第349話 贈り物!
王都研究所に向かうと、当然とばかりにユキノも着いてくる。
もう、何を言っても無駄なので何も言わない。
王都を、歩いていると肩掛け鞄が目に入る。
大きさもそれなりに大きいが、マリーが持っていても違和感は無いと思う。
小さな鞄でも問題ないのだが……。
「お客様、贈り物ですか?」
店主が、俺とユキノを見ながら、営業スマイルで話しかけて来た。
「まぁ、そうだな」
鞄の質感などを確認していると、ユキノは自分に貰えるのかと勘違いしているのか、嬉しそうにしていた。
マリーの仕事用の鞄を選んでいるだけだと伝えると、残念そうにしていた。
いつもの事だか、勘違いして勝手に落ち込んでいるだけなので、俺に非は一切無い筈なのだが、俺が悪いような気持ちになるのは何故だろう……。
店主に、ユキノに似合う物を数点選んで貰う。
ユキノに、買ってやるので好きな物を選べと言うと、喜んでいる。
案の定、俺の選んだ物なら何でも良いと言うが、ユキノが選ばないなら買わないと伝えると悩みながら、巾着袋を選んだ。
巾着袋を手に持つ姿を見て、
「ユキノに、似合っているな」
何も考えずに思った事を口にすると、ユキノは照れていた。
ユキノの姿を見て、マリーにも好みがあるのと思い鞄の購入は、後日マリーに選ばせる事にした。
店内には、鞄の他にも雑貨が幾つか置いてある。
ひと際目立つ様に置かれている髪飾りが目に入り、店主に言って持ってきてもらう。
髪飾りを手にしてみるが、細工も綺麗にされている。
特に飾りの部分が、雪の結晶をモチーフにしたガラス細工なのか綺麗な六角形をしていた。
「お目が高いですね。それはドワーフ族が作った一品です。」
ザルボの工房に似たような物が置いてあった気もするが……。
もしかして、ザルボの作った品なのかも知れないと思うと、購入したくなる。
「髪飾りと袋を買って頂ければ、少し安くしますよ」
店主の営業トークが始まる。
値切り交渉をしてもいいが、ザルボが作った品かも知れない物を値切るつもりは無かった。
それに、ユキノへの贈り物を値切るつもりも無い。
……あまりにも法外な価格であれば別だが適正価格と判断出来れば、言い値で支払うつもりだ。
「ユキノ!」
ユキノを呼び、髪飾りを当ててみる。
「よくお似合いですよ!」
店主は、終始笑顔だ。
ユキノは、照れているのか頬が赤い。
「この髪飾りと、袋を貰おうか」
「有難う御座います。お包みしますか?」
「いや、このままでいい」
「分かりました。少々、お待ち下さい」
店主は、その場で購入金額を俺にこそっと伝える。
妥当な金額だと思ったので、その場で支払う。
それなりに高い品だったので、奥から店主の妻らしき女性が出てきてふたりで、金貨を数えていた。
その間、店の中を見渡していたが、この髪飾り以上の物は無かった。
「はい、確かに受け取りました。ありがとうございます」
店主が、無事に支払い完了したことを告げた。
店主の妻が、俺にしか聞こえないような小さな声で話し掛けてきた。
「お客さん、早く彼女に付けてあげなよ」
「……自分で付けれるだろう?」
「こういうのは、付けてあげるのが良いんだよ」
若干、呆れたようだったがユキノを見ると、俯いたままでいる。
髪飾りが付けやすいようにしてくれているようだ。
俺は、店主の妻に言われた通りにユキノに髪飾りを付けてやる。
「よくお似合いですよ」
店主の妻は、嬉しそうにユキノに話しかけると、ユキノは恥ずかしいのか無言でお辞儀をしていた。
店主と、その妻に挨拶をして店を出る。
ユキノから、巾着袋は一旦預かり【アイテムボックス】を【魔法付与】する。
盗難対策として巾着袋と髪飾りに【道具契約】を施して、ユキノに返す。
ユキノは、何をしたのか分からない様子だが、簡単に使い方を教える。
「ありがとうございます。大事にします」
巾着袋を大事そうに触っている。
そんなユキノを見ると上げて良かったと思う。
前世の俺なら、女性に髪飾りを付けるなんて事は、緊張して出来なかっただろう。
【呪詛:色欲無効】のせいで、恥ずかしくもなく出来る事が良い事なのか悪い事なのかの判断も出来なかった。
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