第387話 聖女!

 ユキノの称号『聖女』について聞く為、ターセルを訪ねる事にする。

 勿論、ユキノも一緒だ。


「珍しいですね。タクト殿から、連絡を頂くとは」

「ターセルにしか頼めないからな」

「私にしか?」

「あぁ、悪いがユキノのステータスを見てくれないか。見れば、俺が聞きたい事が分かる筈だ」

「承知致しました。ユキノ様、失礼致します」


 ターセルは、ユキノのステータスを覗く。


「これは……確かに気が付きませんでした。頻繁にステータスを覗く訳ではありませんし、ましてやユキノ様ですので、本当にたまにしか確認しておりませんでした。しかし、これは……」

「何か、気になる事でもあるのか?」

「はい、シャレーゼ国は人間族のみに人権が与えられている国なのは、御存知ですよね?」

「あぁ、勿論だ」

「その中枢に居るのが、人間族の神を『ガルプ神』だと崇めている『ガルプ教』なのです」


 ……又、ガルプの名前が出る。

 エリーヌが転生する時に、魔族ぐらいしかガルプを信仰する者が居ないと言っていたが、間違いなのか?


「その中で『聖女』こそが、ガルプ神の教えを伝える者として、信者に教えを伝えて最後には、自分の血や肉を神に捧げて去っていくとされているのです」


 完全にカルト教だ……。


「この事は、暫くは口外しないほうが良いでしょう。タクト殿の【隠蔽】で称号を隠しておいた方が良いですね」

「そうだな。助かった」

「いえいえ、これも私の仕事ですから」


 しかし、ユキノが『ガルプ教』から狙われるのは確実だ。

 俺と婚姻関係を結んだばかりに……。

 当たり前の事だが、命に代えてもユキノを守る必要がある。


「もし、ユキノが別の神の聖女だと知ったら、ガルプ教信者はどういう行動に出ると思う」

「異教徒と見なされて、殺害されるでしょうね」

「……やっぱり、そうだよな!」


 段々とガルプに対して腹が立ってくる。

 前世で大手取引先の社長が不祥事で辞任して、残された社員と下請けの俺達で、大して儲かる仕事でもない後始末を必死でやらされていた記憶が蘇る。

 モクレンに言って、ガルプに制裁を加えて貰いたい。


 自分の愛する女性が危険だと分かると、こんなにも不安になるのだと思う。

 とりあえず、ユキノに【隠蔽】を掛けて『聖女』の称号が見えないように施した。


 ユキノは、自分に『聖女』の称号がある事に気がついていないのか、俺とターセルが何の話をしているか分からないようだ。

 俺はターセルに相談をする。

 まず、レベルは俺とパーティーを組んで上げるが、知識については王宮魔法士から勉強させて欲しいという以前に俺が考えていた内容についてだ。


「そうですね……確かにそれが一番良いかと思いますね。しかし、治療系魔法であれば、シロ様の方が詳しいのでは?」

「そうなのか?」

「はい、多分ですが」


 俺は早速、シロに呼んで確認する。


「はい、私で宜しければ御教え致しますよ。御主人様と冒険しながらでも可能ですし、御希望であれば夜にでも御教え致します」

「そうか、ユキノはどうしたい?」

「はい、昼間はタクト様と冒険させて頂いて、夜は御迷惑でないのであればシロ様に教えを請いたいと思います」

「……そんなに張り切らなくてもいいぞ」

「いえ、少しでもタクト様や他の皆様のお役に立ちたいので、頑張らさせて頂きます」


 ユキノは、やる気のある仕草をする。

 本人がやる気があるのであれば、俺がそれを否定する事は出来ない。


「シロ、頼めるか?」

「はい、御主人様」

「シロ様、宜しく御願致します」

「はい、ユキノ様」


 冒険というか、討伐に出るのであればルーカス達の許可も必要になるので、許可を貰いに行く事にする。


「……タクト殿、ちょっと宜しいですか?」


 ターセルが真剣な顔をしていた。


「なんだ?」

「その、ユキノ様とタクト殿のステータスを確認した際に、婚姻関係があるのですが……」


 ……そういえば、ステータスを覗くという事は、婚姻関係も知られるという事だ。

 聖女の事で頭が一杯だったので、完全に失念していた。

 ユキノを見ると、嬉しそうな顔をしている。

 早く、皆に教えたいのだろう。


「例のスタリオンの件があるので、国王には内緒にしている。王妃にアスラン、それとヤヨイには話をしている。時期を見て、国王には話をするつもりだ」

「そうでしたか。タクト殿、ユキノ様おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 ユキノは、先程以上の笑顔で答える。


「悪いが、ターセルもこの事は他言無用で頼む」

「承知致しました」

「ところで、ターセルは俺がユキノと婚姻関係になっても驚かないんだな?」

「はい。私としては、いずれはと思っておりましたし、タクト殿を嫌っている訳でもありませんので、好意的に受け止めております」

「そうなのか。それは、ありがとうな」

「いえいえ」


 ターセルとの話を終えると、一緒にルーカスの元へ行く。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「お主が一緒なら、危険は無いのだろう?」

「あぁ、王女であるユキノを危険に晒す事はしない。シロをユキノの護衛につける」

「そうであれば、問題ない」


 ユキノが治療士になり、レベル上げ必要な魔物討伐の許可をあっさりと承諾して貰えた。


「タクト!」


 話が終わった俺にアスランが話し掛けて来た。


「ん、どうした?」

「その迷惑でなければ、私も討伐を見学させて貰えないですか?」

「……どうしてだ?」

「冒険者ランクSSSであるタクトが、魔物を討伐する姿を見てみたいと思っています」

「そうか、国王の許可が出れば別に俺は良いぞ」

「アスラン、気をつけて行って来い」

「……そんな簡単に許可を出して良いのか?」

「いずれは、アスランにも経験して貰う事だったしな。丁度、良いだろうと思っておるぞ」

「そういう事なら、別に良いが……」


 上手く利用された感があるな。

 それよりも、イースにはユキノが『聖女』である事は伝えておく必要があるので【念話】で話し掛ける。


(王妃、聞こえるか。タクトだが、そのままで話を聞いて欲しい。実は俺と婚姻関係を結んだ事により、ユキノが『聖女』になった。ユキノ本人は気付いていないし、俺が【隠蔽】のスキルで分からないようにしている)


 イースは俺を驚いた表情で見る。


(この件は、俺とターセルに王妃だけしか知らない。公にすれば、シャレーゼ国から目を付けられるとターセルにも忠告を貰った)


 イースは大きく頷いている。


(婚約が関係している事なので暫くは、国王には内緒にしておいて欲しい)


 再度、イースは頷く。


 俺は、冒険者ギルドでクエストを受注してくるので、アスラン達には冒険の準備をして貰う。


「タクト様、私は何を着れば良いですか?」


 確かに、治療士成り立てのユキノは装備を持っていない。


「タクトよ。代金は我が出すので、街でユキノの装備を揃えてくれるか?」

「分かった。ユキノ、目立たない服に着替えてくれ」

「はい、タクト様」

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