第373話 告白と……!

 全員が部屋から出て行くのを確認して、俺は大きく呼吸をする。


「ユキノ、俺の話を少し聞いてもらってもいいか?」

「はい」


 ユキノはいつも通りの笑顔で答える。

 俺は自分が別の世界から来た転移者だという事を最初に話をして、転移前の前世でどの様な生活をしていたかを覚えている限り幼少時代から細かく話した。

 そして、転移した理由は神であるエリーヌからこの世界を良くしてほしい事、エリーヌの名を広める事等を、全て隠さずに話した。

 【呪詛】のせいで、突然死する可能性があるような不安を煽る事も含めて話す。

 ユキノに本当の俺というものを理解して貰えるようにだ。

 聞いているユキノは、表情一つ変えずに俺の話を聞いてくれていた。


「驚いたか?」

「はい、タクト様が私に昔の事を話して頂けたので、とても驚いてます」

「……いや、俺の過去の事もそうだが、別世界から来た事とか、もっと驚くところがあるだろう?」

「タクト様が別の世界から来たとはいえ、私の愛したタクト様には変わりありません」


 平然と話をしていたが、不意に恥ずかしい発言をした事に気が付き、顔や耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。

 いつも「お慕い申し上げる」等と平然と言っていたのに、「愛」という言葉とさほど違う意味があるとは思えないが「慕う」には尊敬の意味がある筈なので、「愛」とはっきりと口に出した事が恥ずかしかったのかも知れない。

 俺はそんなユキノを見て、外見だの中身だのを一番気にしていたのは、俺自身だった事に気が付いた。

 よく考えれば【呪詛:服装感性の負評価】に関係無く俺に接してくれていたユキノが、別の世界から来た事くらいで気持ちが変わる筈は無いのだろう。

 俺はユキノの何を見ていたのだろうかと、自分の愚かさを痛感する。

 いつも「身分は気にしない」等と偉そうな事を言っていた俺が、王族という身分を一番気にしていた。

 口では立派な事を言っていたが、いざ自分の問題になると無意識のうちに逃げていた只の臆病者だった。

 【呪詛】を口実に、愛だ恋だのとは関係ないと、自分に言い訳もしていた。

 仮に感情が無くても一緒に居て、心地良いと思えたのであれば俺も好意を持っていたに違いない。

 それに女性であるユキノの口から、告白のような事まで言わせてしまった事に申し訳ないと思った。

 俺のような男にここまで好意を寄せてくれている女性に対して、俺の都合だけでユキノの気持ちを蔑ろにしていた。

 改めて自分を分析すると、酷い人間だ。

 こんな男に今迄一緒に居てくれたユキノに感謝するのと同時に、確かめておくことがあった。


「……俺が意識を失っているときに、キスをしたか?」


 俺なりに自信のない確証はあったが、間違っているといけない。

 ユキノは恥ずかしそうに「はい」と答えた。

 キスをした理由は、以前にイースから力を与えるおまじないと聞いていた為、自分に出来る事はキスくらいしか無いと思い、俺にキスをしたそうだ。

 俺は話し終わったユキノの腰に手をやり、耳元で「ありがとうな!」と呟き、ユキノを抱きしめる。


「タクト様!」


 ユキノは驚きながらも、拒まず俺に身を寄せた。


「ユキノ、俺がスタリオンにユキノの婚約者として宣言する。だから、その……結婚してくれないか?」


 下を向いていたユキノが顔を上げて俺の顔を見る。

 多分、俺の顔も先程のユキノのように真っ赤になっているだろう。

 愛や恋などの感情が無くてもプロポーズは恥ずかしい。

 既婚者は皆、これを乗り越えてきたのかと思うと尊敬する。


「はい!」


 涙を流しながら、俺のプロポーズを受けてくれた。

 俺はユキノを強く抱きしめる。


 何かが弾けるというか、壊れた感じがした。

 頭の中というより、身体全体と言った方が正しい。


「……タクト様」

「あっ、悪い。痛かったか?」

「いえ、その……下腹部にタクト様の……」


 ……下腹部に俺の? 言われて気が付いたが、俺のモノが大きくなっていた。

 この世界に来て、初めての勃起だ! ということは、もしかして……。

 ステータスを確認すると【呪詛:色欲無効】が無くなっている。

 解除条件が何だったのか分らないが、とりあえず【呪詛】が無くなった事だけは確かだ。


「……タクト様」

「あっ、悪い!」


 ユキノから離れる。

 恥ずかしそうに顔を赤らめているユキノを見ると、物凄く可愛く感じる。

 さっきまで見ていたユキノと同じ筈なのに、全く違う感じがする。

 【呪詛:色欲無効】で性欲が無くなった影響なのか、愛や恋等の感情が無くなっていたが、その感情が戻ったのだろう。


「タクト様、どうかされましたか?」


 ユキノの可愛さに見とれていた俺に対して、不思議そうな顔で声を掛けてきた。


「えっ、いや、そのユキノが可愛くて見惚れていた」

「……そんな」


 先程まで普通に出来ていた事が、恋愛経験の乏しい俺には出来ないでいる。

 ユキノは勿論だが、四葉商会の従業員達への接し方にも、多少なりとも影響が出るだろう。

 とりあえず分かっている事は、ユキノは可愛いという事と、俺もユキノが好きだという事実だ。


「とりあえず、部屋の外に出るか」

「はい」


 ユキノとの事は、暫くは秘密にしておく事にした。

 今、話すとルーカス達が大騒ぎするのが確実だ。


「ユキノ、悪いが今は国王達には黙っておいてくれるか? 俺の口から近いうちに必ず報告するから、頼む」

「はい、タクト様がそうしたいと仰るのであれば、私は全然構いません」


 そう笑顔で応えるユキノも可愛かった。

 女性免疫の無い俺には、破壊力抜群の笑顔だ!

 俺は冷静さを装いながら、大型の馬車を【アイテムボックス】に仕舞い、ユキノと一緒に部屋を出る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る