第359話 親の敵打ち!
「タクト! 大変なの、助けて!」
アルとネロとで、新しい家の事やらで話している最中に、フランから慌てた声で連絡が入る。
「ザックとタイラーが、それにトグルさんやリベラまで……」
「とにかく落ち着け、すぐに戻るから今何処だ?」
「街の門の所……」
俺は【交信】を切り、アルとネロに急用が出来たとだけ伝えて、【転移】で魔法都市:ルンデンブルクに戻った。
「何があったんだ?」
門の所には、フランとマリーが居た。
フランに事情を聞くが、動揺しているのか話の的を得ないので、マリーに説明をして貰う事にした。
リベラが今朝、目を覚ますとザックとタイラーの姿が無く、トグルと一緒かと思い気にしていなかったが、朝食の際にトグルに会うと「知らない」と驚いていた。
何かの事件に巻き込まれている可能性もあるので、従業員総出で捜索に出る。
フランが俺への連絡をしようとしたが、トグルから連絡しないように言われたらしい。
俺はダウザーからの急な依頼中の為、「余計な心配をさせるだけだ」と言っていたそうだ。
「それで、ザックとタイラーは見つかったのか?」
数時間前に、ユイが街の門で人だかりが出来ているのを発見したので、嫌な予感がして人だかりの中の様子を見ると、傷だらけのタイラーが倒れていて、ここまで運んでくれていた商人と衛兵が手当てをしていた。
急いでトグル達に知らせると、リベラが最初に着きタイラーと少し話をしてユイに「タイラーを御願いします」と言って街の外に飛び出していったそうだ。
それからトグルが到着して、タイラーと話をした後にユイにリベラの事を聞かれたので、街の外に出て行ったと伝えると、リベラを追いかけるように街の外に飛び出していった。
タイラーは安心したのか、その後気を失った。
ユイは今も、タイラーに付き添っているそうだ。
「応急処置のおかげで一命を取り留めたけど、かなり酷いわ」
「タイラーは、何処だ」
マリー達に案内をされて、衛兵の休憩所に行くと治療士がタイラーを治してくれていた。
ここまで運んでくれた商人に礼を言い、マリーに名前等を聞くように頼み、衛兵と治療士にも礼を言って、王家の紋章を見せて治療を変わって貰う。
たしかに息はあるが酷い怪我だ。明らかに誰かに遣られた傷だ。
俺は【治療】と【回復】を同時に掛けると、タイラーは苦痛の顔から穏やかな顔になった。
フランは、リベラに連絡を取っているが、連絡が着かないでいる。
俺もトグルに連絡を取るが、同じように連絡が着かない。
仕方ないので、無理矢理タイラーを起こす。
衛兵や回復士は、驚いていた。俺の姿が悪魔にでも見えたのだろう。
目を覚ましたタイラーは、状況が分らずに周りを見渡していたが、何かを思い出した様子で俺の腕を掴んできた。
「兄ちゃん、ザックがザックが」
「落ち着け、何があったかを詳しく話してくれ」
タイラーの話だと、昨夜の食事会でトイレを探していると、俺とダウザーの話を偶然耳にした。
『六本腕の魔物』とダウザーが話したことで、そのまま盗み聞きをしてソルデ村付近に居る事を知る。
ザックに話をして、親の仇でもある『六本腕の魔物』を自分達で討伐すると決意する。
ルンデンブルク家の使用人に、ソルデ村の地図や行き先を聞いてリベラが寝た後に、一旦は街の外に出ようとしたが夜は他の魔物に襲われる可能性もあったので、朝早くに街を出たそうだ。
ソルデ村までは、子供の足では一日以上は掛かる。
魔物に出会う事も無く、順調にソルデ村に向かっていたが、途中にある森で少し休憩していると老人らしき人物が森の中に入って行くのを見かける。
もしかして、『六本腕の魔物』と一緒にいる老人かと思い、後をつける事にする。
老人は、どんどんと森の中に進んで行く。
森の中には、小さな建物があり老人はその中に入って行った。
扉が開いていたので、中を確認するが誰も居ないのでザックとタイラーは、そのまま建物の中に入る。
その瞬間に、後ろの扉が勝手に締まる。
タイラーが開けようとするが、鍵が掛ったかのように扉は開かない。
「ようこそ!」
部屋の奥に、先程の老人が上機嫌でザックとタイラーに話し掛ける。
その横には、親の仇でもある『六本腕の魔物』が居る。
ザックとタイラーは、怒りが抑えれずに襲い掛かるが、老人が持っていた杖で、簡単に弾き飛ばされる。
「クニックス、暴れていいぞ!」
クニックスと呼ばれた『六本腕の魔物』はザックとタイラーに襲い掛かる。
トグルに稽古をつけて貰っているとはいえ、所詮は子供の力だ。
クニックスに敵う筈も無い。
ザックとタイラーは、ボロボロになりながらも、止めずに攻撃を続ける。
タイラーは殴られた勢いで、壁に穴を開けて外に飛び出す。
「タイラー! お前は師匠か兄ちゃんを呼べ!」
ザックがタイラーに、俺かトグルに連絡を取るように言う。
タイラーは言われた通りに【交信】するが、繋がらない。
「無駄だよ。ここ一帯は【交信】出来ないように細工をしている」
老人は嬉しそうに話す。
「タイラー、そのまま師匠達を呼びに行け!」
「……でも、ザックが」
「いいから!」
タイラーは、傷付いた身体で、逃げるように走り出す。
「まぁ、あの傷であれば魔獣に襲われるか、運よく森を抜けたとしても、そこら辺で死ぬから問題無いだろう」
老人は未練が無いかのように、タイラーを追わなかった。
その後、森を抜けたタイラーは、偶然通りがかった商人に助けられたらしい。
……トグルとリベラは、ザックを助けに行ったという事か!
しかし、クニックスがザック達の親の仇だったと今、聞かされるまで気が付かなかった。
不用意に、ダウザーと立ち話をしたことが裏目に出た。
今回の原因は、俺の不注意だ!
「任せろ! ザックを助けてやる」
一刻を争う事態なので、立ち上がりザックの救出に向かおうとすると、
「兄ちゃん、俺も連れて行ってくれ」
「お前は、怪我が治ったばかりだろう。ここに居ろ」
「だけど、ザックにもしもの事があったら……御願いだよ、俺も連れて行ってくれ」
力一杯、俺の腕を握り涙を流しながら訴える。
「分かった。だが、お前は絶対に戦うなよ。【結界】で安全な場所を作るからそこからも動くな。約束出来るか?」
「兄ちゃん、ありがとう!」
マリー達に後の事を頼んで、タイラーを連れてザックを救出する為に街を出た。
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