第371話 王でなく親として!

 他国に訪問する打ち合わせの為、城を訪れる。

 ルーカスから説明を受けるが、訪問予定の人数に驚く。

 ルーカスとイースにユキノ、護衛三人衆と俺の七人だけだ。


「少人数での移動が、当たり前だ」


 話を聞くと、大人数で移動するのは優秀な人材が居ないと言っているようなもので、基本少人数での移動となるそうだ。

 通常であれば、警護だけで二〇人前後の小隊で移動するらしい。

 人員を多くすれば臆病者だと思われ、逆に人員を必要以上に少なくして、暗殺等にあった場合は力量不足と判断され国の上に立つ資格が無かったと思われる。

 今回は俺が同行する為、この人数で問題無いそうだ。

 多分、他国へけん制の意味もあるのだろう。


「大人数での移動等、愚の骨頂だ!」


 ルーカスは、この人数での移動に拘っているようだ。

 そんなに信頼されて良いのか不安になる。


「会議の議題での担当大臣や、料理人達はどうするつもりなんだ?」

「それも、お主に頼むつもりだが問題でもあるか?」

「言っておくが【転移】は出来ないぞ。オーフェン帝国には行った事が無いからな」

「なんだと!」


 ルーカスは【転移】で、あっという間に行けると思っていたようだ。

 道中の警護が必要無いと思って、この人数にした事が分かった。

 ルーカスは、思惑が外れたので新たな案を考えているようだ。

 俺が今から【転移】と【神足】か【飛行】を使えば、オーフェン帝国内への【転移】を使っての移動は可能になるが正直、面倒臭い。


 陸移動が駄目なら、空移動でもすれば簡単だと思い【全知全能】に前世での飛行機に匹敵する乗り物は無いかを聞く。

 答えは『無い』だった。

 俺は質問を変えて、飛行機のような乗り物が造れるかを聞くと『可能』と答える。

 製造方法としては大量の『飛行石』を使い、乗り物を浮かべる方法。

 もうひとつの方法は、乗り物もしくは、道具に【飛行】のスキルを【魔法付与】する方法だ。

 但し、これには【飛行】のスキル経験者か、何度もその道具か乗り物で練習した者でしか扱えない。

 確かに、無免許で自動車の運転等は危険だから同じ事なのだろうと納得する。


「使わなくなった小さな敷物か、絨毯はあるか?」

「……多分、あると思うが何に使うんだ?」

「ちょっとした実験だ」


 ルーカスが、お付きの者を呼び絨毯らしき物を持って来させた。

 三人が座れるくらいの小さな物だ。

 俺は、絨毯に【魔法付与】で【飛行】を施す。


「ユキノ、ちょっとここに座ってくれ」


 ユキノは意味も分からずに、俺の指示通り絨毯に座る。

 俺もユキノの隣に座り、絨毯に触り『上昇』と念じると、その場で絨毯が浮き上がった。

 空飛ぶ絨毯の完成だ。

 思った以上に、不安定だったのかユキノが俺に抱きつく。

 そのまま『移動』と念じて、部屋の中を飛び回る。

 ルーカス達は、顔を上げて口を半開きにして、絨毯が飛び回っている様子を見ていた。

 暫く飛び回った後『下降』と念じると、絨毯は床の上で止まった。


「……おい、お主は何をしたのだ?」

「企業秘密と言いたいが、ターセルには御見通しなんだろう?」

「はい、このような使い方があるとは思いませんでした。画期的ですね」


 ターセルは、ルーカス達に俺がした事を説明してくれた。

 俺が説明するよりも丁寧に説明しているので、聞く者達も分りやすいだろう。


「馬車とかでも代用は可能だが、今の所は俺しか操作出来ないからな」


 ルーカスは、大声で笑い始めた。


「これは面白い。空から登場するなど前代未聞だろう!」


 エルドラード王国の技術力を、他国に見せつける事が出来ると思っているようで上機嫌だ。

 とても先程まで、落ち込んでいたとは思えない。


「これなら船で揺られることもなく、快適に移動が出来そうだ」

「……船? 今、船と言ったのか?」

「あぁ、そうだが? 海を渡るには船が当たり前だろう」


 オーフェン帝国へ行くには、海を渡るらしい。

 海ということは、魚が食べれる! 川魚や肉ばかりで少々飽き気味だったので嬉しい。

 前言撤回だ。俺が先にオーフェン帝国に行って食糧事情等も含めて確認をする事に決めた。

 もしかしたら、エルドラード王国には無い新しい食べ物があるかも知れない。


「タクトの話だと、何でも飛べる乗り物に出来るという事で良いのじゃな?」

「あまり大きな物は保証出来ないが、馬車位であれば可能だと思うぞ」

「それだけ聞ければ十分だ」

「一応、【結界】を張って、外部からの攻撃や転落防止は施すから安心して乗れると思う」

「流石じゃな、そこまで考慮してくれれば問題無い」


 ルーカスは何かを思いついたのか、大臣を呼ぶ。

 ターセルも交えて、三人で何かを話し合っている。

 嫌な予感しかしない。


 大臣がルーカスとイースを残して、俺以外の者を別の場所へと連れて行った。

 ユキノは残ると言っていたが、ルーカス達が諭すと諦めたのか皆と一緒に部屋を出た。


「人に聞きかれたくない会話という事か?」

「そうでない。国王と王妃で無く、娘を持つ親としてお主に確認をしておきたいと思っておる」

「……ユキノとの事か」

「そうだ、お主の気持ちを聞かせて貰いたいと思っておる」


 俺は正直に思っている事を正直に伝える。

 ユキノの気持ちには気付いている。

 しかし、俺は【呪詛:色欲無効】で恋だと愛だのという感情が無い。

 だからと言ってユキノの事は嫌いでもない。

 

「……【呪詛】が解除されれば、ユキノとの事は前向きに考えてくれるのか?」

「そもそも、俺の【呪詛】が解除されるかも分からないぞ」


 ユキノの幸せを考えるのであれば、早めに諦めて貰う事も視野に知れておいた方が良い。


「お主の事情は理解したが、ユキノが嫌いで無ければその……一緒に居てやってくれないか」

「それは、結婚して王族の一員になれと言う事か?」

「お主が王族になるのを嫌がっているのは、勿論知っておる。出来る限りの事はするつもりだ」


 俺は回答に困った。

 恋愛感情が無いまま、ユキノと結婚する事は確かに出来る。

 しかしそれは、ユキノの愛情に対して応えていない事になり、ユキノに失礼な事だ。

 王族の家系になるのが嫌だと言うのは俺の我侭だが、ユキノと結婚すると言う事は俺の我侭が通らない事くらい承知している。

 勿論、ルーカスやイースが親として、娘のユキノの事を心配しているのも分かっている。


「女性は好きな人と、一緒に居たいと思うものなのです」


 そう語るイースは母親の顔だった。


「国王達の言いたい事は理解出来るし、親としての気持ちも、よく分かる。只、悪いがこの場で答えを出すことは出来ない……」


 断る事は、当然出来る。

 しかし、断らないのは多少なりとも、俺自身のユキノに対して何かしらの気持ちがあるのだろうが、それが何なのか俺自身分からないでいる。

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