第376話 飛行艇!

「おい、これは何だ?」


 城の庭に俺が用意した馬車? を出すとルーカス達は驚いている。


「馬車を補修しようと思ったが、造り直した方が早いので造り直した」

「ここに来たのは確か、五日程前だった筈だが?」

「そうだが、何か問題でもあるのか?」

「この短期間で、これだけの物を造ってくるとは……」

「そこは、企業秘密だな」


 ターセルは【鑑定眼】でドワーフ族製だと気付いている筈だが、何も言わずにいた。

 扉を開けて、馬車? の中を披露する。

 中を見ると、先程以上にルーカス達が驚いていた。


「操作するには、この球を触る」


 居住空間とは別に、ふたり座れるだけの小さい操縦部屋を設けた。

 そのうち、誰か操縦士を選定して操作に慣れて貰う必要がある。


 各々が好き好きに、色々な所を触って確かめていた。

 俺はその様子を見ている。

 最初、横にはユキノが居たがヤヨイに連れられて中の様子を確認していた。

 入れ替わるようにアスランが俺のところに来る。


「見なくて良いのか?」

「はい。今回、私は同行致しませんので戻られてから、色々と感想を聞かせていただこうかと思います」

「そうか。アスランも、今見た段階で気になる事があれば教えてくれよ」

「はい」


 ユキノと結婚すれば、アスランは義兄になる。

 こんな言葉使いしか出来ないのが、本当に申し訳ない。


「タクト殿、実は相談というか御聞きしたい事がありまして……」

「なんだ? 俺で分かる事であれば答えるぞ」

「そうですか、実は……」


 アスランの相談事と言うのは、ユキノの事だった。

 ここ最近ずっと、にやけた顔で何かを思い出しては笑ったりして、使用人達と接する時もハイテンションなので、妹のヤヨイと心配しているそうだ。

 話を聞こうとしても、笑いながら「秘密です」としか言わないそうだ。

 もしかしたら、俺なら原因を知っているかと思ったらしく、ユキノに気付かれないようにヤヨイと相談して、ここに来たそうだ。


 ……確かに原因は俺だ。プロポーズされた事が余程嬉しかった為、幸せを噛み締めているのだろう。

 まだ秘密にしておく必要はあるが、必要以上に騒がれても困る……さて、どうしたものか?

