第406話 呼び方!

「なんとなくですが、ユキノとタクト殿を交えて三人というのは、嬉しいですね」


 イースは笑顔で話す。


「その……王妃の事は今迄通り、王妃と呼べば良いか?」

「そうですね。御義母様とは言えませんものね」

「あぁ、頑張ってみたが、どうしても『義母かあさん』になる」


 俺が『義母かあさん』と言うと、イースは一瞬固まる。


「その響き、新鮮ですね。今迄、呼ばれた事がありません。もう一度、呼んでいただけますか?」

「……義母かあさん」


 イースは悦に入った表情を浮かべていた。

 余程、この呼び名が気に入ったのだろうか。


「タクト殿、親族等だけしか居ない場合、これからは『義母かあさん』と呼んで下さい」


 ……呼べと言われれば呼ぶが、俺的には『御義母おかあさん』と呼びたかった。

 何故、『御』が付けれないのか。尊敬語でも【呪詛:言語制限】が発動する。

 友人との会話で、「お前ん家の母さん」と行った話し方をしているのは確かだ。

 決して「お前ん家のお母さん」と言うような話し方を、前世の俺はしていないから、その影響なのかも知れない。


「分かった。これからは義母かあさんと呼ぶ事にする」

「はい」


 イースは嬉しそうだった。

 交換条件として、如何なる時でも俺の事は『タクト』と呼ぶように頼むと、了承してくれた。


「それで、タクト。結婚式やその後の事を、話し合いましょうか」

「そうだな」


 俺はイースに以前、城で働いていた王宮治療士筆頭のエンヤと出会って、ユキノの成長に関わった人々に、ユキノの姿を見せるのは当たり前の事だと思い、その事を告げる。

 ユキノは勿論だが、イースやルーカス達が国民へのお披露目が必要と言う事であれば、俺は喜んでそれに従う事も告げた。

 イースは、俺に「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にした。


 まず、城の大広間で行う関係者のみでの結婚式。

 その結婚式には、情報を扱う大手三社を呼び、記事を書かせる。

 グランド通信社は、四葉商会の写真を使うので当然、四葉商会のフランは撮影をする。


 その後、城から国民に向かっての顔見せを行い、王都でのパレードと俺の出身地でのパレードとイースに言われるが、俺に出身地など無い。

 敢えて言うならゴンド村になる。普通であれば領主の息子等になる為、それなりの都市になるのだろう。

 ゴンド村でパレードをするのは無理がある。

 ましてや、魔族と暮らしている訳なので、取材も出来ない。

 ゴンド村には俺から説明をするという事で、リロイが領主を務める『ジーク』で行うことにする。


 本来であれば、大々的に行うので各地の領主が集まるのだが、今回それは遠慮して貰う事にした。

 但し、ルーカスの姉であるフリーゼには挨拶に行く必要があった。

 ユキノから、結婚式前にフリーゼへ挨拶に行く事を告げてもらうことにした。


 俺が、スタリオンを倒してユキノを正式に嫁にする事を宣言したとしても、用意に一月は必要らしい。

 俺の関係者で呼ぶ者達を教えて欲しいというので、四葉商会の従業員と、ゴンド村から村長のゴードンとゾリアスを代表として呼ぶ。

 後は、ジーク領主のリロイと夫人であるニーナの二人と、冒険者ギルドからシキブとムラサキに、トグルとイリア。

 それろ今、王都で修行中のライラだ。

 流石に、アルとネロは呼べない。


 イースが、一番世話になっている方とか忘れていないかと聞かれて、エリーヌが思い浮かぶ。

 世話になっている以上に、迷惑をかけられている方が多いはずだが、一番に頭に浮かんだ事が癪だった。

 ユキノにも、エリーヌやモクレンと顔合わせが必要なので、今度【神の導き(改)】で話をする事にする。


「ユキノは、ユイに新しいドレスをデザインして貰えよ」

「はい。タクト殿の好きなデザインで結構です」

「……いや、それはユキノが自分で考えて、俺に綺麗なドレス姿を見せてくれ」

「分かりました」


 ユイのデザインであれば、問題ないだろう。

 俺もユキノのデザインに合わせた服を新調する事にする。

 御披露目会の内容は大体決まった。


「御母様。私はそこで、王位継承権を辞退する事を告げれば宜しいでしょうか?」

「そうですね。前例はありませんが、それが一番良いかと思います」

「そうすると、ユキノの立場はどうなるんだ?」

「タクトが爵位を受取った段階で、その爵位の夫人という扱いになります。そうでなければ、普通の国民です」

「俺は爵位を受ける程の功績は無いから、普通の国民という事だな」

「今の所はそうかも知れませんが、爵位を受けるのは時間の問題だと思います」


 イースは、冒険者としての俺の功績や、商人としての功績を踏まえれば十分過ぎると話す。

 イースとしては、国民だと不安があるので、出来れば警備体制の整っている貴族等になって欲しいと、親としての意見だった。

 確かに、イースの意見は当たり前だと思う。

 元王女が、普通の町で暮らすなんて事は想像出来ない。

 あくまで普通での話だ。

 一番の問題は、今現在であればこの住居問題だろう。

 ゴンド村だと発表すれば、ゴンド村に大勢の人々が押し寄せて、魔人と生活している事が大々的に広まる。

 そう考えれば、ジークで暮らしている事にするのが、一番安全だ。

 仮とはいえジークで暮らす事は、マリー達と同居という形になる。

 事前に相談が必要だ。

 あくまで、相談という事だがほぼ決定事項になるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る