第379話 就職相談!
ゴンド村を訪れた次の日に、四葉孤児院を訪ねて、子供達に綿菓子を食べさせると皆、喜んでくれた。
子供の無邪気な笑顔を見ていると、こちらまで笑顔になる。
「タクトさん。これ、子供達からです」
サーシャから俺は、数枚の絵を渡される。
「良く描けているでしょう」
紙には俺らしき人物と、ユキノらしき人物が描かれていた。
「子供達から、孤児院を建ててくれたお礼です」
「そうか、ありがとうな。大事にするよ」
子供達の提案にフランとユイが協力したようで、俺が次に来る時までに渡すと、真剣に描いてくれていたようだ。
絵の構図から、以前に撮影したユキノとの写真を参考にしているようだ。
子供達は習っていない文字で、一生懸命に『ありがとう』と書かれていた。
横に居たユキノも喜んでいた。
やはり、子供達には最低限の教育を受けさせてあげたい。
サーシャに文字や計算は教えているのかと聞くが、サーシャ自身も学がある方では無いので、簡単な事しか教えられないと答える。
先生というか家庭教師が必要だな。
年長組と思われる男女が俺の所にやって来た。
何か言いたそうだが、俺の前に来ると女の子は緊張の為か言葉が出てこないようだ。
一緒に話をしようとでも約束をしたのだろう。
男の子は心配そうに、女の子を見ていた。
「どうした?」
俺の方から話しかける。
「実は、僕達もタクトさんの所で働けないかと思ってまして……」
話をした男の子は『ティオ』、隣の女の子は『プレセア』だとサーシャが教えてくれた。
ふたりとも世間的には働ける年齢に近い為、仕事を探していたが孤児院出身という事で、なかなか仕事が無く悩んでいたそうだ。
たしかに、既にフランの下で働いているミランダよりも年上な感じがする。
孤児院からも、そろそろ卒業して自分で稼がなくてはいけない年齢らしいが、前世の感覚だと小学生高学年から中学生くらいだろう。
フランとユイから、四葉商会で働く事を勧められた事もあり、四葉商会で働けないかと本気で考えていたそうだ。
色々な事が判断出来る年齢なので、俺に話し掛けるのにも勇気が言っただろう。
「ふたりの得意な事は何だ?」
「僕は計算は苦手ですが、御客様の相手等でお役に立てるかと思います」
ティオは、緊張が解けたのか、はっきりと話をする印象だ。
自分の得意な事と不得意な事を答えられるという事は、それだけ自分の事を理解しているのだろう。
一方のプレセアは引っ込み思案なのか、ティオとは反対にオドオドした感じだ。
「プレセア。タクトさんに自分の事を言わないと、雇ってもらえないよ!」
ティオは、話をしようとしないプレセアを急かす。
「大丈夫ですよ。急がなくても良いので、ゆっくりと話して下さい。タクト様は、待っていてくれますから」
ティオの言葉で余計に怯えてしまったプレセアに対して、ユキノが優しく声を掛けた。
「……私は何をしても駄目なので、得意な事はありません。小さい子達の世話も、ティオ達のように上手に出来ませんし……」
今迄が失敗ばかりしていたので、自分に自信が無いみたいだ。
「それなら、好きな事は何だ?」
得意な事が無いのであれば、好きな事を聞いてみた。
『好きこそ物の上手なれ』という言葉もあるくらいだ。
暫く考えていたが何も無いのか、なかなか話そうとしない。
サーシャに目を向けると、プレセアの代わりに話をする。
「プレセアは、優しすぎるんです。いつも自分の事は後回しにして、なんでもやろうとするので、失敗が多いだけなんです」
「……そんなことありません。他の子達は、きちんと出来ています」
俺が【適材適所】で、得意な仕事を確認しても良いが、子供の可能性は幾らでもあるので今後、変わる可能性もある。
今の段階で使うのは避けるべきだろう。
質問を変えて聞いてみる事にする。
「では、やりたい事は何だ?」
俺の質問に対して、すぐに答えるかのように顔を上げたが、そのまま何も話をしなかった。
「誰も笑いませんから、言って下さい」
優しい口調でユキノは、プレセアに話し掛ける。
「……治療士になりたいです」
「治療士か……。俺のところだと、難しいな。それに治療魔法を習得しないといけないよな」
「……はい。無理なのは分かっています」
「どうして、治療士になりたいんだ?」
プレセアは、憧れの職業でもある治療士への思いを話し始めた。
孤児になる前、プレセアは父親とのふたり暮らしだった。
父親は、一生懸命働いていたが家は貧乏だった。
そんな時に、父親が倒れる。
村には治療士が居無い為、大きな街まで行かなければならなかったが、薬を買ったり治療士に診て貰うような金貨は、プレセアの家には無かった。
日に日にやつれていく父親を見ることしか出来なかったプレセアだったが、冒険者一行が村を訪れて、治療士が父親を治療してくれた。
但し、もう既に治療士ではどうしようもない状態だったようで、泣きながらプレセアに謝っていたそうだ。
父親は、その数時間後に安らかな顔で亡くなった。
冒険者一行はジークに戻る途中だった為、プレセアを不憫に思いジークまで連れて来てくれて、治療士が暫く面倒を見てくれていた。
しかし、その数週間後に冒険に旅立った冒険者達は、プレセアが待っていた宿に冒険から戻ってくる事は無かった。
クエストの失敗と、冒険者達の死亡が確認される。
たまたま、冒険者のひとりがサジと知り合いだった為、宿の主人から相談があったので、プレセアを孤児院で引き取る事にしたそうだ。
「そうか、治療士の知り合いは俺に居ないしな……」
「私は知っていますよ」
確かにユキノなら知っていると思うが、王宮絡みなのは間違いない。
一般庶民が、おいそれと頼めるような事でもない。
「ふふふ、タクト様。大丈夫ですよ、お城での関係者ではありません」
「そうなのか?」
「はい。でも、王都の店になりますので……」
「あの……治療士になれるのであれば私、どこへでも行きます」
プレセアは先程とは違い、はっきりと自分の意見を言う。
職業には適性検査があり、皆が自分の相性の良い職業を選択するのが通例らしいが、特殊職業でなければ、普通に仕事に就けるそうだ。
あくまで自分の向いている職業を教えてくれるだけなので、なりたいと思っている職業がはっきりしているのであれば、適性検査を受ける必要は無い。
但し、あくまで自己責任になる。
「分かったが、そこだと俺がどうこう出来ないからな」
「はい!」
真っ直ぐな目で俺を見る。
「ユキノ、そこまで案内を頼めるか?」
「はい」
俺達はプレセアを連れて、孤児院を出ようとするとティオが「一緒に行きたい」というので、断る理由も無いので、一緒に行く事にした。
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