第348話 奇妙な事件の報告!

 王国の治療部屋が、一杯になる。

 原因は、血瘴香中毒の村民達だ。

 自傷行為がないように、王都の治療士達が大忙しで動いている。


 地下牢獄にはカルアが【結界】を張り、一応その上から俺も【結界】を重ね掛けしている

 投獄されているのは、ランドレスとその一味だ。

 ターセルの鑑定では、逃げ出す事は不可能だと言っていた。


 俺は今回の件を、ルーカスに報告をする。

 主犯はランドレスと吸血鬼族のアマンダ。

 魔香炉という道具で、血液を媒体にして、意のままに操れる者を作る実験をしていた事。

 その為、村民が血を抜かれて殺されていた村があった事。

 ランドレスが、村民同士を戦わせて賭け事をして、女性は弄んで居た事。

 アマンダは、吸血鬼族の長でありヴァンパイアロードのセフィーロが、始末した事と今後、同じような事件が起きないように魔香炉を破壊した事を伝えた。

 血瘴香中毒の治療には、六花草が良いとシロが採取してきた六花草を出すが、治療には数が足りないかも知れないと補足をしておく。

 報告をしながら思ったが、人質の保護やランドレス達の捕獲はクロが全て対応した。

 治療に必要な六花草は、シロが採取してきた。

 本来の目的であるランドレスの討伐は、セフィーロが睨んだだけで終了した。

 ……今回、俺は何もしていない気がする。


 俺からの報告を受けたルーカスは、毎度の事ながら頭を抱えていた。

 当然だろう。ヴァンパイアロードまで出てきたのだから、国の一大事だ。


「あぁ、セフィーロは今回の件でこれ以上、人族に危害を加えるつもりはないから安心していいぞ」

「……本当か?」

「本当だ。但し、吸血鬼族に危害を加えたら、速攻で攻撃に来るから気をつけろよ」


 敢えて、魔王より強い事やネロの母親等の情報は伏せておく事にした。

 ランドレスの根城が、研究施設だった為、もしかしたらもっと北の都市が本当の拠点だったかも知れないので、調査員を派遣して貰うように頼んだ。

 保護した者達の詳しい検査の結果を聞く。

 女性の奴隷達は、やはり重度の血瘴香中毒だったそうだ。

 村民の中にも同様に、重度の血瘴香中毒者がいるらしく、完治するには一年以上掛かる。

 俺の予想通り、正気に戻った際に家族や親しい者の姿が見えない為、混乱している者が居るみたいだが、ルーカスがランドレスの処刑を既に決定している為、被害者はランドレスに直接会う事も出来るらしい。

 しかし、直接会った所で状況が変わるわけでもないし、自分でランドレスを痛めつけたり出来る訳でもない。

 会っても文句を言う事くらいしか出来ないだろう。

 後始末が大変そうだが、それは俺の仕事では無いし、出来る事は無いだろう。


 ターセルが一旦席を外して、渡してあったカメラを持って戻って来た。

 ルーカスが写真を見ようとするので、出来れば王妃達には見せない方が良いと助言する。

 写真を見たルーカスは、俺の言った意味をすぐに理解した。

 目を覆いたくなる惨劇だが、ルーカスは一枚一枚をしっかりと確認しながら見ていた。

 見終わると、王子であるアスランに渡し、護衛三人衆へと回覧していった。


「……酷いな」


 大きな溜息の後、一言呟いた。


「俺の報告はこれだけだ。他に聞きたいことは無いか?」


 写真の衝撃が大きかったのか、特に質問も無かった。


「それじゃあ、俺は帰るから村民達を宜しくな」

「責任持って治療するから、安心してくれ」


 ルーカスは元気の無い声で、俺の言葉に返してくれた。


「もう、ジークに戻るのか?」

「いや、魔法研究所に一旦寄ってから、帰るつもりだ」


 ルーカスは何か言いたそうだったが、言葉を呑み込んだように思えた。


「アスランにユキノ。タクトを送ってやってくれ」

「はい」


 別れの挨拶をして、アスランとユキノの三人で部屋を出る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あそこでは、言えない話か?」


 アスランに尋ねる。


「そうですね。言えない事もありませんが……」


 俺に伝えたかった内容とは、『奴隷制度』の事だった。

 奴隷制度廃止の話をすると、貴族達からの反発が凄かったそうだ。

 貴族の中でも、ルーカスの意見に同調する者も居たが、奴隷商人と密な関係にある者は自分の利益が減る為、断固として反対していたそうだ。


「まぁ、そうだろうな。奴隷商人という職業がある限りは、反対派は存在するだろうな」

「えぇ、今回の事もそうですがタクト殿には、無理なお願いばかり聞いてもらっているのに、申し訳ないと思っているのだと思います」

「俺もすぐに廃止に出来るとは思っていないし、こういう問題がある事も分かっているから安心しろ」

「そう言って貰えると、少しは楽になった気分です」

「但し、俺から言えることは奴隷商人と密な関係な貴族は、他の犯罪にも関与している可能性が高いと思うぞ」

「どうして、そう思うのですか?」

「俺の勘だ。因みに反対している貴族達を数人教えてくれ。暇なときに調査してみる」


 アスランは、数名の貴族の名を教えてくれた。

 俺は忘れっぽいのでシロとクロに、名前を覚えて貰う。


「主、早速調べますか?」


 クロが珍しく自分から意見を言ってきた。

 ランドレスの調査で、調査の面白さでも見つけたのか?

 クロにカメラを渡して、調査を頼む事にした。

 シロも負けじと、やりたそうだったが魔物の写真もあるので待機してもらう。

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