題ないと思います。シロ殿も御一緒ですから、安心でしょう」
「カルアが言うなら、問題ないのだろう」
ルーカスが安全な事を明言する。
「ルーカス殿。提案だが、安全なのであれば、私達もクラーケン討伐に同行させてもらえないだろうか?」
……この皇帝は、何を言っているんだ。
「私自身、クラーケンを単独討伐すると言っているタクト殿の戦いに、興味がある」
「トレディア殿が、宜しいのであれば問題ありませんぞ」
なにやら、国王と皇帝が意気投合している。
国を預かる者として、その判断は良いのか?
俺の許可無しに、クラーケン討伐ツアーに行く者達を、勝手に決めていた。
……国王と皇帝相手に、俺の許可など必要はないかも知れないが。
エルドラード王国からは、ルーカスとイースにユキノと、ターセルとカルアの五人。
オーフェン帝国からは、トレディアとスタリオンに、四獣曹の六人。
後は俺とシロを加えた合計十三人だ。
定員を一人オーバーしているが、狭くて良いのであれば問題無いだろう。
オーフェン帝国の六人は、嬉しそうな表情をしている。
表情をあまり表に出していない四獣曹達が、笑っている事が意外だった。
クラーケン討伐の件が終わったようなので、俺は気になる事を聞いてみる。
「ターセルから、シャレーゼ国のウーンダイ国王と、第三王子のタッカールのステータス閲覧が出来ないと聞いたが、何か分かった事はあるのか?」
トレディアも「原因不明だ」としか言わない。
俺同様に、トレディア達も怪しいと思っているが、簡単に聞ける内容でも無いのだろう。
「隠しておきたい事情があるという訳でしょうね」
ターセルが鑑定士として発言をする。
「今迄、覗けていたステータスが覗けないという事であれば、かなり高レベルのユニークスキルか、それ以外の方法を用いた何かとしか考えられません」
「確かに、ターセル殿の言われるとおりです。明らかに、意図的に隠しているとしか思えません」
ターセルとコルサの鑑定士二人は、同じ見解のようだ。
「まぁ、事態が動くまでは、こちらから動く事は無い。今迄通りだ」
「我が国も、同様だ」
トレディアとルーカスも、同じ意見な事を確認した。
しかし、ガルプツーがこの場に居た事も考えると、偶然とは思えない。
黒い玉の件といい、誰かの手引きがあったと考えるべきだろう。
「もうひとつ、いいか?」
俺は最後に、もうひとつ質問をする。
「ガルプツーが消える時に、国に戻ると言った。この世界に三国以外に国と呼べるものは、存在するのか?」
「……いや、国と呼べるのは三国以外には無い筈だ。間違いなく国と言ったのか?」
「あぁ、間違いない」
「トレディア殿。思っていたよりも事態は深刻かも知れませんぞ」
「……そのようですな」
ルーカスとトレディアの顔が、一層険しくなった。
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