第370話 外見と中身!

 ヘレフォードに、副代表であるオージーの事を聞くと、大きく溜息を付いた。


「身内の恥で恥ずかしいのですが……」


 オージーは副代表であるが仕事の実績が無いに等しい為、何をしても上手くいかないらしく苦しんでいる。

 得意な事をさせようとしても、特に得意な事もなくヘレフォードとしても扱いに困っているそうだ。


「タクト様、何かいい案が無いでしょうかね?」


 アンガスのユニークスキル【適材適所】でもお手上げなのであれば、俺がどうこう出来る事ではない。

 オージーが、どういう考えを持っているのかさえも知らない。


「オージーの事をよく知らない俺に、なにか出来る事と言われてもな……」

「そうでしょうね……」


 ヘレフォードも、自分が一代で築き上げたグランド通信社が、オージーの代で大きく変化することを危惧しているのだと思われた。

 だからこそ、エイジンをオージーの右腕として実質の経営者として置いておきたかったのだろう。

 四葉商会は、マリーという頼もしい者を筆頭に、皆がそれなりの能力で仕事をしてくれている。

 四葉商会は世襲制では無いので、グランド通信社のような問題が起きる事は無いが、後継者問題は今は大丈夫でも今後どうなるか分からない所はある。

 早めにマリーに代表の座を譲っておくのもいいのかと、少し考えてみる。


「今度、オージーと話す機会があれば、それとなしに仕事について聞いてみる」

「宜しく御願致します」


 エイジンは、その後もヘレフォード達と話があると言うので、後で迎えに来ると伝える。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 グランド通信社からの帰り道、ジラールが俺の格好を見て「服変えたか?」というので「今迄どおりだ」と答えるが納得出来ていないようだ。


「間違いなく格好良くなっているぞ。そこの女性達もお前の事を噂しているぞ」

「俺の事を知っている奴なんて、そんなに居ないだろう?」

「何を言っている! ランクSSSなのに冒険者ギルドの人気投票を辞退して、オークロード討伐のパーティーの一員であるお前は噂の的だぞ」

「……全く知らないぞ」


 状況的に、俺は以前と変わっていない。【呪詛:服装感性の負評価】が無くなっただけだ。

 以前は歩いていても、「変な格好」等と陰口を叩かれていたが、確かに今はそういったことが無い。

 【呪詛】のせいだと分かってはいるが皆、俺を見た目で判断している。

 そういう意味で考えると、俺を外見で無く中身を見ていてくれたのは、四葉商会の従業員とユキノだけだ。

 こういう状況になると、改めて有難い事だと感じる。


「あっ、俺は投票の時にエルドラードに居ないかも知れないからな」

「それは聞いている。国王様からタクトに指名クエストが出ていたからな」

「そうなのか? 俺はまだ受けていないぞ」

「オーフェン帝国で開催される三国会談に参加するのだろう? 今、本部で処理している最中だ。いずれジーク経由で発注される」


 三国会談? それは大臣等の担当者同士での会議で、俺は違うはずだが……ルーカスに確認が必要だ。


「分かった。投票結果、気になるが仕方ないな」

「嘘付け! お前、全く興味なさそうだったろうが」

「そんな事も無いぞ」


 ふたりで、他愛も無い会話をする。


「そういえば、シキブが冒険者引退するかも知れないぞ」

「なんでだ? シキブよりレベルが高い者でも現れたのか? それとも、タクトがギルマスをやる気になったのか?」

「残念だが、両方とも違う」


 俺はジラールに、詳しい事はシキブに聞いてくれと言う。

 人気投票のイベントは始まっているが、投票自体が始まってしまうと問題が大きくなると思い、ジラールに話をしておく。

 但し、冒険者引退の理由を俺の口から伝えるのは違うと思ったから敢えて、その件には触れないでいた。

 ジラールは諦め顔でいたが、やはり人気投票の事に気が付く。


「人気投票はどうするんだ?」

「そこまでは俺も、聞いていないから知らないぞ」

「……最終受付は今日までだ。連絡無いと言う事は参加でいいのか?」

「俺に聞かれても困る。シキブに直接聞いてくれ!」


 ジラールは、その場でシキブに【交信】を使い連絡をする。

 まず、ギルマスの件を聞き、妊娠したこと報告を受ける。

 ジラールは、「そういう事情なら仕方が無い」と諦めていた。

 続けて、冒険者ギルドの人気投票の件を聞くが、シキブからの回答は『辞退』だった。

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