第386話 海鮮料理!

「これ、なんだ?」


 宿屋の夕食を見て、俺は驚く。

 今迄の主食であるパンでなく、あきらかに米だと思われる物が出されていた為、思わず宿の者に質問をしてしまった。


「はい。あっ、お客様は旅人ですか? この国の主食で、米という穀物になります」

「これは、市場で手に入るのか?」

「はい、勿論です。お客様はエルドラード王国から来られたのですか?」

「あぁ、そうだが良く分かるな」

「それは、米を知らないのであれば他国からの旅の方になります。旅の方は、大体エルドラード王国からですからね」


 確かに、シャレーゼ国とは貿易等を行っていないので、商人や旅人も少ないのだろう。

 しかし、シャレーゼ国は他国と貿易を行っていない。それなのに会議に参加するという事は、主に軍事関係での交渉しか無い。


「この街の名産があれば教えてくれるか?」

「そうね。魚と言いたい所だけど、今は……」

「クラーケンか?」

「そうなんです。帝都の海軍任せだけど、なかなか動いてくれないんですよ。こっちは死活問題だっていうのに!」

「帝都の事情って訳か」


 三国会談がある為、余裕が無いのかは分からないが、話を聞く限り本気で討伐する気が無い感じがしていた。


 しかし、この料理は旨い!

 今迄、肉料理が多かったせいもあるんだろうが、魚料理が新鮮に感じる。

 俺の好きな味付けなので、余計にそう感じるのかも知れない。

 米が食べれる事は、俺にとって大きな収穫だった。

 魚料理も、どれだけレシピがあるかは分からないが、もし調理方法が焼き魚しかないのであれば、俺の知識で他の料理を作る事も可能だ。

 新しく美味しい物を食べれるかと思うと、胸が躍る。

 今度、ビアーノやガイルと食材調達に行くのも面白いかと考えてみる。


「この魚、部屋でも食べたいんだが、包む事は出来るか?」

「はい、別料金だけど良いですか?」

「あぁ、頼む」


 一応、保存食として確保する。

 注文を終えると、隣の席の男が酒のつまみに注文したであろう料理が目に入る。

 ……あれって、ホタテだよな。

 貝類も食べられる事を知ると、反射的に追加注文していた。

 これは是が非でも、クラーケンを討伐して食材確保をしなければいけない。

 いつでも食べれるように今度、ユキノにもレシピを教えておこうと思う。

 ……いや、そもそも王女のユキノは、料理というか家事全般をした事が無いんじゃないのか?

 俺としては、ユキノの手料理を食べたいと思うので、一度聞いてみるが期待は出来ない。

 ユキノが料理出来なくても、俺がすれば良いだけだ。


「あっ、タクト!」


 入口で俺の名を呼ぶ声がする。

 ルーミー達だった。


「もう、酔いは覚めたのか?」

「あぁ、醜態を晒して面目ない」

「もう一度、呑むか?」

「いや、遠慮しておく。それよりも同席いいか?」

「あぁ、構わないぞ」


 ルーミー達が席に着くと、食事を運んできた。


「ルーミー達も、この宿だったのか?」

「あぁ、そうだ。それよりも、連れの女の子は部屋なのか?」

「おぉ、部屋で休んでいる。疲れたんだろうな」


 シロを食事に誘ったが、昼間に買った魚で良いと言うので、部屋で食事をしている。


「ランクSSSのタクトだから多分、大丈夫だと思うが気をつけた方がいいぞ」

「ん? なにがだ」

「宿の入口付近で、ガラの悪い奴等が此処を見張っていた」


 ……さっきのベレルとかいう奴等の仲間か?


「多分、俺が目的だろうな」

「何故、分かるんだ?」

「両替所で両替する所を見られていたから、大量の金貨を持っている事を知られている」

「……成程な。そういう事なら納得出来る。それで、どうするんだ?」

「何もしない」

「えっ!」

「向こうが俺に危害を加えなければ、俺から仕掛ける事はしない。もし、俺から仕掛けたら俺の立場が不利になるからな」

「……確かにそうだな」


 ルーミーが黙ると同時に、テリオスが「流石です!」と俺を褒める。


「まぁ、何人で襲って来ようが、返り討ちにするから大丈夫だ」

「流石は、ランクSSSですね」

「ところで、こんな遅くまで何をしていたんだ?」

「あぁ、オーフェン帝国の冒険者ギルドに登録していた」

「又、最下位のランクからなのか?」

「いや、一応冒険者ギルド同士で、他国に行った際の取り決めがあるみたいで、エルドラード王国のランクと同等のランクが引き継がれる」

「そうすると、ランクBのまま冒険者が出来ると言うことか?」

「そうだな。これでどちらの国でも、活動は可能になった」

「……移籍じゃなくて、両方で活動出来るという事なのか?」

「あぁ、勿論だ。但し、どちらかは必ず活動停止にしておく事が条件だがな。ランクA以上の冒険者だと、両方の冒険者ギルドに登録しているものが多いと聞くぞ」

「そうなのか、初耳だな。かなり為になる情報を提供してくれたので、好きな物を追加で頼んでいいぞ」

「本当ですか!」


 ルーミーより先にテリオスが反応して早速、注文をしていた。

 ルーミーとクオーレは、俺に謝るが「気にするな」と返す。


 オーフェン帝国の冒険者ギルドに登録すれば、クラーケンを討伐して今以上に海鮮料理が食べれるという事になる。

 三国会談の終了と共に、オーフェン帝国の冒険者ギルドに登録しようと心に決める。

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