第374話 喜びと不安!

 部屋を出た俺は、馬車の補修があると言ってユキノと別れ、王都から近くの丘まで【転移】する。

 ひとりで心を落ち着かせるためだ。


 色々と考えた結果、一番の問題は俺だという事は分かった。

 今まで通りに、女性達と接する事が出来ないからだ。

 気にならなかった容姿等に対して、過剰に反応してしまう。

 徐々に慣れていくしか対策方法は無い。

 【呪詛:色欲無効】は解除されたが、別の【呪詛】を掛けられた気分だ。

 俺が変によそよそしくしてると、変な誤解を与えないかと心配もする。

 だからといって、【呪詛:色欲無効】があったので今まで性欲がありませんでしたと発表すると、逆に性欲が戻ったと警戒心を与えて、俺が性欲の溺れた危険人物になったと言う間違った認識を与える恐れがある。

 実際は、目を見るだけでも緊張するかも知れない。

 ……そういえば、エリーヌに初めてあったときは、それほど緊張せずに話を出来た事を思い出した。

 とりあえず、今回の事をエリーヌに報告する為、【神との対話】で連絡をする。


(はいは~い、エリーヌだよ)


 今の俺にはエリーヌの、この能天気さが物凄く羨ましい。


(なんで、連絡したか分かるよな?)

(勿論だよ、死の世界に行った件だよね)

(……違う。お前はモクレン様に叱られても、全然反省していないな)

(えっ! 何のことよ)

(あのな、【呪詛:色欲無効】が解除された)

(嘘! タクト、良かったじゃん)

(その口ぶりだと今、知ったようだな)

(……はい。だけど、大体そんなにタクトを監視ばかりしていられないでしょう、私はタクトのストーカーじゃないもん!)


 確かに、エリーヌの考えにも一理ある。

 俺としても、エリーヌに私生活を監視されたくはない。


(そうだな、今回の事はモクレン様に黙っておくから、モクレン様に連絡してくれないか?)

(いいよ、ちょっと待っててね。そうだ、【呪詛:服装感性の負評価】の解除条件はやっぱり、愛してくれている人との接吻だったよ!)

(そうか、わざわざ調べてくれていたのか?)

(そうよ。色々と忙しい中、調べてあげたんだからね)

(俺の監視以外にも、色々とやる事はあるんだな)

(も、勿論よ! 私にも色々とやる事があるわよ)


 エリーヌは、本当に仕事しているのか?

 エクシズを管理するのがエリーヌの仕事だと思うが、それ以外にも何か別の事を抱えているのか?


(良かったですね、タクト)


 モクレンの声が聞こえた。


(ありがとうございます。解除条件が分かりませんが、何だったのですか?)

(それは、まだ分かりませんが、分かり次第報告致しますね)

(そうですか、【呪詛】も解除された事ですし今更、解除条件を聞いても意味が無いので、急いで報告頂く必要無いですよ)

(あら、そうなのですか。タクトが早急な報告の必要が無いのであれば、私としても構いません)

(そうですね。それよりも他の【呪詛】を解除して欲しいので、出来ればそちらの解明を急いで欲しいですね)

(分かりました)


 モクレンは、残された【呪詛】を解除する様に力を注ぐことを約束してくれた。

 解除条件は、ユキノにプロポーズをした時なので、その何かが関係しているのだろうと推測は出来ていた。

 エリーヌの事だから聞かなくても、そのうち話すだろうと思っている。

 モクレンは、今回の事を上級神であるアデムにも報告しておくと言ってくれた。


(ところで、オーカスとの件ですが近々、話し合いの場を設ける事になりました)

(そうですか、宜しく御願い致します。それと、もうひとつ御願いしたい事があります)

(なんでしょうか?)


 俺は、エルドラード王国の初代国王である『フレッド・エルドラード』の事を話す。


(……そうですか。そんな状況になっていたのですね)

(はい。魔王の称号は特に気にしてませんが、魔王同士の戦いと世界の終わりがという記述が、気になります)

(こちらでも、確認致しますがガルプにも困ったものですね)


 モクレンは、小さく溜息をつく。

 初代国王の件はガルプのせいでも無いと思うが、上司への報告や初代国王に嘘をついていた事を問題視しているのだろうか?


(それでは、宜しく御願い致します)

(はい、進展ありましたら連絡致しますね)


 モクレンと【神との対話】を切る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「御主人様、良かったですね」

「主とユキノ様が御婚約とは従者として、私も嬉しく思います」


 シロとクロにも、ユキノとの事を自分の口から、きちんと報告しておく。


「ふたりとも、今迄通りだから特に気にする事は無いからな」

「はい、御主人様」

「承知致しました」

「ありがとうな」


 シロとクロの礼を言う。


「しかし、アル様達はこうなる事を予想されていたのですかね?」

「何故だ?」

「ゴンド村に、御主人様の部屋とは別に私とクロさんの部屋を用意してくださいましたから」


 成程な! しかし、アル達はそこまで深く考えてはいなかったと思うが……。

 ユキノと結婚すると言う事は、ゴンド村に住めなくなる事だってありえる。

 四葉商会の代表も、マリーに譲る事を今迄以上に真剣に考えなくてはいけない。

 王族との癒着等と、難癖をつける者が出てくるのは必然だ。

 俺の事で、俺に関係した者達が不利益を被る事だけは、なんとしてもそれだけは避けなければならない。

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