 仕方が無いのでルーカスには申し訳無いが、俺なりの方法で今回の解決方法を取らせて貰う事にする。


「アスラン、ユキノがそうなっている原因を俺は知っている」

「やはり、そうですか! それで、原因を教えて頂けますか?」

「その事なんだが、王妃とアスランそれに、ユキノとヤヨイの四人を集めてくれるか?」

「それは構いませんが、父上は?」

「出来ればまだ国王には、秘密にしておきたい」

「……そうですか、タクト殿が言われるのであれば、なにかしら考えがあるのですね」

「まぁ、そうだな。それよりも俺を呼ぶときは、呼び捨てでいいんだぞ」

「あっ、はい。分かってはいるのですが、なかなか……」

「今、呼んでみてくれ」

「えっ、今ですか!」


 俺が敬語や丁寧語を使えないのであれば、せめて義兄になるアスランには、俺の事を呼び捨てで呼んで欲しい。


「タ、タクト」

「そうだ、もう一度!」

「タクト」

「もう一度!」

「タクト!」

「これからは、そう呼んでくれ」

「分かりました、タクト殿。あっ!」


 一瞬にして俺への呼び方が戻ったので、ふたりして笑う。


「召集の件は、父上に分からないようにします」

「悪いな」

「いえいえ、ユキノの様子が心配ですから……」


 ユキノの事を心配してくれているアスランとヤヨイには、本当に申し訳ないと思う。

 アスランと話をしている途中に、ルーカスがやって来てこの馬車に乗って飛んでみたいと言う。

 それよりも『馬車』では無いので、『飛行艇』と勝手に名付けた。


 街の者に見られて大騒ぎなるのを防ぐために飛行艇に【隠蔽】を施してから、皆を乗せて空へと飛び立つ。

 窓から街を見下ろしたりして、皆が興奮しているのが操縦席からでも分かる。


「ユキノも後ろに行っても、いいんだぞ?」

「いいえ、ここで結構です」


 俺の隣にいるユキノに声を掛けるが、操縦席で俺の隣に居る事を選んだ。

 雲の上まで、高度を上げる。


「タクトよ、あれは何じゃ?」


 操縦席の扉を開けて、ルーカスが俺に声を掛けてきた。

 窓から指をさす方向を見てみると、飛行艇を避けるように雲が散っていった。


「あれは、クラウドスパイダーだな」

「何だと! あの希少種か。しかし、よく知っているな」

「あぁ、それは討伐した事があるからな」

「……お主は本当に、常識を超えておるな」

「国王、あれを見てください!」


 イースがルーカスに、雲の切れ間からの地上を見るように話しかける。


「あれが、我が国なのか!」


 ルーカスは、子供のように大騒ぎしている。

 高度を下げて、エルドラード王国を大まかに見て回る。

 国土は確かに広いが、空からなので好きに見て回れるので俺としても、今後【転移】で移動出来るので都合が良い。


「あそこは、姉上の領土になるのか?」

「姉上?」

「あぁ、私の姉でフリーゼと言い、ピッツバーグ家に嫁いでおる。あそこに見える『ネイトス』がそれだ」


 下を見るが小さな街だ。ルーカスも都市とは言っていない。


「国王には兄弟は、いないんじゃなかったのか?」


 以前に、クーデターの首謀者でルーカスの従兄弟のライテックの事件の際に、兄弟はいないので、ルーカスとアスランを亡き者にすれば、自分が国王になれると言っていた気がするが……。

 王位継承順位の問題なのか?


「男兄弟は居ないが、姉はいるぞ」

「そうなのか……それよりも国王の姉が、この小さな街に嫁いだという事は、なにかしら事情があるようだな」

「……お主は、本当に勘が鋭いの」


 ネイトスは、エルドラード王国が侵略して吸収した比較的歴史の浅い領地で、国への反発を押さえ込む為に、戦略結婚としてフリーゼを嫁がせたそうだ。


「そうか、国王の姉も肩身が狭くて不自由な生活で大変そうだな」

「いや、それはない!」


 ルーカスは即答した。

 フリーゼは男勝りの性格で、剣術等も嗜んでいる事もあり、ルーカスも頭が上がらないらしい。


「確かに御義姉様は、国王に上からものを言える唯一のお方ですからね」


 イースが嬉しそうに話をした。ルーカスの事で何度か相談した事があるのだろう。


「そういえば、御義姉様が今度、王都に来ると言っていましたわね」

「何じゃと! 我は聞いておらんぞ」


 ルーカスは一気に焦り始めた。


「アスランが目を覚ました事を伝えたので、その件かと思いますわ」

「……成程の」


 余程、フリーゼが苦手なようだ。

 幼少時代のトラウマなのだろうか?

 先程まで、はしゃいでいたルーカスとは対照的だった。


「……姉上が来た際は、お主も同席して貰うから覚悟しておいてくれ」

「何故だ?」

「アスランの件であれば、【呪詛】を解除したお主を呼ぶのは、当たり前の事だ」

「そういう事なら仕方ないが、覚悟って言うのが気になるな?」

「それはだな……」


 フリーゼは、躾に厳しく言葉使いが気に入らないだけで、叱咤するそうだ。

 それに、アスランやユキノ、ヤヨイを実の子のように幼い頃から可愛がっているので、ユキノが俺を慕っている事を知れば、絶対にひと悶着起きるだろうと推測していた。

 スタリオンの事を話しただけで、自分が倒すと言っていたくらいの溺愛ぶりらしい。

 それよりも一番の問題は、自分より強い者を見ると絶対に戦いたくなるという『戦闘狂』でもあるそうだ。


「完全に、俺が怒られて戦わされる状況になるよな?」

「あぁ、そうなる事は目に見えておる。悪いが頼むぞ」

「いや、頼まれても……」


 その状況にならないと、なんとも言えないが俺が相手をしないといけないのは、何となく分かった。


「タクト様、大丈夫ですわ。伯母様でも、タクト様には適いません」


 ユキノは、自信満々で俺に話し掛けて来た。

 俺はユキノの顔を見ると、結婚する試練だと思った。


「それなら、俺達がネイトスに行った方が良いんじゃないのか?」

「確かにそうじゃな。まぁ、行くならこの飛行艇に乗って、姉上を驚かせてやる」


 ルーカスは、ひとりで笑っていた。何か思いついたのだろう。



「そろそろ、戻るからな」


 俺の言葉に、ルーカスは残念そうだった。

 地上で皆を降ろして、ルーカスに三国会談の事を尋ねる。


「俺は会議に参加しなくて、いいんだよな?」

「そうじゃな、お主が参加してくれれば言う事は無いが、参加してくれるのか?」

「いや、ジラールが国王から、三国会談参加の指名クエストが発注されていると聞いたから、確認しただけだ」


 普通であれば、『三国会談の王族の護衛』のクエスト名称になる筈だが、今回は『三国会談への参加』らしい。


「そういう事か。確かに依頼内容が異なっているが、護衛以外も含んでいるから、そのようになったのじゃろう」


 護衛以外という事は、スタリオンとの闘いも含んでいるのは分かった。


「会議には参加しなくていいんだよな?」

「まぁ、そうだな。困った事があれば呼ぶから待機はしておいてくれ」


 ルーカスの話ぶりだと、俺を呼ぶ気があるのだろう。

 俺の知らない間に、話を進められていたのかも知れない。

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