第297話 笑顔!

 ジークにフランを送り届ける。

 イリアには連絡をして、依頼された服が出来たので時間のある時に『ブライダル・リーフ』に寄ってくれとだけ伝える。

 マリーとリベラにはイリアが来たら、シロの布製写真とイリアの服を渡すよう頼んでおく。

 それと、従業員達の服も渡すと目を輝かせていた。

 仕事中なので、着替える時間が出来たら各自着替えて貰う事にする。


「ところで、ユイの仕事はどんな感じだ?」

「そうね、急ぎのデザインが無い時は今迄通り手伝って貰ってるわよ」

「少しの間、ユイが抜けると業務負荷が高いか?」

「ん~、そこまで高くは無いかな。今でも改善しながら色々と変えているからね」

「そうか、分かった」

「私達の事は気にせずに、ユイの仕事を優先でいいわよ」


 マリーが気を使ってくれる。

 ユイを呼び、マリーと一緒に近況報告を聞く。今はミラの服だけなので、忙しくはないそうだ。

 作ってみたい服をデザインしたりしているだけなので、仕事とは言えないと申し訳なさそうにしている。

 俺が仕事を取ってこないと、ユイの仕事が無いのは分かっていたが……ダウザー達や、王族に関してはユイと直接打合せしてもらった方が、効率が良いのかも知れない。

 『転移扉』が完成すれば、クララ達との打ち合わせも可能になる。

 それに、王都やルンデンブルク等の都市への移動も可能になれば、俺が関わらなくても問題無い。

 ただ、値段交渉やアラクネの報酬等は別問題だが……


「ユイ、仕事が落ち着いた後でいいから、新しい客になる王族を紹介するので、一緒に来てくれるか?」

「王族ですか! 私で良ければデザインさせて頂きます」


 驚きながらも嬉しそうに返事をする。


「良かったわね、ユイ」


 マリーも嬉しそうにユイを見つめる。


「出来ればマリーも一緒に来てくれるか?」

「えっ!」


 まさか自分も同行すると思っていなかったのか、驚いている。

 今後、『ブライダル・リーフ』に転移扉を設置すれば、王族やダウザー達が訪れる事になる。

 一応、管理者であるマリーにも同席して貰った方が、俺の負担が減るので助かると正直に話す。

 それに、ユイでは価格設定にも不安があるのでフォローして欲しい事も付け加える事にする。


「別にいいけど、『デザイン・リーフ』の店主はユイだから、あくまでもフォローするだけよ」

「助かる。ちゃんと賃金は払うからな」

「そんな事は気にしていないわよ」


 やはり、マリーなくして『四葉商会』は成り立たないと、改めて思う。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ユキノに連絡を取り、マリーとユイと一緒に王都に行くと既に、ユキノは待っていた。

街でも目立たない平民の服を渡すと感激して「すぐに着替えてきます」と言うので「今度、街に出た時でいい」と答えると、俺と一緒に街へ出かけれると思っているようで、嬉しそうにしていた。

 ダウザー達にも服を渡したいので居場所を聞くと、ルーカス達と一緒に居ると言うのでユキノと一緒にルーカス達の所まで行くことにした。

 部屋に入ると、王族とダウザー達ルンデンブルク家が揃っていた。

 ダウザー達に依頼されていた服を届けると大喜びで、すぐに試着していた。

 その様子をルーカスやイースは羨ましそうに見ている姿が、余りにも可哀想だった。


「国王達には、ここにいるユイがデザインするから打ち合わせをしてくれ」


 この言葉にルーカス以上にイースが喜んでいた。

 ダウザー達が試着終わると、ダウザーはルーカスに、ミラはイースにそれぞれ自分の服の試着を進めると、ふたりとも喜んで試着する。


「私は、タクト様の御厚意で先に作って頂けましたわ」


 ユキノが嬉しそうに先程渡した平民の服を見せびらかしている。

 話がややこしくなるので、黙っていて欲しい……

 ルーカスが「何故ユキノだけ!」と詰め寄って来る。


「王女であるユキノが街に出て気付かれたら危険だ。だから、気付かれない服を早急に仕立てるのが、必要だと感じたからだ!」


 正論で返すと、それ以上は何も言って来なかった。

 ユイはデザインの打合せを行いながら、俺は料金の話をする。隣でマリーにも聞いてもらい大体の金額を把握してもらう事にする。

 ルーカス達は金額以上の品なのは既に知っているので、金額についてはどうでも良いようだ。

 それよりもデザインが気になるようだったので、早々に話を切り上げられた。


「ところで、王家御用達の仕立て屋とかの仕事を横取りするけど、大丈夫なのか?」

「心配するな、御用達という所は無い。幾つかの店が試着品を持って来て、気に入った物に手を加えて貰ったりするくらいだ」


 俺は、代々王族の服は特定の仕立て屋が居ると思っていたので、少し驚いた。

 試着品を持ってくる仕立て屋も、それなりの実績があるからのだろう。

新規参入についても貴族の紹介や身辺調査等が必要な為、難しいのかも知れない。

 そういう意味では、俺は運が良い。

 この場は、マリーとユイに任せて、シキブとムラサキに服を届ける事にする。


 シキブとムラサキに服を渡すと、ダウザー達と同じ様に大喜びして、すぐに試着を始めた。

 金貨はジークに戻った時に貰う事で約束をする。

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